「………何この島」




ナミが不安げに呟いた。
ルフィは目の前の島に特等席に座りながら見渡して何か無いかと探している。


そう、森以外何もなかったのだ。



「海図とかないんだよね?」
「ええ、だからこの島が何なんだか…ロビン知らない?」


イオに頷いてからロビンに訊ねてみるが、彼女も知らないようで首を横に振った。
やけに静かなその目の前の島を見て怯えるウソップとチョッパー。
正直云って入りたくはない。何があるのか分からないのだから。


「おい…どうすんだよこれ」
「分からないわよ。でも確かにログはここを指してる。入るしかないじゃない」
「そうじゃないと先に進めないもんねぇ」


イオも暢気にそう呟いた。
「そうよね…」とナミは苦い顔をするが、既に選択肢はなかった。


「おい!早く上陸しよう!ここいても何も分かんねぇぞ!」


ルフィが急かすので、船は怪しいその島へと進んだ。






「村があった?」
「うん」


ナミ達があまりにも怯えているので、イオは風で空を飛びながら島一体を見てきた。
そして森の中を歩き進めると小さな村があるという。
人が住んでいることにホッとしたナミ、ウソップ、チョッパー。それにイオは笑った。


船番はいつも通りゾロがやることになり、他の船員は村に向かうまで行動をともにしイオを先頭に進んだ。
というより、イオも少し方向音痴のためアスカが先導した形だが。



「ここか?」
「うん」
「本当に小せぇな…」


着いた村は皆が思うよりもこじんまりとしたものだった。
田舎に住んでいたルフィやウソップが思う程の小さな村を何があるのかと見渡す。


「それじゃ、あとは自由行動でいいよね」
「そうね、あんたたち帰れるでしょ」
「おう」
「いやお前が一番不安だ」


ナミの問いに平然と頷くルフィにサンジが呆れながら呟いた。
イオが苦笑した。


結局各々やりたいことがあるので、別行動をとることになった。
ルフィはずっとワクワクしていたので冒険にでも出かけたと思われる。ウソップは武器に使う材料の調達だとか。
サンジはいつもどおり買い出しで、ナミはインクが切れたなどと呟いていたからそれを買って服の買い物でもするだろう。
チョッパーはロビンと本屋へ向かっていた。
そしてイオはというと、


(…参ったな、やっぱ僕もロビンとチョッパーと行動すればよかったかも)




迷っていた。



「んー…そもそもこの小さい村に図書館とかあるのかなぁ。とにかく参考になる本があればいい話なんだけど」


そう独り言を呟きながら歩きつづける。
本屋には元の世界へ帰るために調べる歴史書のようなものはないと判断し一人で行動することにしたのだが、間違っていたかもしれないと少し後悔する。
空から見渡してもきっと図書館がどれかなどとは見分けられないだろう。
とりあえず空から行けば帰ることは出来るのでいくら迷っても問題はないのだが、


「……あれ、」


人気が無くなってきたかと思えば、森にいた。


「お、おかしいな…」
『お前結構馬鹿だろ』


霊体で現れたアスカに呆れながら云われ何も返せなかった。
とりあえず歩を進めていると、木ばかりで特別な変化の見られない森が一気に開いた。



「――…綺麗…」



日が差し込むそこには丁度良いぐらいの大きさの泉があった。
澄んだ綺麗な水と日に反射された具合の美しさに思わず立ち止まってイオは呟いていた。


「こんなところあったんだ…さっき気付かなかったな」


空を飛んでいる時は村を見つけるなりすぐに船へ引き返してしまったから。
恐らくここは村の奥の森なのだろう。

イオは泉の側で腰を下ろすと、水を掬い一口含んだ。
喉を潤した後に「いい場所だなぁ」と微笑みながら呟き、少しだけここにようかと思ってしまう。
癒されているイオの横でアスカは特別何をするわけでもなく、ただ辺りを見渡していた。


『……おい、イオ』
「?」
『あれ見てみろ』


アスカの指差す先を目で追う。
泉の美しさで全く気付かなかったが、泉の奥の方には木々に隠れているが、いくつかの灰色のものが見えた。
ここから見ても分かる。少し形は変わっているが、


