▼顕現したての巴形
「主。困っていることはないか?欲しいものはないか」
顕現した刀はまず近侍を任される。らしい。
人の身に慣れさせる為、経験を積む為、などと聞いたが何が理由でもよかった。
主と共にあり、力をふるう。それが俺の物語となっていくのだから。
それに俺は、静形に比べれば側仕えは向いている。
早速なにか出来ないかと、主へ声をかけた。
「おー?んじゃあ、酒と煙管と女」
主は、机に散らばる書簡に目を通しながら答えた。
尋ねたは良いものの、到底自分では検討もつかぬ知らない何かを頼まれたらどうするかとも思っていた俺は、それを聞いて安堵の息を吐く。
「あい分かった」
良かった。3つとも、知っている物体だ。
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「……という訳だ。この本丸では、酒と煙管と女はどう調達する?供物か?」
「待て待て待て」
顕現した時に主と共にいた、山姥切国広を廊下で見つけて、呼び止めた。
顕現した刀はまず近侍を任されるのだと説明してくれたのも彼だった。
「アイツはまた馬鹿な事を……」
ぼやきながら大きなため息をつき、被っている布の端を引き下げるようにして顔を隠した。布もそうだが身長差というのか、元々こちらからはあまり見えないのだが。
「ここでは、お前が1番の古株なのだろう?」
「そうだが……」
「ならば教えてくれないか」
「…………酒と煙管は万事屋で買え」
「女も?」
「女は買うな」
「何故だ?」
山姥切は顔を上げ、「お前もか」と言って呆れるような表情を見せた。
こうして近くで見ると、青い瞳が透き通っているのが分かった。
「その3つ、長谷部が顕現した時にも言っていたんだよ。審神者の悪ふざけだ、真に受けなくていい」
「長谷部?」
「お前と似ている。アイツも何故買えない?と言っていた」
「そうか」
買えないのか。その辺りに落ちていないだろうか?長谷部とやらはどうしたのだろう。
ううむと考えていると、山姥切と似たような着物を着た刀が廊下の向こうから駆け寄ってくる。
濃紺の、不思議な形の着物だ。彼も青く透き通った瞳をしている。
「兄弟!こんな所にいたんだね。もうすぐ次の出陣だよ。備えなきゃ」
「ああ、今行く」
じゃあな、と足早に去る彼をこれ以上引き留める訳にもいかず、礼を言って見送った。
さて、どうするか。
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「主」
「おー巴か。どうした?」
結果的に、万事屋に行く事はなかった。
廊下で立ったまま思案している俺を見つけた次郎太刀が、それならばと酒と煙管を渡してくれたのだ。女はどうすればいいと思う?というか、もしやお前は女じゃないか?と聞くと「やだねえ!」と俺の背中を豪快に叩きながらケラケラ笑った。違ったようだった。
その後、貰ったそれらを主に手渡そうとそのまま執務室を訪れた。
声をかけ入室すると、当の本人はぱちくりと目を瞬かせるので、これではなかった何か間違っただろうかと一抹の不安を抱える。
「酒と煙管だ」
「あ、そうかそうか!ありがとうなあ」
ずい、と差し出すように渡すと主は嬉しそうに受け取った。良かった。これで合っていたらしい。
しかし、主の欲しいものはあとひとつ足りないはずだった。
「……主、すまない」
「ん?何がだ?」
「…………女は、用意出来なかった。それで…」
苦々しげに告げた途端、目の前の主は噴き出して畳に転がった。
「主?腹でも下したのか?」
「いや、すまん、違っ……あっは!ふ、ははっ!」
すぐに起き上がり、咳払いをしたかと思うと「いやすまない、続けてくれ」と促される。
「ああ。それで考えたのだが、俺を使えば良いのではないか?」
「んぇっ!?」
「俺がこうして側仕えしていれば、侍女など必要ないだろう?」
もし仮に用意出来たとしても、俺の方が出来ることは多いはずだ。豊穣の神事だとか。
「それに俺は側仕えだけでなく敵とも戦える」
「あ、あーなるほど。そういう事ね」
ビックリさせるなあと胸を撫で下ろす主は、どこか楽しそうだった。
「主、用があれば俺を呼べ。声の届くところに控えていよう」
俺は主の刀なのだ。任せてほしい。
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「やあ、君が巴形か!」
「お前は……?」
「俺は鶴丸国永。聞いたぜ、顕現初日に主の度肝を抜いたらしいじゃないか」
「度肝を…?何の話だ?」
「おお、これは素質があるな」