※主人公の名前は仮として出させていただきます。
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「返事がない?」

俺のその言葉にうなずくのは携帯片手に眉間にしわを寄せる人物…松田陣平だ。
その横には彼と一番仲の良い萩原研二に、俺の隣には俺の幼馴染である緑川唯がいる。
俺たちは警察学校の卒業を間近に控え、最後かもしれないということで食事をしに出ていた。ちなみに伊達は用事があるため欠席。

「メールは届いているんだろ?なら澪ちゃん見れてないだけじゃないのか?」

唯がそういえば、松田はため息を吐きながら首を左右に振る。

「いや、あいつがここまで返事を返さないことなんて、今までないんだよ」
「澪ちゃん、機械必ず持ち歩いているもんな〜」

萩原が苦笑気味にそういえば、唯も「そうだな…」と小さくつぶやく。
松田がこうやって心配するのも無理はない。

彼女は松田の幼いころからの友人…幼馴染で彼女のことは彼女の兄からも頼まれているらしい。
卒業を間近に控えたこの時期に彼女は忽然と姿を消した。
俺たち6人(伊達も含めて)は同じ班として今まで活動してきた。
そのため、彼女の能力は嫌でも理解している。
武術、勉学も俺に負けないほどの力があり、爆弾の解体術、銃の腕前も俺たちの班の中ではトップだ。
しかも彼女が最も得意としているのは情報収集能力で、その力は今学期の生徒でも一位だ。
そんな優秀な彼女が突如として消えれば、話に上がってくるし、俺たちは一度教官に尋ねたが、何も情報は得られなかった。

「事件…とかに巻き込まれていないよな」
「おい、萩原お前冗談でもそれは笑えねぇぞ」
「落ち着けつけ松田」

だが萩原のその考えも少なからず視野に入れておいたほうがいいだろう。
俺がそういえば全員無言になった。その時だ。松田の携帯が鳴る。

「!!澪からだ」
「「「!!!」」」

「私は今海外にいて、元気だよ〜。海外にいる祖父のところに行ってたの、また行かないといけないから連絡できないことも多くあるけど、陣平のメールやみんなのメールは見てるから心配しないで…ってさ」

その言葉に引っ掛かりを覚えたが、とりあえず元気にしているならよかった。

そして俺たちは警察学校を卒業した。
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「潜入捜査ですか?」

俺は警察学校卒業後、警察庁警備局警備企画課…通称ゼロに配属された。
これから潜入捜査が主になる俺は今までの友人たちと連絡をほぼ取ることは許されなくなった。
配属される前に説明を受けた際、あぁ澪はここに入ったのかもしれない、そんなことを思ったが、実際企画課に澪の存在はなかった。
そしてある程度の期間を得て俺はとうとう潜入捜査官としてとある犯罪組織に入ることになった。
上司からの最初の指示は三つ。
一つはまず、隠れ蓑となる人格を作り上げること。
二つに組織に同じく潜入することになる警視庁公安部の捜査官と自然に連絡交換をすること。
そして既に数年前から潜入している捜査官とコンタクトをとることだ。

俺は安室透という人物を作り上げ、組織に同時に潜入する唯と自然の流れで連絡先を交換した。
まさか奴と潜入するとは…。

そして俺たちの残りの課題は、すでに潜入している捜査官と合流することだ。
そんな時、俺は幹部の一人であるウォッカに連れられてとあるマンションへやってきた。そこに書いてある階数に行くようにとの指示だった。
頭を傾げながらマンションに入り、部屋に入ればそこはPCやアイパットといった電子機器が部屋の全体を占めている部屋だった。

「やぁよく来たね、私が組織の幹部の一人コードネームはカミカゼだ」

白銀の髪に翡翠色の瞳を持った女性がPCの前に座っていた。

「…僕は安室透です…コードネームはまだありません」

カミカゼ…ウォッカをベースとし、コアントローとフレッシュライムジュースで作られるカクテルだ。意味は"あなたを救う"。
無色透明の液体に、緑色のライムを添えるカミカゼは彼女の容姿に似ている。
彼女は情報のスペシャリストだと聞いている。

「それより、なぜ僕なんかを?」
「私が君を呼ぶのはおかしいと?」

…質問を質問で返さないでいただきたい。

「えぇ、検討が付きませんね」

彼女はうんうんうなずいてからニコッと笑みを向ける。

「まぁ前と全然違うからね」
「は?」

突如変わった声に俺は驚きを隠せなかった。
なぜならその声は松田が…俺たちが焦がれていた…

「久しぶりだね、ゼロ」
「!!!」

そういって彼女は己の顔をべりっと剥がす。
そしてそこにいたのは数年前姿を忽然として姿を消した彼女がいたーーーー。