・壊滅直前の世界
・降谷と三雲は婚約していない
・悲恋…になるはずが…
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彼女は彼に恋している。
そしてその彼も…。

それに気づいたのは彼女達と出会って早い時期からだった。
人間観察を常にしている俺にとって、人の恋愛感情に気づくのは本当に速かった。
まず彼女の方だが、何か相談事や不安事があると真っ先にまず彼の方を見る。…しかも無意識ときた。
そして彼の方も何かあったらすぐに守れるように常に傍にいる。
そして不安げな彼女に笑みを取り戻させるのは彼だけだった。
正直、マフィア内…仕事仲間で恋愛ってあるのか、馬鹿馬鹿しい…とその時は思っていた。

…そう、その時は思っていたんだ。

「三雲さん、これ僕が作ったフルーツタルトです」
「え!?」
「ぜひどうですか?」
「食べます!!」

ボンゴレ日本アジトで仕事をしている彼女の目の前にコトンと音を立てて、紅茶と共にフルーツタルトを出すと、マンダリンガーネットのような瞳をキラキラと輝かせていた。そしてすぐさま机の書類などを端にやり、一口それを食べれば、彼女の顔は満面の笑みを浮かべる。

「んーーー!!」
「おいしいですか?」

その言葉にコクコクと頷き、また一口食べて顔を緩ませる彼女に好意を寄せるようになったのは何時からだろうか…。それすらわからないくらい気づいたら俺は彼女の虜となっていた。
そしてそれに気づいた時に目ざわりとなった恋敵…雲雀恭弥。
ただえさえ向こうは名前呼びなのに対し、完全に出遅れている俺は、こうやって彼女に好印象を与えるところから始まっている。かといって諦める気はさらさらない。
そしてもう一つ…

「三雲、ちょっといいかい?」
「んぅ?どうしたの恭弥」
「うん、それが終わったらさ、息抜きに動物園いかない?」
「っ!!行く!!」

嬉しそうに笑って楽しみと言っている彼女を見て、奴を見れば奴もこちらを見ていた。…そしてハッと鼻で笑っている。
カチーン…なんとなくあのFBIに似た感じの怒りが身体を巡る。
彼女の関心をケーキから動物園に変えたのは見事といいましょう…ですが、甘いんですよ!!

「三雲さん、今は冬で動物園は寒いですよ?それならどうでしょう、僕と水族館に行きません?今ならクリスマス前イベントで館内は綺麗なイルミネーションで彩られているみたいですよ…ほらクラゲゾーンなんてすごいことになってますよ?」
「…本当、綺麗」

スマホで情報をすぐさま見せれば、ほぅと息を吐いている。
勝った!!彼女が寒いのが苦手だということ、クラゲを長時間眺められるほど好きなことは潜入時代に把握済みだ!!
あの時はずっとライの服を握っていて全く動かなかったな…。そのうちトイレに行きたくなったライが必死に動くように言うが動かず、お手上げになったライがこちらを困惑気味に見てきたのは懐かしい記憶だ。

「ちっ…三雲」
「ふぇ?」
「あっ!!」
「先に約束したのは…俺、だよね?」

奴はあろうことか彼女の顎に手をやり…いわば顎クイをしやがった。キスでもできるんじゃないかという距離に彼女は目を見開き、顔を真っ赤に染めてコクコク頷いていた。
それを見るとフツフツと怒りがわいてくる。

「寒がりの彼女をこの時期、動物園になんて酷な話ですよ、その位も分からないんですか?」
「何言っているの君?三雲はフワフワしたものが好きなんだよ?そんなこともしらないのかい?」
「何言っているんですか、僕は彼女が水族館で魅力になれるものを知っているんです」
「そんなの僕も知っているに決まっているじゃないか」

ギャイギャイと言いあっている二人にキョトンとした三雲はこっそり入ってきた綱吉に目を向ける。

「姉さ〜ん」
「あれツナ」

綱吉はギャイギャイ言いあっている男を見て、「うぁ…」と呟き、こっそりと三雲の席に近づく。

「どうしたの?」
「うん、このあと時間あるなら植物園とか一緒にいかない?」
「うーん…」

三雲は綱吉の提案に嬉しそうにしたが、あ…と気づいたように彼らを見る。
綱吉の誘いは勿論、二人の誘いは休みなしに働いていた彼女にとってはうれしかった。
忙しくて、疲れ気味の自分に降谷はデザートや飲み物を、雲雀は息抜きに外に連れ出してくれていた。
最近では雲雀がどこかに連れていこうとすると降谷が間に入ってくることが多いが、寒さの苦手な自分に考慮した提案をしてくれた降谷は勿論、寒さに関しても恐らく対処を考えて提案してくれた雲雀に対しても嬉しかった。
しかし、本人をそっちのけで口論してしまってはこちらもつかれる。
ただえさえ既に午後を過ぎているというので、行くなら早めに行きたいところだ。
今だに口論の絶えない二人に溜息を吐いて綱吉に「しかたない」と呟いて、OKを出す。
そろ〜と出て行った沢田姉弟に二人が気づくのは何時のことやら…。