「シロウ、きみは……どうして、いつも。ちがう、違うんだ、だめだ、君はあの男のようになってはいけない。それは許されない」
遠のく意識の向こうで女の声が聞こえた。どこかで、聞いた気がするのに、彼女の名前を思い出せない。ふとはらを貫いた尋常でない痛みがやわらいで、だから動けるかと体を起こそうとしたのにまるで自分の制御下から外れたように指先ひとつ動きはしない。
苦しくはない、痛みもどこかへいってしまった。ただなにひとつ自らの意思で動かせないだけ。それでも、ただ
──ああ、死ぬのか、俺は。
「そうだ、君は死ぬ。何もなせずに死ぬ。聖杯戦争から脱落し、愛した彼女を殺すこともなく、自らの役目を放棄して死ぬ。君は正義の味方になどなれない。君は英雄などではない。ただ凡俗に落ちて今から君は何者にもなれないまま、惨たらしく死ぬ」
声はひどく虚ろに濡れて、ただひたすらにその涼やかであっただろう音を濁らせる。もしかしたらもうすぐ、なにも聞こえなくなるのかもしれない。
「すまない、しろう、私は、君がその道を歩むことを許してあげられない。シロウ、ごめんなさい、わたしは、きみを殺す。惨めに殺す」
視界が暗闇に覆われた。感覚がない。体を知覚することもできず、ただ淡々と零される声を脳髄の奥で聞き留めることがもう精一杯だった。
「もういいんだ。君はもうなにも為さなくていい。何者にもならなくていい。君という人間がいたことを私だけが覚えていよう。私だけが忘れないでいよう。──だから、どうか」
ぶつりと音が途絶える。彼女の最後の祈りを、俺は聞き届けることもなく。
181114
「死は彼にとっての救済たり得るのか」
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