頭が真っ白になってあの時のことは覚えていない。
ただ記憶にあるのは、真っ赤に染まった大切な人と 今までにはなかったぐらいの怒り。
「チョッパー、どうなの?イオの調子は」
「まだ目は覚まさない。でも…命には別状ないはずだから」
「そう」
心配そうに訊ねたナミにチョッパーは真剣な顔で答えた。
ナミも周りにいる船員達も浮かない表情である。
いつも騒がしいサニー号は誰も声を発さない程に静まっていた。
「――…で、ルフィはどうしたんだよ」
そこで口を開いたのは、腕を組んで聞いていたゾロだった。
「イオの側にいる、って」
「…そうか」
「流石にアイツでも責任感じてんだろうなぁ」
ウソップが頭を掻きながら困ったように呟いた。
何故、こうなってしまったのか。
それは二日前の朝にまでさかのぼる。
「でっけぇケーキが食いてぇ!!」
ルフィのこの一言が全ての始まりであった。
朝っぱらからいつものように元気よく笑顔でイオに云ったのである。
最初何事かと思い目を丸めていたイオだが、「ケーキ」ということですぐに納得する。
そういえば今日はルフィの誕生日。
暫くは海の上だったのでプレゼントというものをろくに用意できなかった。
ルフィからリクエストを出してくれたのだし、本業ではないのだが頑張ってみようと思ったイオ。
サンジに断っておいてから、その日に到着した島で買出しに出かけた。
「………買出しはいいけど…どれくらい材料がいるんだろ…」
ルフィは相当食べるであろう。サンジが皆の分は自分が用意してくれると云っていたので一人分で良いのだが、ルフィではそうもいかなかった。
うーんと唸りながら活気に溢れた町を歩きつづける。
そして暫くしてから、イオは男達に囲まれている美しい女性に気付く。
「……あれって…海賊…?うわぁ嫌なとこ見ちゃったな」
周りを囲む男達にイオは顔を歪めた。
涙目になって怯えている女性を見てしまっては、知らんぷりをして逃げるわけにもいかなかった。
喧嘩は強いわけではないというのにこの正義感は、本当に損するものである。
内心で苦笑しながら、イオは海賊達に近づこうと一歩踏み出した。
「ちょっとちょっと、大人数で何女に集ってんのさ」
「あぁ?」
海賊達に声をかけると睨まれた。
本当はとてつもなく怖いのだが、もう引き下がるわけにはいかない。とにかく女性を助けなくては。
「お姉さんよ、こっちおいで」
手招きをされて小走りにイオのところまで来る女性。イオの背後に回り怯えている。
(……さて…これからどうしよう!!)
何も考えていなかったイオ。冷や汗を流しながらどうしようかと考える。
睨みながら無言で近づいてくる海賊たちに比例するように後退るイオ。
考えてもしょうがない。
自分には「逃げる」という選択肢しかなかったのだ。
「…ッ!!」
女性の手を引いて踵を返し来た道を走り出す。
後ろで海賊達の声が聞こえた。追いかけてくるな、と思った瞬間
「――――」
腹に、銃弾。
目を開いて自分の腹を見たあと、血を吐いて倒れた。
女性が目を丸めて自分を心配しかがんで様子を見る。
自分に触れようとした女性の手を振り払い、イオは苦しそうな声で云った。
「はや、く…逃げて…っ!」
「けど…!」
「いいから!!」
アンタが掴まったら、あたし撃たれた意味ないじゃん
力なく笑ったイオを見て、女性は少しの沈黙の後に逃げ出した。
「ったく邪魔しやがってこのクソガキ」
「上玉だったのによぉ…」
「金だって持ってたぜ」
海賊達が口々に文句を云いながら倒れているイオに近づく。
意識が薄れていく。
もう、駄目だな…そう思った後、イオは諦めたように瞳を閉じた。
暫くしてからのこと。
「てめぇら、いい加減にしろよ」
イオに暴力を振るう海賊達。それを遠くで見ている町の者達。
人だかりが出来ているそこに来たのは、イオが逃がした女性に連れてきてもらったサンジとルフィだった。
自分の声でこちらを見る海賊達の足元で、ボロボロになって倒れているイオを見たサンジは眉間の皺を増やした。
「レディに手ぇ出すたァ……このクソ野郎が…!!」
襲い掛かる海賊達を難なく倒していくサンジ。
ルフィは一人、動くこともなく地面に倒れたままのイオを呆然と見ていた。
イオの周りに流れる真っ赤な血。
全く動かない細い体。
騒がしい周りの声なんて聞こえなくて、ただ視界にはイオだけが映っていた。
『でっかいケーキって……何それ、あたしに頼んでんの?』
『おう!作ってくれ!!』
『…サンジが作った方が絶対美味しいよ?』
『イオのが良いんだ!俺は!!』
『……しょうがないなぁ。作ってあげますか!』
『うぉおおー!!』
脳裏を過ぎる、イオの笑顔。
「く…っ!」