「……お墓…?」



少し気になって墓の方へ行ってみた。
見てみれば予想以上に墓が建ち並んでいて、不気味さに少し顔を顰めた。
あんな綺麗な泉の側にこんなに沢山の墓があるのも考えものである。


「何でこんなところに作っちゃうかなぁ。勿体無い」
『………――!』


頭をかきながらイオが呟くと、ジッと墓を見ていたアスカの表情が変わった。
かと思えば勝手に実体化しある墓の前で腰を下ろし、そっとそれに触れる。
刻まれている文字。イオには読めなかった。


「…………」


首を傾げているイオを横にアスカは何も云わずに墓を見ている。
それにイオも不思議に思い「どうしたの?」と声をかけてみた。
ごく、と息を飲み込む音。アスカには珍しい行為だった。




「イオ、これ――…   ティナの墓だ」




一瞬、何を云っているのだと目をぱちくりとさせた。
しかしアスカの驚きを隠せないような戸惑った顔と、古い記憶が蘇りイオも目を見開く。



「ティナって……僕の…母さん…?」



昔に教えてくれた、我が母の名。
頷いたアスカに、イオは思わず口元を手で覆う。

そういえば昔…微かな記憶。



自分は ここに来たことがある。




そうだ、初めてアスカが自分に笑いかけてくれた場所

初めて自分を受け入れてくれた場所

初めて、自分を優しく抱き締めてくれた場所




アスカとの、本当のスタート地点が  ここだった。





「え…?何で…何で母さんの墓がここにあるの…?だって、あの時は僕、まだあっちに――…」


そう。アスカとのスタート地点であるティナの墓に来たのは、まだ自分が異世界トリップをしていない頃。
まだ故郷…「神來国―アルヴェリー―」にいた頃である。

だからこそ混乱してしまった。
確かに今、自分はルフィ達と旅をしていて、しかも今さっきまで元の世界に戻る方法を探すためにこの島を散策していたのだから。


「…そうだ。確かにこの墓は神來国にあった」
「何で…?もしかしたら、墓の形が似てるだけで違う人のかも!ほら、あの時は辺りはこんな木生い茂ってなかったし――」
「1700年も経てば変わり果てもするだろ。村だって出来る。俺も最初は分からなかったが、この文字に墓の形見てピンときた」


アスカはティナの墓だという墓石に刻まれている文字を指差す。


「これは、ゼウスの造語だ」
「……ゼウスって、最高神の…」
「あぁ。この言葉はゼウスと神官しか知らねぇ。神でも恨み買われることはあったからな、誰かがその神だと知り墓荒らしたりしないためだ。神同士でも仲悪い奴はいたしな」
「……」

「それに、辺りをよく見てみろ。墓の形が同じのがあるだろ」


云われたとおりに沢山の墓を見てみる。
確かに幾つか同じものが見られた。ティナと同じ形のものも。


「実はバラバラに見えてこの墓は規則的に並んでる。そして墓の形は神によって変わるんだ」
「ということは…」
「たとえばこれはアテナ。同じ形の墓は先代のアテナ達。しっかりと何代目かも本名も記されてる」


神の本名を知るのはゼウスとその神の神官だけである。アテナの神官であり今までずっと一緒にいたというのだから、彼の云うことに間違いはないだろう。


「他の神の本名までは知らねぇが、知ってる名前ばかりだ。アレス、ヘラ、ヘパイストス、アポロン、ポセイドン――十二神全部揃ってるぜ、こりゃあ」


墓を見るなり神の名を挙げていく。それを聞きながらイオは呆然と立ち尽くすしかなかった。
アスカはそんなイオへ視線を向け、真剣な表情でイオを呼んだ。





「この島、神來国と何か関係があるぜ」













「とりあえずこの島を知らないと」
「村長とかいんだろ。村があるんだから」


アスカは実体のまま、二人で村長を探すことにした。
来た道を戻って森を抜ければ、すぐに人気の無い村が現れる。
そういえばルフィ達はどこへ行ったんだろう、ふとそんなことを思いながら適当に村を歩いてみた。


