※消費期限が19年8月14日の18時までしかないので多くの人が消費期限切れのそれを読むことになる前日情報から妄想を膨らませたバニーガールコスをランサーアルトリアに要請されたマスターの話です。消費期限切れだけどお腹壊さないでね。
「ラスベガスと言えばカジノ。カジノと言えばバニーガールです、ハルノ」
常から従えているドゥン・スタリオンから降り私に靴と衣装を渡しながら至極真面目な顔でアルトリアはそう宣った。
──ということでいろいろと押し切られて私はラスベガスに出来た特異点でバニーガールをやらされている。何もかもがおかしい気がする、とマシュに零せば世界で一番頼りになるかわいい後輩は「とても可愛いです先輩……!」とどうやら感激しきりのようだった。いやまあ、うん、マシュが楽しいなら、いいんだけど。
バニーガールというものの存在はともかく、実際にやったことどころか見たことさえなかった私に「簡単な給仕係といったものですよ」と言ったアルトリアは私への仕事の説明をベディヴィエールに預けて着替えた姿を見ることもなく会場から離れてしまったらしい。若干不満を感じないでもないが、実際その発言は概ね正しく、仕事内容はお客としてやってくるサーヴァントたちを案内したり飲み物を持って行ったり、などという軽いものばかりだった。接客業なら多少はアルバイトの類の経験もあるし、何ということもない。やや格好が過激気味なだけで。
と、呑気に思っていたのだが。
「ほう、こんな場所まで来て奉仕活動とは、精が出るな悠乃。こちらへ来い、褒美をやろう」
キャスターのギルガメッシュにそう呼び止められ、わあいご褒美、と何故か幸運値や黄金律が異常に高いサーヴァントばかりなエリアのテーブルに近寄り(多分そう行った類の値が低いサーヴァントたちに他のテーブルを追い出されたのだろう)、何くれるんです王さま? と純粋な心持ちで尋ねたのがいけなかった。
「こういうところの褒美といえばチップしかないだろうよ」
「ああ……ここらへんみんな稼いでそうだしね……」
ピッと懐から数枚札を取り出したかと思えば神業のような手捌きでバニースーツのざっくり開いた胸元にそれらが差し入れられた。思わず動きを止めて自分の胸元とギルガメッシュの指を数度じっくりと見比べる。
「なんだ、まだ足りんか? 貴様も案外強欲よな」
「……いや何されたかな、と思って」
「作法であろう?」
「どこの??」
「ほう、作法とは。詳しく教えろ金色の。ファラオたる余がこういった場の作法に疎いなどあってはならぬ」
「ちょ〜〜っとややこしくなるので一旦待って頂けませんかオジマンディアス王?」
そう言って待つわけがなかった王たちはギルガメッシュによってバニーガールの服の隙間という隙間にあらゆる手段を持ってしてチップを差し込むのが作法と学習してしまい、待ってと止めるマスターである私の言葉も「よしよしそんなに嬉しいか」と流しながらチップをねじ込み始めた。ついには「まだ入るな」などと感心し始める始末だ。もう褒美が主目的ではなくバニースーツの隙間にいかに紙を差し入れるか、という競技になりつつある。何だこれは。切実にやめてほしい。
「──皆様、そこまで」
挙げ句の果てに靴の隙間はどうだ、などという声が上がり始めたあたりで凛と響いた静止の声は紛れもなく私をこの場に招いたアルトリアのものだった。
慌てて振り返った私の手を取って緩やかに引き寄せるアルトリアの姿は普段の鎧姿とは別の正装で、そのかんばせには呆れたような色が濃く見える。
「スタッフを可愛がってくださるのは嬉しいですが、あまり占有するのは感心しませんね。彼女にも他に仕事がありますので」
「ふむ、なるほど、それもそうだ。つい夢中になってしまったな、許せ」
柔らかに窘める響きの忠言を受けた彼らはそれぞれに納得を示して「失礼」とアルトリアに連れられて下がる私を鷹揚に見送ってくれた。気まぐれな王たちによる気ままな遊びだったのだろう。いつものことである。
バックヤードまでエスコートされてやっと少しばかり息を吐き、何だか色々とねじ込まれている札を引き抜いた。
「なんかすごかった……」
「まったく、お客様のあしらいはもう少し修行が必要なようですね」
「こんなの初めてやるんだもん」
スーツを直しつつ小さくむくれて見せた私にアルトリアは笑みを零したようだった。カツン、と響いた靴音に顔を上げれば頭に手が添えられてウサミミの位置を直される。
「ふふ、……よくお似合いだ、ハルノ。上から下まで仕立てた甲斐があるというものです」
「あ、アルトリアの趣味なんだこれ……」
もちろん、とかつてなくアルトリアは楽しそうに答えながらするりと距離を縮めて私の腰に手を回す。セイバーの彼女より数段大人びた風の彼女の身長は割と高いヒールを履かされている今の私でも少し見上げるほどだ。唐突に近付いた距離に動揺して一歩後ろに下がろうとするも最近は履き慣れないヒールでは踏ん張りがきかずに小さく身動ぎをしたに留まってしまった。
「あ、の、アルトリア……」
「本当に、よく似合っていますよ」
「うん、嬉しいんだけど、ちょっと、はなれ、」
離れてほしい、と言いかけて頬に触れた柔らかな感触に思わず言葉が止められる。先程まで私をじっと見つめていたエメラルドの瞳は今は視界にない。そもそも今この場には私とアルトリアしかいないわけで、つまるところ。
「私が見繕った衣装で駆け回る貴女の愛らしさを皆に見せびらかしたかったのですが……いけませんね。いざああして可愛がられていると、少しばかり妬けてしまいます」
甘やかな濡れた声色が耳元で響いてぞくりとした感覚が首筋を這う。緩慢とした仕草で開いた背中を手袋越しの指先がなぞって、かっと頬に熱が集まるのがわかった。
「もちろんそれを飲んで貴女をじりじりと見つめるのも悪くないのでお願いしたことを撤回するつもりはありませんが……どうか、私が貴女を占有する時間も、お許し下さいね」
そんな蕩けた囁きでもっての嘆願をはねつけることなどできるはずもなく。私は今にも崩折れそうな体をアルトリアに支えられながら小さく首を縦に振ることしかできなかった。