たまには子供心でも

「……何というか、既視感を覚えますね」

 微妙な表情でそう呟くアルジュナを横目で見上げて悠乃はごくん、と口の中のソーセージを飲み込む。

「まあ復刻だからね」
「……? すみませんマスター、今少しノイズのようなものが」

 怪訝な様子で目線を下ろした彼に何でもないよ、と笑って最後の一口のフランクフルトを串から引き抜いた。フードコートであらゆる屋台からあれをこれをとひたすら貰いまくっていたアルジュナとそのオルタを発見してちょっとした救出劇を繰り広げたのがつい先ほど。せっかくだから休憩ついでにと茨木やシトナイたちも一緒に、貰ったそれらを消費していたのだ。「捧げ物なら喜んで食してやろう」と自信満々に食べたがっていた張本人であるところの茨木童子は、もうとっくに飽きてアトラクションの方へ走っていってしまったが。

「ごちそうさまでした。ごめんね、結構たくさん貰っちゃった」
「いえ、助かりました。サーヴァントの身でも少し持て余しそうだったので……」

 やや遠い目をするアルジュナの苦労は、その、推して知るべしだ。

「マスター」

 くん、と袖口を緩く引かれて目を向ければ、西の方をじっと見つめていたらしいアルジュナオルタがこちらを振り向く。

「来る途中に見たのですが、馬の形を模したものがくるくると回る――」
「メリーゴーラウンド?」
「はい」
「……乗りたい?」
「非常に興味深いかと」

 なるほど、つまり乗りたいということか。

「いいよー行ってみよっか」

 ふんふん、と軽く頷き立ち上がる。メリーゴーラウンドならフードコートの広場から下ってすぐのところだし、そこのアトラクションマネージャーはもう倒してしまったから率先して襲われることもないだろう。幸い茨木童子もシトナイもまだ戻ってきていないし、魔力を吸われることを多少鑑みても時間さえ気を付ければ少し遊ぶくらいは問題ない、はずだ。たぶん。
 というか──せっかく遊園地に来ているのだから実のところ少しくらいは遊びたかった。

「いやちょっと待ちなさい、というか悠乃もいいよではありません!」

 なぜか少し遅れてついてきたアルジュナはいささか気性を乱した様子で悠乃の隣に追いつき、マスターと自らのオルタを見やってわなと唇を震わせる。

「まさか、乗る、つもりですか」
「乗らないの?」
「乗らないのですか?」
「本当に乗るのですか!?」

 ぎょっとしたように返すアルジュナに「乗らないのに行っても……」と言えば「確かにそうですが……!」と彼は呻いた。

「いいですかオルタ、あれは子供の遊具なんですよ」
「身長制限があるのでしょうか?」
「え? ないよ」
「では問題ないのでは」
「いえそういう問題ではなく」

 焦ったような様子そのままに滔々とアルジュナオルタに「問題」を説くアルジュナだけれど、肝心のオルタにはあまり響いていない様子なのが何ともおかしい。くく、と笑いを堪える悠乃を「マスター」とやや低い声色でアルジュナは窘めた。

「ふふ、ごめんごめん。でも別にいいんじゃないかな。ここ、サーヴァントも結構見かけるし、たぶん今更だよ」
「それは、そうでしょうが」

 ぐ、と言葉に詰まるアルジュナの表情にはなんだかいろいろな葛藤が詰まっていて思わず悠乃は苦笑を零す。たまの──たまの?──屈託のない遊休期間なのだから、もっと気軽に楽しんでしまえばいいのに。

「実は私ちゃんとアトラクション回ってないから、ちょっと遊びたかったなあとか。……だめ?」
「だめですか?」

 揃って首を傾げるオルタと悠乃に僅かにアルジュナは怯んだ顔をして、それから諦めたように浅く溜息を吐いた。

「……程々に、するのですよ」

 それを聞いてぱっと喜色を顔に浮かべるオルタにアルジュナの表情が緩んだように見えたのは、きっと悠乃の気のせいではなかっただろう。

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