「おーい」
「?」


暫くしてから、どこからか老人の声。
辺りを見渡してみるがどこにも老人らしき姿は無くて首を傾げる。
聞き間違いだろうか。


「ここじゃここ!!お嬢ちゃん!!」


声の聞こえた方…上へ視線を向ける。
太い中々の大きさの樹の上…また太い枝の上にしがみつくように、一人の老人がいた。


「…………え、おじいさん?」
「助けてくれ!!降りれなくなったんじゃ!!」
「……」
「アホか…」


苦笑しながらイオは指を鳴らし、老人を風で運び怪我をしないようそっと地面に下ろした。
老人も最初は何故自分が浮いているのかと驚いていたが、


「ワシとうとう空を飛べるようになったわい!!」
「ちげぇよ」
「あはは…」


イオに助けてもらった自覚がないようだった。
元気いっぱいの老人にイオは何故あんな高いところにいたのかと訊ねてみた。



「うむ。鳥の卵が美味そうで取りにいったら、親鳥につつかれるわ降りれなくなるわでの」
「馬鹿かコイツ…」



だからそんなにボロボロなのか。
そう思いイオは苦笑しながら今度はやめてね、と云っておいた。


「お嬢ちゃん可愛いの〜ワシの家に泊まらんか?」
「下心が見え見えなんだよクソジジィ。殴んぞテメェ」
「こらこらアスカ」


鼻の下を伸ばす老人にアスカは頬を引きつらせはじめた。
仕舞には拳を作り米神に皺が寄っているので、イオが苦笑しながら宥め小柄な老人を見下ろした。


「おじいさん、僕達この村の村長を探してるんだけど知らないかな?」
「ん?ワシじゃが」
「……え?」


老人の言葉に思わず聞き返してしまう。





「ワシがこの村の村長、コレットじゃ」





「…ジジィ、嘘も大概にしやがれ、いい加減本当に殴るぞ」
「何ちゅー失礼な奴じゃ!!ワシみたいなモッテモテでダンディな男が村長じゃないわけないじゃろ!」


全く信じていないアスカに怒る老人改めコレットを見てイオも少し悩んでしまう。
けれど疑うのもどうかと思い云い争いをしている二人を止め、コレットに笑顔を向けた。


「僕イオ。こっちはアスカ。コレットさん、僕達ここの歴史書のようなものを探してるんだけど…何か知らない?」


イオが笑顔を向けると、コレットはアスカとは打って変わってだらしの無い笑顔を向けた。
アスカが後ろで気に食わない様子で舌打ちをしているのを聞きながらイオはコレットの返事を待つ。


「あるある!」
「本当?それちょっと見せてくれないかな?」
「イオちゃんなら大歓迎じゃ!うちに招待するぞ」


イオのおかげで何とかコレットもご機嫌に戻り歴史書を見せてもらえることになった。
少ない子供達が遊んでいたり仕事をしていたり、小さい村なりに楽しげに生活をしている様子に笑みを零しながら、イオはアスカを連れコレットに着いていった。


「イオちゃんはこの村のことが知りたいのか?」
「ん?…ちょっとね」
「ここは“神の里―ディヴィラ―”じゃ。何もない小さな村じゃが中々皆が充実した生活をおくっとる」
「…みたいだね」


先程の村人達を見れば分かる。この村を気に入ってるということも。
笑みを浮かべるイオの後ろでアスカは微かに眉を潜めた。


(“神の里”――…“あっち”での名前と変わらねぇじゃねーか)


神の墓がある区域があり、そこが“神の里”という名前だったのだ。
この名前は神來国にいた頃にもそう呼ばれていたもので、文化がそのまま来たと考えても良いだろう。
実際、建物には少しではあるが神來国の面影のようなものも感じる。


(まさかここ――…)








小さな家に到着してコレットに中へ招かれた。
一つのソファへドカリと腰を下ろすと、勝手に一息吐く。


「本なら奥の部屋にあるから勝手に見るといい」
「ありがとうコレットさん」


コレットの指差すドアへ向かい中へ入る。
幾つかの本棚に一軒家にしては多い量の本が入っていた。
一番端の本棚の上に分厚い本が数冊並んでるのを見つけ、イオは徐にそれを手にとり中身を見てみる。


