肩にかかった体重が重い。誰かを支えて歩くのはこんなにも疲れるのだ。
「やすさだ、俺、」
「黙れよ喋るな」
「でも、もうだめだよ、」
「黙れって言ってるだろ!」
弱気になるなんて許さない。折れるなんて許さない。主は無事に帰ってこいって言ったんだ。お前がそれを守らなくてどうするんだ。口を噤んだ清光を抱えて本丸の玄関をやっとの思いでくぐる。
「主さん清光が!」先導していた堀川が冷静さなどどこかに放り出したように叫んだのが聞こえていた。
「清光!」
いつも穏やかに部隊を出迎える主が血相を変えて僕が支えていた清光を抱え上げる。支えるだけで、あんなに重かったのに。体重なんて感じないみたいにあっさりと。血塗れで半分意識のない清光を寸分の躊躇いもなく。
ああ、ねぇ、
「なおるよね、あるじ、清光折れたりしないよね、」
「治す!」
振り返ることなく張られた声にこんなにも安堵させられる。
その場にへたりこんだ僕の頭を和泉守が乱暴に撫でて不意に少し泣きたくなってしまった。
***
俺の名前を呼ぶ大好きな声とその体温に抱えられたところまでで俺の意識は落ちた。
ぼんやりとした意識に従って薄く開いた視界の先は知っている天井だった。戻って、来れた。死ぬかもなと過ぎりさえしたけれど。
まだ、痛い。生きてるって、そういうことだ。すぐそばに人の気配を感じて首を向けると目を閉じて座っている主の姿。寝ている、のだろうか。今は何時だろう。
「あるじ、」
「……、清光?」
起きあがろうとしたら諭すように叱られた。寝てなさい、まだつらいだろ。その言葉にふっと力を抜いて倒れこむ。
視界に映る範囲で自分の格好を確認して少し笑ってしまった。
髪も結ってない、服だってボロボロで血の染みや砂埃に汚れて、頬にできた切り傷だって治ってない。爪紅だって剥がれかけてるし、みすぼらしい。醜い。
「あの時みたいだね、」
「あの時?」
「主の、刀に、なったとき」
そうだ、初陣の時だった。今日よりは少しマシだったけれど、今日みたいな大怪我をして勝てなくて。帰還して、伸ばされた手に竦んだ俺に、主は悲しそうに言ったのだ。
「痛かったな、ごめん」どうして主が謝るんだろう。勝てなかったのは、俺が怪我をしたのは、俺が弱かったせいなのに。優しく重ねられた手に引かれて連れていかれた手入れ部屋で、傷が治るまでぽつりぽつりと自分の話をしていたのだ。それから数日だけ、こんのすけに急かされることもなく主と二人きりで過ごした。本丸の設備を見回ったり食事をしたり、人間の、ひとの生活をひとつずつ。緩やかに流れる平和な時間はひどく新鮮で心地良く、手を伸ばせば大切な人に触れられるこの体が愛おしかった。
──あの時は、そう変わらない背丈だったのに、主の方は背が伸びた。
それと同じくらい、それ以上に、俺は強くなれたかな。未だにこんな大怪我する辺りあんまり変わってないのかもしれない。
「っ俺、かわいく、ないね、」
「可愛いよ」
顔を背けた俺の髪をくしゃりと乱して、主は俺の言葉に相反するようにそう吐いた。
「清光は、どんなところに居たって、何をしてたって可愛いよ」
ああもう、ずるい。もう随分と楽になった体を起こして主の肩に顔を埋めて抱きついた。主はそれを少し驚いたように受け止めてから笑う。
朝になったら、安定にごめんとありがとうを言って、堀川たちにも治ったことを伝えてから、いつも通りに頑張るから。今だけは何も気にしないで、ありのままの俺を愛してくれる?
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