「巧ぃ…」



片手で枕を抱きしめて恐る恐るドアをノックする。
廊下は真っ暗。そりゃこんな真夜中なんだし真っ暗にもなるわけで。
きっと、寝てる。青波も真紀子さんも広さんも洋三さんも…そして巧も…ぜーったい寝てる。
それでもあたしは一人寝れなかった。
それは天気のせい。うん。


「ひっ…」


ほら、また鳴った。

駄目なんです。あたし、昔っから雷が。
怖いんです。いや、ホントに。
この音と光…もう、一人でいるなんて耐えられない。
寝れない。
中一にもなって怖くて寝れないんです!




「た…巧ぃ〜〜……」




涙目になりながらまた巧を呼ぶ。
部屋入りたい。でも勝手に入ったら怒られそう。怒られるのは、嫌だ。
巧、マジギレすると怖いし後が面倒だから。


「おねが…ヘルプミーっ!助けてください巧様ぁ〜…」


迷惑だろうな。絶対苛々してるよな。
そう分かっててもあたしはドアを叩くのをやめない。
だって…怖いんです!




「………夜中に迷惑」




出てきた!
あたしは嬉しくて不機嫌顔の巧に関わらず両手を握って嬉し涙を流した。


「………」
「………あ…」


そして巧の眉間に更に皺が寄ったのを見て、あたしはハッとして慌てて手を離す。
そうだった、巧はピッチャーで、手触られるの嫌なんだ。
ああ、あたしやってしまった。
嫌だな、巧に嫌われるの、


「…ごめん…なさい……」
「………で?」


しょんぼりするあたしを見て溜息交じりに頭をかきながら訊ねる巧。


「…えとですね…雷が怖くてですね…だからその…一緒にいてほしくてですね……」
「………何それ、子供じゃあるまいし。一人で寝ろよ」
「あぁぁあああちょっ、待ってーっ!」


部屋に戻ろうと背を向けた巧を止めようと慌てて腕…は掴めなかったから、服を掴んだ。
背中のところらへんの、服を。
呆れたように振り向く巧に懇願するようにあたしは見つめた。


「寝れないんす…ほんと…マジで………」


暫くあたしを無言で見てたけど、沈黙が辛いと思い始めた時に巧は溜息を吐いた。










「一緒に寝るなんて聞いてないけど」




巧の不機嫌さが増したのを声で確認できた。
怖い…でもほら…あたし…寝れないよこれじゃ…


「ほら…ついでで…青波を寝かすような感じで……」
「それで同い年の幼馴染と寝ろってわけ?」


部屋に入れてもらったのを良いことに同じ布団で寝ようとするあたし。
案外、巧は拒まなかった。(文句はタラタラだけど)
やっぱ、巧は優しい。うん。いつもはキツイけど、根は優しいってあたしは知ってる。
だから巧のこと嫌いになれないんだ。
自信家で捻くれてるから嫌う人もいるけど、そういう人は巧の本当の姿見てないから。


「くっつくなよ」
「ひぎゃあ!!」


巧が寝返りをうち背を向けた瞬間に空が光って音が鳴って、あたしは驚いて巧の背中にしがみついた。
あああぁあぁあああ…「くっつくなよ」って云われた瞬間に何してんのあたし馬鹿だ本当に本当に馬鹿だ。


「…俺の話聞いてた?」
「すんまっせんすんまっせんホント駄目なんです雷怖いんです怒んないでください嫌いにならないでください」
「…………」


今に始まったことじゃないけどあたしアホ。馬鹿でアホだ。
どうしてくれようか、この…頭っつーかもう、全てを。


むく、と巧が体を起こした。
……あ…これ、怒ったかな、絶対怒ったよね。機嫌悪かったもんね、あたしが無理矢理起こしたから。


「……心臓に悪い」
「へ?」


巧がボソリと何か呟いた。
けど、あたしは聞き取ることが出来なかった。
訊き返しても巧は何も云ってくれなくて、ただ静かにあたしに振り向いて、手を出した。


………わん?


巧じゃなかったら、そう云ってお手をするんだけど
巧は手触ったら怒るから、何も出来なくて首を傾げるばかり。



「………」



そんなあたしに巧の眉間に皺が…あぁ、増えちゃったよ。(どうして)
巧って、感情表現とか本当に苦手そう。(怒るのはよく分かるけど、嬉しいのとかさ)
必要以上のこと喋らないからもう、何考えてんのかさっぱりだよ。(少しはヨシみたいに騒がしくなってみ。あ、でもそれはそれで怖いな)

差し出されていた手が下りたかと思ったら、布団の中にあったあたしの手に布団とは違う、温もり。


「…………へ」


目を丸めて巧を見たけど、既に巧は布団に潜り込んでた。
顔は、見えない。背向けられてたから。


「………あの………」
「特別だからな。こうでもしないとお前、煩いままで寝ないだろ」
「………」


何だか笑みが零れた。
何でだろう、外はあたしの大嫌いな雷雨なのに、心は思ったよりも穏やか。
ほんわかしたような、感じ。



握られた手。
普段ちゃんと触ったことがなかったから、このとき初めてこんなにしっかりとした掌だったんだ、って知った。
右手なのに。ボールを投げる、ピッチャーにとって大事なほうの利き手なのに  握って、くれた。




「……へへ」
「笑ってないで早く布団入れよ。寒い」
「はいはい」
「くっつくなよ」
「えー暖かくなるんじゃない?」
「追い出すぞ」
「あ、すんません」















笑顔でいられる

君のおかげで


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