「…あ、これかな」


イオは壁に寄りかかり覗き込むアスカにも聞こえるように本の内容を読み出した。


「『957年、何もない島を見つける。故郷を失った我らでこの島で村を作ることを決意』」
「957…500年以上前だな」
「結構古いね。えと…『たった一人の老人に出会い、ここには名前があることを知る。名前は“神の里”。我らはこの島をそう呼ぶことにした』」
「“神の里”か…」


アスカが島の名前を気にしていることに不思議に思いイオは横にいるアスカを見た。


「…あぁ、この名前はよ、神來国にいた頃から呼ばれてた名前なんだ」
「え。…じゃあ、ここに出てくる老人って……」
「恐らく、神來国の奴だ」


アスカは腕を組みイオの横で同じように壁に寄りかかると、「多分、」と続けた。


「この島は…俺達みたいに、島ごとトリップしちまったんじゃねぇか」
「島ごと…!?」
「そんでそこの老人は、たまたま“神の里”にいて一緒にこっちに来ちまった」


有り得る話であった。


「でも…小さい島とはいえ、土地は土地。結構大きいのに…こんなところまで持ってこれるのかな」
「実際持ってこれたんだろ。俺たちゃしっかりこの目で証拠を見てきたじゃねぇか」
「まぁ…」



とりあえずイオとアスカはもっと他に情報が無いかと本を探すことにした。
本は沢山あるために少し時間がかかる。
分厚い歴史書はイオに任せ、アスカはタイトルだけを見て簡単に本を探していた。


「…ん」

すると、アスカが一冊の本を見つけ手にとる。
つい先程久しぶりに見た文字……ゼウスの造語であった。


(まさかゼウスが…)


ゼウスが、書いた本だろうか。
アスカはぱらぱらと捲りながら本の中身を見る。
本のタイトルだけでなく中身全ての文字が造語であった。
それにこの蛇のように繋がる走り書きされた汚い文字は間違いなくゼウスのものである。


「!」


ある1ページで、ページを捲る手を止める。
森の中で見つけた、美しい泉の絵が描かれていた。
そのページを読んでからアスカは目を開くと、歴史書を読んでいるイオを呼ぶ。


「何?どうしたの?」
「聞け、」


こちらを見たイオにアスカは先程読んだ部分を読み出した。


「『随分と綺麗な泉を見つけた。俺はここを気に入ったし、ある仕掛けをしておこう。気付いた奴は凄ぇだろうな。これを知ってるのは俺だけだ』」
「綺麗な泉って…」
「さっきの泉のことだろう。ゼウスもあそこを見たんだ」
「仕掛けって?」


アスカはイオの問いに、再び本へ視線を下ろす。




「『ここは世界への出入り口にしよう』」





イオが目を開いた。
アスカは続ける。


「『俺も云ったことがねぇ世界だ。もしここ“神來国”に何かあった時はここから民を逃がせるようにしておこう。まぁ俺がいる限り“神來国”に何かあるとは思えねーがな』」
「……」
「『もし破滅的なことになろうが俺達神がいればいくらでも復活できる。その時また戻りたい民を“神來国”に戻せば良い。この泉より先の世界は非常口だ』」


アスカが一文を読み終えると、イオが立ち上がってアスカの持っている本を見に来た。
勿論、造語を知らないイオには読めるわけがないのだが、



「あの泉が…世界への出入り口ってことは……」
「…唯一の、“神來国”へ繋がる道ってことだ」



目を合わせ、二人で息を呑む。


「…ついでに云えば、ここに追記がある。『三日月が沈む夜明け、俺の力が無くても自由に出入りが出来る』とな」
「三日月が沈む夜明け?…って、確か今日三日月じゃ――」
「チャンス、ってことだ」


