いつもなら熟睡しているはずの時間帯に何故かふと目が醒めた。何度か寝返りを打ってもまったくといっていいほど眠気が戻ってくる気配はない。少し熱を持った体を冷まそうと外に出れば先客の存在に気付いて、その名前を呼んだ。
「大和守……?」
どうしてこんな遅くに。自分と同じように眠れなかったのか。もしくは。
大和守はこちらを振り向くことなく静かにぽつりと言葉を落とす。
「沖田総司は、屋敷の畳の上で一人、看取る者もおらずに息を引き取った。新撰組一と呼び声の高かった剣豪は、たった一匹の黒猫すら斬ることができずに死んだんだ。まだ真夏じゃなかったはずなのに、とても暑い日だった。戦っている仲間の元に、どれほど向かいたかったのか、それがたとえ負け戦だと分かっていても、それでもきっと、あのひとは。……僕は、もう、彼に握ってもらうことすら、」
「やまとのかみ、」
沖田くんと懐かしそうに思い出す、いつもの大和守とはどこか違った。ゆらりと影が揺れる。
「今の、僕なら、彼を救うことが、彼が生きられるように、変えることが、できるのかもしれないって、そう、思って、」
揺れる、揺れる。
不安そうな、今にも消えそうなその影に手を伸ばした。抱えるように抱き締めると大和守がこちらを見上げたのが分かった。
「……あるじ?」
そうっと背中に手が回る。
こつり。大和守は預けるように肩に額を乗せた。
「冗談、だよ」
「うん、」
「……ごめんね」
「いいよ」
冗談なんかじゃないことを知っている。ちらりと瞳に過ぎった赤が、気のせいだなんて思えない。先ほど感じた肌のざわつく不快な感覚は、敵の異形のものだった。
まだ少し、幼い口調で言葉が紡がれる。
「僕を、あいしてくれるのかい?」
「あいしてるから、いかないで」
「……うん」
大和守は無垢な子供のような目で視線を合わせた。小さく、微笑む。
「名前を呼び慕うことが赦されるなら、主の名前を教えてよ」
──どうして悲しそうな顔、するの?
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