上を見れば戦闘が始まったようだ。
燈さんが中心となり、敵に攻撃をしている。
遠くから見ている上に上下逆になっている為、よく見えないが、ゾンビに近いように見える。
…あれ?俺ってこんなに視えてたか?

「沖矢さん、あれ視えてる?」
「ん?えぇ勿論視えています」

…ってことはこちらからあちらの世界のモノは視えるという訳か…。一つ納得した時だった。
上の世界の降谷さんがしきりにこちらに向かって手を伸ばしている。

「…降谷くんは何を言いたいんだ?」

沖矢さんも同じことを思ったらしいが、見当もつかない。
と、どこからともなく着信音が鳴り響く。出所は俺のポケット。
スマホを取り出せばそこには"安室"の文字。

「どうし『今すぐその場から逃げろっ!!』えっ」

いきなり怒鳴られ困惑するも降谷さんはこちらを見上げながら必死に言葉を繋ぐ。

『すぐそばに…目の前に黒い靄がいる!!早く逃げろっ!!』

すぐそばといっても目の前には何もいない。困惑していれば、沖矢さんがすぐにスマホを取り、降谷さんの指示であろう、俺を抱き上げ駆けだす。
民家から離れ、出入り口に走ろうとしていた沖矢さん…否、走っている途中に変装を解いた為、赤井さんはピタッと足を止めた。

『赤井、ストップしたのは正解だ…そこから先には行けない』
「…やはりか、降谷くん、黒い靄がいないのはどこだ?」
『…入り口はほぼ真っ黒といってもいいだろう…村の奥には靄が少ない』
「成程…行けってことか」

そう言って赤井さんは俺を抱き上げたまま村を見る。
変哲もない村だが、そこには俺達には視えないモノ達がいるのだろう。

『いいか、このままスマホはつないだままにしておけ』
「あぁ、その方がいいだろうな…しかしその黒い靄とは一体なんだ?」
『…勝呂君が言うには、自分が死んだことに気づいていない魂のように見える…と。危険はないはずだが、何が起こるかわからないらしい』

"自分が死んだことに気づいていない"?どういうことだ?
赤井さんも同じことを思ったようだ。こちらを見て頭を傾げている。

『とりあえず、赤井、その黒い靄たちは自由気ままに動いている…俺がいない方に誘導していく』
「了解だ」

そう返事をすると赤井さんは村の方へ歩いていく。
ふと視線を下に下ろした時に一瞬、懐に入れている短刀が光ったような気がした。だが短刀が光るなどありえない、為特に気にすることはしなかった。

降谷さんからの指示通り赤井さんは村の奥へと歩を進めていく。
そんな時、村の入り口から女性の声が響いた。俺と赤井さんはバッと後ろを見て、すぐさま降谷さんに赤井さんがそのことを伝える。上を見れば降谷さんは左右にゆっくりと首を振っていた。
そのことが意味するのは俺たちにも理解できた。

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俺達がいる所からして上にいる赤井とコナン君を黒い靄がいないところに誘導していれば、スマホからかすかに悲鳴のようなものが聞こえた。瞬時に赤井達のいる場所から離れた入り口のほうを見れば、黒い靄が女性を覆い隠してしまっていた。
近くにいた勝呂君が「もう助からん」と小さくつぶやいたため、赤井達を見上げて左右に頭を振る。

「おらぁ!!」

燐くんと燈が中心となって襲ってくるゾンビを撃退していく。
俺も皆の援護を行っているが、さすがにプロには負ける。

「…雪男くん」
「なんですか?」
「これが終わったら是非警察官にならないかい?」
「おい、雪男は渡さねぇいだっ!!」
「あんた何、ため口聞いてんのよ!!」

俺の放った言葉により、内戦が勃発してしまった…。
じとっとした視線を感じてそちらを向けば、黒い漆黒の瞳が「余計なことを」と言わんばかりの目をしていた。
すまない…。