イオの胸がドクンと鳴った。
もしかしたら、“神來国”へ帰れるかもしれない。



それはつまり、ルフィ達との別れを意味していた。



















「ん!イオもう帰ってたのか!」
「うん…おかえり、ルフィ」


楽しげに船に戻ってきたルフィにいつも通りに笑顔を向ける。
コレットの家を出て船に戻った時はゾロしかいなかった。つまり島に行って一番最初に帰ってきたということ。

ルフィが帰ってきた頃には既に他の船員が戻ってきていて、ルフィが最後になっていた。
すぐに晩御飯を皆で食べた後、イオはなるべく皆に気付かれないように振る舞ってから部屋に戻った。


「………」


ルフィは勘が働くから、気付かれたら大変である。
他にもふと気付いて不思議に思う者がいる。

誰にも、気付かれちゃいけない。
皆には悪いが、黙って誰も知らないうちに帰ろうと思っていたから。


(…帰らなきゃいけないんだ。僕は、神で、あっちで民を守らなきゃいけないんだから)


何度もそうして自分に言い聞かせていた。



“ここに残りたい”



そんな事神として云えることは出来なくて
ただ、あの本に書かれてあることが嘘だと思うしか出来なかった。



『良いのかよ、そんなんで』



ふと、アスカが霊体で現れ声をかけてきた。
イオは特別驚くこともなくアスカには視線を向けず無言で頷く。


『後悔すんぜ。もう二度と会えねぇだろうから』
「そういう事云わないでよ!!」


彼女にしては珍しく、アスカに怒鳴っていた。
イオも相当余裕が無くなっているのだろう。
アスカは睨むイオに一つ溜息を吐いた。


「だって…絶対、みんなに止められたら、僕残りたくなっちゃうもん。けど、話したからって何もなく別れられるとも思えないし…時間だって無いんだ」
『……イオ、てめェはよォ』




『神の前に、一人の女なんだぜ』




アスカの言葉にイオは目を見開いた。
「自分は神だから」と言い聞かせているイオの気持ちも、アスカは痛い程分かっていた。
自分も、そう言い聞かせていた時期があったからだ。






『イオ!』





ルフィの笑顔が脳裏を過ぎった。
今まで長く生きて沢山の色んな大切な人と出会ってきたが、


「――――……」




ルフィは、誰よりも


比べられない程、





「……っ何でかなぁ」



何でこんなに、涙が出てくるんだろうなぁ。


掌で顔を覆い体を小さく丸めるイオを見て、アスカは目を細め静かにペンダントへと消えた。

誰もが眠っただろう三日月が栄える夜
静かな部屋で一人、イオの泣き声だけが聞こえた。

















(…あと、少しか)



少ししてからイオは船を抜け出し昼間見つけた泉へ向かった。
空にある三日月もそろそろ沈むだろう。
日が昇ると同時に泉に飛び込めば、もうこの世界とはおさらばだ。


(…明日、驚くだろうな)


ふと明日になり慌てて自分を探すルフィ達の姿が目に浮かんだ。
きっと見つかるまで、探し回るだろうな。
それからはどうするだろう。諦めて海へ出るだろうか。…否、馬鹿正直に探し続けるだろう。

一応置手紙を残しておいたが、素直に探さず海を出ることはないだろう。
それでも直接言い残すことは出来なかった。


面と向かって止められれば、“神來国”に戻れなくなってしまうから。


一人森の中を歩き泉に到着した。
水面に三日月が映りとても綺麗だった。


まだ時間があるのでその場で腰を下ろし空を眺める。
空を眺めながら、やはり思い出すのはルフィや仲間たちとの楽しい日々だった。



「……そろそろ、か」



ボーっとしているうちに時間になっていた。
ゆっくりと立ち上がり、泉を見下ろす。
きっと誰にも気付かないようにしてあるから泉を見ても変化は出ないだろう。
一応悪魔の実を食べカナヅチになっているので少し緊張する。
まぁ、いざとなったらアスカに助けてもらおう。




「イオ!!やっと見つけたぞ!!」




まさかの声に思わず肩が大きく揺れた。
目を丸め振り向けば、少し息を切らしたルフィがそこにいて


「え…ルフィ…?」


まさかこんな早くにルフィが起きるとは思わなくて
まさかもう置手紙を読まれたとは思わなくて
ずっと一緒にいてルフィがこんなに早く起きていることは初めてだったから、流石にイオも驚いていた。


