「すんません、邪魔っす」



愛読雑誌の発売日である今日、学校の帰り道にある本屋の一角でお目当てのアニメ雑誌を立ち読みしている祐希は声をかけられた。
もうどれくらい経ったのかも分からないくらい集中していたのだが、何故か彼女の声には毎回気付く。
クラスメイトに話し掛けられても気付かず無意識のうちに無視をしているというのに。


「…ああ、来たんだ」
「来ますよそりゃあ。今日は『アニメージャ』の発売日なんで」


やっぱり、と心の中で呟く。
そのまま「アニメージャ」を手にしたまま彼女からそれに視線を戻した。


「すんません!邪魔ですって!」
「本屋ではお静かに」


彼女のお目当ては今自分が読んでいる「アニメージャ」である。
そして自分はその「アニメージャ」が置いてあった場所の前に立っている。
おまけに自分はその「アニメージャ」最後の一冊を手にとっている。
他にこの本屋に「アニメージャ」はない。


「もうないから諦めたら」
「うそっ…あ、ほんとだ。じゃあアンタので最後?」
「そうなるね」
「えー…譲って」
「嫌」


雑誌から目を離さずに断ると、視界の端で彼女がつまらなそうな顔をしているのが見えた。


今回は、俺の勝ち


前回は彼女に先を越されて最後の一冊を買われてしまった。
そのため他の本屋に行く羽目になってしまったので、そのおかえしだった。


「他の本屋へどうぞ」
「優しい優しい浅羽祐希君、お願いします」
「ごめんなさい俺は優しくないんです」


彼女は頬を膨らませた。
自分とは違い沢山表情を変える彼女を見るのは、少し面白かった。


「…今日は悠太君一緒じゃないの?」


出たよ。

キョロキョロと辺りを見渡す彼女に祐希は「そこらへんにいるんじゃない」と答えた。
双子の兄である悠太はオタクでもないし寧ろ趣味というものを持っていない。
だから一緒にアニメ雑誌を見るわけもなく自分に付き合ってくれていて、きっとまたそこらへんで適当に本を読んでいるのだろう。



いつだっただろうか。
彼女は自分を悠太と間違えて告白をした。
だから、彼女が悠太を好きなのを必然的に知っているのだ。


最初の方は会う度に「どっち?」と聞かれていたが今はすぐに誰か分かるようになった。
それほど、何故だか彼女とは仲良くなってしまった。
きっとそれは彼女が自分と同じで漫画やアニメが好きなオタクで、同じ匂いがしたからだ。
毎回愛読雑誌や漫画の発売日には遭遇する。
だから関わるようになった。



「はぁ…『アニメージャ』浅羽祐希にとられたし、他の本屋行くかー」



彼女は悠太を見ることが出来ないと判断したのか、溜息を吐いて店を出ることにした。
彼女の独り言を聞いた祐希は、雑誌を見たまま声をかける。



「割り勘でどう?」



「へ?」と間抜けな声を出して歩き出した足を止め、振り向く。
祐希は雑誌から視線を逸らすことなく続けた。


「…お金足りなくてね、どうしようかと思ってたんですよ。だから割り勘にして二人で読みますか」
「……ま、マジですか!」


彼女はとても嬉しそうに笑ってこちらに近づき、鞄から財布を取り出し小銭を探した。
それを横目に祐希もぱたん、と雑誌を閉じて財布を取り出した。
中を見て千円札が目にとまったが、使えないし使う気もないので同じように小銭を探す。


千円にも満たない雑誌を買うのに、金はあるのに、何故嘘をついてまで割り勘しようなどと云いだしてるのか。


祐希自身そんなことを思いながら最後に十円玉を取り出し、二人で手中にある小銭を見せ合う。
きっちり半分。これで雑誌が買える。
確認してから彼女は笑って祐希の腕を引き、レジへと向かった。



「これください!」



そう云って祐希の腕を掴んで持っていた雑誌を出す。
店員が微笑ましそうに見てる辺り、勘違いをされてる気がしなくもなかったが、そこは気にしない。
店員が値段を云うと、二人で同時に手中の小銭を出した。
ちゃりんちゃりん。
慣れた様子でそれを数える店員に大変そうだなぁと思いながら未だに掴まれていた腕を見る。
彼女はそれに気付く様子もなく、うきうきと雑誌を読めることが楽しみでしょうがないらしい。








「どこから読む?」
「えっとですねー、迷うなぁ。浅羽祐希は?」
「何でも」
「それじゃあね、」















アニメ雑誌を女子と見ることになるとは、思いもしなかったよ。


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