4月、新学期。
天気も良く過ごしやすい気候の中、私はおろして間もない制服に身を包んでいた。
先月に「違う高校に行ってもまた遊ぼうね」なんて友人と話しながら帰った田んぼ道を颯爽と飛び越えて電車は進んでいく。
窓を見ると、うっすらと反射した私の姿が映っていた。まだ体に馴染まない制服と鞄に靴。それらがこそばゆく私を賑やかしている。
ピカピカの1年生、そんな言葉がピッタリだった。
しかしピカピカの外側と裏腹に内側の、特に下腹部の辺りはドロドロのズキズキだった。
朝起きて、ご飯食べて、支度して家を出る。そこまでは良かった。高校生活初めての登校だし、寝癖もすこし気になったからドタバタしていたし、気が逸れていたのかそこまでの痛みではなかった。
しかし電車でじっとしていると、どうにも痛い。
人が少ない土地だとはいえ流石に朝の電車は混雑しており、座席に座る事もできず吊り革を握り締める。
頼むから早く着いて、と受験ぶりに神様に祈った。
なんとか気を逸らそうと、目を閉じ唇の裏を噛んで耐えながら違うことを考える。
高校はどんな所かな。友人は出来るだろうか。委員会や部活はどうしようか。先生や先輩は優しいかな。勉強分かるかな。自己紹介はなんて言おう。緊張して変なことを口走ったらどうしようか。
全員がしん、とした教室を想像したところで、またお腹の痛みが強くなった。
目を閉じたら五感がより研ぎ澄まされる気がして慌てて目を開けた。そしてそのまま目の前に座っている人の脚を睨みながら、静かに痛みと格闘する。
そこでふと、その足が学ランのスラックスである事に気が付いた。そのまま学ランの上着を見れば、少し光沢を失った金属色のボタンがキチンと1番上まで留められているが襟のカラーが無い。兄が昔カラーを捨てて怒られていたけれど、この人も怒られたかなあ。
視線を上げると、学ランの男の子とばちりと目が合う。見られていた?

「……………」

彼は一瞬目を伏せてから、覗き込むようにまた視線を合わせる。

「あの……気の所為だったら申し訳ないけど、大丈夫ですか?気分でも?」
「あ、えと…」

咄嗟に言い淀む私を見て、彼は席を立った。

「良ければどうぞ。次で降りるので」
「あ…………、あの、ありがとうございます」

少し申し訳ないが、正直とても有難かったので促されるまま電車のシートに座る。
実はちょっと辛かったんです、と重ねてお礼を言うと爽やかな笑顔で返された。
爽やかで、穏やかで、人の気持ちを暖かく安心させてくれるような笑顔だった。
そんな笑顔を噛み締めていると次の停車駅に着き、下車する彼に再びお礼を言いながら見送る。
自分が下車する頃には少し痛みも落ち着いて、安堵しながら改札を抜けた。
構内を出れば太陽が暖かく私を照らしていて、先ほどの彼の笑顔を思い出す。そして「ああ、いいな」と独りごちて、
歩道の傍に黄色い花に目を向ける。とても綺麗だ。
彼は身長からして高校生であろう。体に馴染んだ制服からするときっと上級生だ。
あと1年か2年かした時に、私も彼のように誰かに手を貸してあげられるだろうか?
お婆さんの荷物を持ってあげる自分の姿を妄想して、コッソリ悦に浸る。まあ、今の時代にお婆さんの荷物を持った方がいい機会など無いのだろうけど。

ただ、彼のように。
人に優しく、暖かい気持ちにさせてあげられる高校生に、私もなりたいな。

そう思いながら通学路を進む私は、いつの間にか胸を張って歩いていた。

CLAP