「イオ!どこ行ってたんだ?お前。急にいなくなるから探したじゃねェか」
「え…ていうか、僕探さないでって…」
「?何云ってんだ?」
「え?ルフィ、僕の手紙読んだんじゃ…」


少し怒りながらこちらにズカズカと近づいてきたルフィに戸惑いながら訊ねる。
するとルフィは腕を組みながらここまで来た経緯を話し出した。


「何か分かんねェけど、今日寝れなかったから起きたんだ。暇だからイオのとこ行こうと思ったらイオいねェし。船の中探し回ってもいねェから島に下りたとしか思えねェだろ」
「え…いや、だから、ルフィ手紙は?」
「手紙?そういやイオの部屋になんか紙があったけど、読めなかった」
「あぁ……そうだったね…」


ルフィがあまりにも平然と云うので、逆にこちらががっくりとしてしまう。
そういえばルフィは文字が読めなかった。すっかり忘れていた。
思わず頭を抱えてしまっているイオにルフィは本題へ戻る。


「で、何でこんなとこいんだ?」
「え、…っと……僕も、ちょっと、寝れなくって」
「そっか!何だ、イオもか。じゃあ遊ぼうぜ!」
「いや…それはちょっと…」


もう遊ぶ時間は無い。
早くしないと日が昇りきってしまう。


「ほら…早く戻った方が良いよ。みんなが何かと思うから」
「じゃあイオも一緒に帰ろう」
「僕はもうちょっとここにいるよ。風にあたりたいから」
「だったら俺もいる!!イオと帰んだ!!」
「………」


駄目だ。見つかってしまったらもうルフィだけを船に帰すことはとても難しいだろう。
どうしようかとイオが困っていると、焦れを切らしたかのように突然アスカが現れた。


「おう、アスカ」
「え、アスカ…?」
『ルフィ、落ち着いて聞け』


アスカの表情が物語っていた。
彼は、ルフィに全てを話す気だろう。

確かにこのまま誤魔化しきれるとは思えない。
だからといってルフィに話しても、


「ちょっとアスカっ」
『こんなやり方しても、どっちも辛い思い出として残るだけなんだよ。決着着けねぇといけねんだ』


慌てて止めようとするがアスカは話す気でいる。
暢気に首を傾げているルフィへ視線を向け、アスカは口を開いた。





『今、これから俺とイオは元の世界に戻る』






ルフィの表情が一瞬にして変わった。
目を見開き固まっているルフィにアスカは簡単な説明を始める。


『とは云っても必ず帰れるわけじゃねぇ。だけどこれはチャンスだ。夜明けに俺らはこの泉に飛び込まなきゃいけねぇ』
「………」
『悪ィな、昼間に分かったんだが話せなかった』


アスカは話し終えてからルフィを見る。
いつもの元気な姿はそこには無くて、ルフィは何も云わずに俯いていた。
麦わら帽子で表情は窺えない。


「!」


心配そうにイオが見ていると、突然白い細い腕が捕まれた。勿論、ルフィに。
その手がイオを離したくないと物語るように力が込められていて、イオも思わず痛みに顔を歪めた。


「る、ルフィ…痛いよ」
「………」
「ルフィ、」


イオが手を離そうとするけれど、ルフィの力に敵うわけもなくて。
風になりルフィから離れようとしたが、それも読まれていたのか自分の指と絡められ指を鳴らすことも塞がれてしまった。
かと思えばルフィがイオを片手で抱き締めていて。
帽子が、静かに地面に落ちた。



「……ルフィ…」




無言ではあるが、イオに行って欲しくはないと語っていた。
ルフィも必死で自分の気持ちを押し込めようとはしていたのだが、やはりそれは出来なかったよう。
空いている左手で指を鳴らし消えることも出来たのだが、今のイオにはそれが出来なかった。


