僕がこの本丸に来たのはそう早くはなかった。清光も安定も兼さんももう本丸に来て随分と経っているようだったし、僕を除く堀川派も顕現できる者は既に揃っていて。僕が顕現した時の主さんの「ホントにいた……」という呆然とした呟きは未だに忘れられない。清光にも安定にも兼さんにも僕の話を聞いていて、希少度はさほど高くないはずの僕がなかなか現れないのを少なからず気に病んでいたのだと思う。
多分、その三人に対する思い入れが強かったのもあったのだろう。主さんの計らいでそれほど月を数える間もなく三人との練度差は追いつかせた。もちろん幾度か僕の負担になるのならやめようかと気遣われたこともあったが、刀である僕にとって使われることが苦痛や負担であるはずはなく。むしろ他のどの刀剣をも差し置いて使ってもらえることはこの上ない喜びだった。
決して古参とは呼べない僕を近侍に据えて傍に置いてくれるのは、主さんが僕を憎からず思ってくれているのだと、きっとそれは自惚れではない。
随分と前、主さんからあの二人とは兄弟なのかと問いかけられた。まだ揃い切ってはいなかったけれど、粟田口や左文字兄弟とは決定的に何かが違うと明確にはならないまでも何らかを感じ取っていたのだろう。
どう、なんでしょう。曖昧に笑って答えたそれは紛れもない本心だった。分からない。真実がどうであるのかも。彼らにとって僕が兄弟であるのかどうかも。分からないまま、分からないことを受け入れて、自分の真実だけを、確かな記憶だけを抱えることで僕は息をすることが許されたのだとそう思っていた。
僕の存在のことも、その曖昧さも、すべてを受け入れたつもりだった。それが諦めであることには目をつむり。
受け入れて、笑っていたのに。受け入れて、目を背けたのに。
「堀川」
主さんがあまりにも甘やかに、あまりにも明確に、僕の名前をそう呼ぶから。受容であると言い張ったそれが諦念であったことに気付いてしまった。気付かされてしまった。
僕はいったい何者で、僕はいったいどこにいるの。僕の存在を、僕の歴史を、僕の居場所を──お願い認めて。僕に分からせて。
不安から生まれたその渇望は身勝手で際限がなくて、気付かなければ良かったなんて今更思ったってもう遅くて。だってもう、確かではない存在の確信を求めても、僕は息ができることを知ってしまった。あなたに名前を呼んでと縋っても、赦されることを知ってしまった。
あなたに誰にも見せない僕の醜さを吐露するのは、あなたに抱き締めてほしいから。あなたに僕が優秀であり続けるのは、あなたに名前を呼んでほしいから。
あるじさん、
あなたにすべてを尽くすから、あなたの心を僕に下さい。
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