サンジの強さに恐れて逃げようとした海賊がルフィにぶつかって行く。
それを気にする様子もなく必死に逃げようとした海賊の腕をルフィが掴んだ。
ハッとして振り向くがルフィの顔は俯いていて見えない。ただ、腕を掴む手に入る力で今のルフィがどんな顔をしているのか物語っていた。
「お前…」
「ひっ…」
「生きて帰れると思うなよ…」
その時のルフィの表情を見て、サンジは静かに煙草を吹かした後にイオの元へ行った。
ルフィが残りの海賊をボコボコにした後、本当に殺しそうだったのでサンジが止め船へと戻った。
イオを見るなり驚き慌てるチョッパーを落ち着かせて診療を任せ、静かに部屋の外で待つ一同。
それから暫くして部屋を出てきたチョッパーの「大丈夫だ」という一言で、皆が安堵の表情を浮かべた。
けれどルフィだけは、浮かない表情で、チョッパーの許可を貰いイオのいる部屋にいた。
それから暫く目を覚まさないイオを、ルフィがずっと側で見ていたのである。
ろくにご飯も食べずに、だ。
そして冒頭に戻るのである。
ルフィは静かな部屋でイオを見ながら何度も一昨日自分が云った言葉に後悔していた。
自分がケーキを食べたいなどと云わなければ イオに頼まなければこんなことにはならなかったのだ。
サンジが買出しに出ても海賊に絡まれようとすぐに倒してきて終わりだ。
けれどイオは普通の女子で、ルフィが気に入ったから仲間にした存在。戦闘能力なんて、あるわけもなくて。
最初に仲間になってほしいと頼んだ時に戦いのことで渋っていたイオに、確かに自分は云っていた。
「俺が守るから」
すぐに仲良くなっていて、イオは自分を信頼してくれて、笑顔で頷いてくれたのに。
(守れ なかった)
悔しくて仕方が無い。
大切な人一人、守ることが出来ないなんて。
「………ん…」
「!!」
その声にハッとして俯いていた顔を上げる。
身を乗り出してイオの顔を見ると、うっすらと瞼を開いて、こちらを見ていた。
チョッパーからは大丈夫だと聞かされていたが、やはりあれだけボロボロにされていたのだから不安にもなっていて。
目を覚ましたイオにルフィは顔を綻ばせた。
「あれ…ルフィ…ん、ここどこ…?あれ、海賊は…?お姉さんは…?」
「海賊は俺とサンジが倒した。イオが助けた姉ちゃんも無事だ」
「そっか、よかった」
ホッとしたように笑うイオを見てから、ルフィは再び俯く。
「…イオ、ごめん」
「え?」
「俺がケーキ作ってくれって云ったから、イオは…」
「……何それ。らしくないよルフィ。ルフィはさ、我侭でいいんだよ」
珍しい一面を見せたルフィに小さく笑いながら、イオはルフィから天井へ視線を移して続けた。
「あたしさ……ルフィがあたしの作ったケーキが良いって云ってくれた時、嬉しかったんだ」
「――…」
「サンジの作ったやつの方が、全然美味しいのにさ」と苦笑したイオは、一度ルフィを見てから照れくさそうに笑った。
ルフィは目を開いて言葉を失ってしまい、イオに何も云えなかった。
そんなルフィには気付いていないのか、イオは一人天井を見つめたまま「あ」と声を漏らし眉を寄せる。
「そういや…まだケーキ作ってない…つか買出ししてない…!あれ、ていうか今日5日だよね?5日だよね?」
「……今日は…しちにちだ」
「えぇ!?マジで!?」
ルフィの答えに目を丸めて起き上がったイオ。身体中が痛いのか一瞬顔を歪めたが、すぐに起き上がりケーキを作ろうとしだした。
「ごめんルフィ、今から作るからさ、ちょっと待っ――」
イオがそう云いかけたのだが、声を遮るようにルフィに抱き締められる。
目を開いたイオは何が何だか分からず、混乱してしまった。
「え、ちょ、ルフィ、どうした――」
「もういい」
イオからはルフィの顔は見ることが出来ない。
ルフィは抱き締める腕に力を込め、肩に顔を埋めた。
「ケーキなんかより、イオがいてくれればいい」
「え――」
目を開いたイオに、ルフィはもう何も云わない。
イオは戸惑いながら口を開いた。
「…え…だって、プレゼント――」
「じゃあ、イオがプレゼント」
「…何じゃそりゃ」
クスクスと笑うイオに、ルフィもやっと笑顔を取り戻したのか、にししと笑いながら元気よく云った。
「だから!イオはこれから俺のもんだ!!いいだろ!!」
「――はいはい」
ケーキより大切なもの
君さえいれば何もいらない
…今年もまた意味不明なものが出来上がったよ。
ルフィ大好きなのに何かBD夢で満足なの書けた記憶ないよ。もう三回目ぐらいだよ。
とりあえず間に合ったけど…ごめんなさいね。なんかちょっと暗くて。
ヒロインが海賊にやられているところを書きながら、何故かピスメのアユ姉が殺されちゃうシーン思い出してしまった。(縁起悪いな)(作品の関係性皆無)