「……ッ」
「…ルフィ、泣くなんて男じゃないよ」


体が震え、鼻を啜る音が聞こえ
顔は見えないがルフィが泣いていることは容易に分かったから。


「俺、ずっとお前が帰る方法探してるの止めたかったんだ」
「……」
「イオに、ここにいてほしいから。あっち行ったら、もう会えなくなるから」
「……」
「でもイオは、帰りたいだろうから、止められなかった」
「……うん」




「でも、俺、やっぱイオといてェよ…!!」





抱き締める腕に力が篭もった。
まるで駄々をこねる子供をあやすように、イオはルフィの黒い髪を撫でた。


時間は、刻々と過ぎていく。


「…ルフィはルフィで、我慢してくれたんだね」
「…ッ」
「ごめんね、気遣わせちゃって。ありがとう」


ルフィはイオを抱き締めたまま首を横に振る。
アスカが静かに見下ろす中、イオはルフィの頭を撫でたまま悲しげな表情で口を開いた。



「……ルフィ、僕のことは忘れて?」
「…!」



「難しいこと云ってるのは分かってるよ。ルフィが小さい時から、ずっと一緒だったもんね。ルフィにとっては、人生の半分、僕と一緒だったんだもんね」
「……」
「でも、さ、…やっぱり僕は、ここにいるべき存在じゃない。元々いちゃいけない存在なんだよ」
「いねェよ!…いちゃいけねェ存在なんて、いねェよ!!」
「……うん…」


ルフィの言葉は嬉しいものだった。
嬉しいからこそ、目尻が熱くなってくる。


「…ルフィ、僕より良い人なんていっぱいいるんだからね?グランドラインの最後まで行けたら…海賊王になった頃には、きっともっと素敵な人を見つけ出会ってるよ」
「イオが、一番だ」
「ルフィは、世界をまだ知らないんだよ。それに、他の人を見ようとしない。云っとくけどね、ナミだってロビンだってビビだって、かなり良い女だよ?」
「他の奴は違っても、俺はイオが一番なんだ!見ようとしてないんじゃねェ、イオしか見えねェんだ!!」


未だ泣き混じりの声で声を荒げるルフィ。


「イオは知らねェんだ…俺がどれだけイオのこと好きだったかなんて、全然分かってねェ」
「ルフィ…」
「ちっちぇえ時からずっと、これからもずっと、イオが好きなんだ。イオしか、好きになれねェんだ」


必死に自分の想いを伝え、必死にイオを離さないよう抱き締め、必死にイオを説得しようとするルフィ。
だからといって、頭が空のルフィに上手い言葉が浮かぶわけもなくて、ただただ素直に言葉を伝えるしか出来なかった。



「………」



『…イオ、時間無ェぞ』
「…うん」


アスカに云われるが、イオは動けずにいた。
髪を撫でていた手をルフィの背中に回し、肩に顔を預けた。



「もう少しだけ」



イオが云うと、アスカは何も返さずにペンダントに消えた。



日は、静かに昇る。
















『で?』


アスカに冷めた視線で問い詰められ、イオは目も合わせられず視線を泳がせながらしどろもどろに答えた。
場所は、メリー号。今は、朝。


「えぇと…見ての通りです」
『結局泉に飛び込めず残っちまったと』
「…はい」


あの後ルフィが泣き止んだのは寝てしまってからのこと。勿論、イオを抱き締めたまま。
その頃には日はすっかり昇りきっていて帰れる時間は過ぎていた。
こうなってはルフィを置いてどこかへ行くことも出来ず、風でルフィを運び船にこっそりと戻ったのだ。


『…まぁ、予想はしてたがな』


そう云い呆れ気味に溜息を吐くアスカに申し訳なくなってしまった。
自分だけならともかく、アスカも神來国に帰れずにいるのだから。


「…ごめんね、アスカ」
『別に。あっちに未練があるわけじゃ無ぇし、俺だってこの世界をそれなりに楽しんでる。それにあのまま何も云わずに帰ってるよりゃ良い』
「……ありがとう」


自分のことを気にかけてくれているアスカにイオは微笑みながら礼を云った。
「ん」と短い返事を返しアスカがペンダントに戻るとほぼ同時、部屋の扉が開かれる。
ウソップが困ったような顔で立っていた。



「おいイオ、朝からルフィが変なんだけど何か知らねェか?」



問題は、ルフィである。

ルフィはルフィで自分の我侭でイオを止めてしまったことに罪悪感を覚えているようだった。
ウソップが云うには浮かない表情でずっとボーっとしているらしい。
あの、馬鹿で元気と笑顔が取り得のルフィがだ。


ウソップに云われた通りに甲板へ行けば、いつもの特等席で海を眺めるルフィの背中が視界に入った。
いつもとは違い随分背中が小さく見えた。
イオは静かに歩み寄りルフィの背後で足を止める。



「ルフィ、おはよ」
「っ、…おう」



イオの声に一度肩を揺らした後、ルフィは小さく返事をした。
そんな珍しいルフィにイオは苦笑する。


「眠くない?いつもより寝る時間少ないでしょ?」
「…平気、だ」
「そっか」


フェンスに腰掛けて丁度視界に入るナミの蜜柑畑をボーっと眺める。

普段なら、ルフィが沢山話し掛けてくるのだが
今回はそのルフィが話し掛けづらくなっているだろうから、自然と沈黙が生まれる。


「あのさ、ルフィ」
「…何だ?」
「君はね、何も罪悪感覚えることないんだからね」


ルフィは横目でイオを一度見た後、すぐに海へ視線を戻した。


「ルフィの言葉は凄く嬉しかったし、きっと僕、あのままだと後悔してただろうから」
「…後悔?」
「うん」


不思議そうに自分を見るルフィに、イオは笑顔を向けた。




「僕だってさ、ルフィと一緒にいたいもん」




嫌々ここに残ってるわけじゃないし、
僕だって本当は帰りたかったわけじゃないし

最後に少し舌を出して笑ったイオの笑顔が本物の…気を遣っているものじゃないとすぐに分かると、ルフィが安心したように顔を綻ばせた。
それからぴょんと特等席から降りると、イオの前でじっと顔を見て、いつものようにニッと笑った。



「これは僕等だけの秘密ってことで」
「おうっ!!」



人差し指を立て唇の前に持っていくと、ルフィは元気よく頷いた。
一気に不安を取り除かれたのか「腹減ったなー」などと云いながらサンジに朝食を急かしに行ったルフィを見送る。
単純で本当に子供なルフィに小さく笑っていると、アスカが霊体で現れた。


『…良いのかよ』
「何が?」
『いくらでも待てば、三日月は出るんだぜ』
「知ってる。だからこそだよ」


チャンスは幾らでもあるのなら、もう少しだけここに残りたい


「…僕は神である前に、我侭な女だからね」
『…ケッ。全くだな。帰ったらゼウスに嫌味云われるだけだぜ』
「上等」


意地悪く笑ったイオにアスカもクツクツと笑った。






















もしも許されるなら あと少しだけ


(ねぇルフィ、案外僕らはいつも同じことを考えてるのかもね)





細かい設定…しかも凄く面白そうな設定で書くのを楽しませてもらいました。
おかげで随分長いものが出来上がっちゃいました。
しかもシーンが転々と…;
素晴らしい設定なのに何だか駄目にしちゃった感が……ご、ごめんなさい。

幾つか設定を弄らせてもらいました。
ゼウスはまだ登場しませんが、ただの変態親父でまぁ悪い奴じゃないです。←
それと最初の方でウソップの行動だけ書かれてないことに笑っちゃいました。(笑)

時期としてはアラバスタからデービーバックファイトぐらい…を、彷徨ってます。ここらへんのどこかです。(日本語変だ)
色々都合がありフランキーとブルックは出せませんでしたorz
そしてアスカが出張り…すぎ……(死)

ルフィはかなり単純だと思うんで…最後は結構あっさりでした。
最後より途中途中のところが大事かな、なんて思ってます。はい。

こんなものですが、煌哉様のみお持ち帰りOKですので宜しければどうぞ。
本当に…こんなものですが…;
も、文句受け付けますッ!

リクありがとうございました!!



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