彼は、主が死んだひと月後に現れた。

「よお。アンタが山姥切か?」
「そうだ」

気安い言葉を投げかける彼は、飄々とした笑みを浮かべながら「初めまして」と挨拶した。
新しい審神者がこの本丸を引き継ぐのだと、政府からは事前通達があった。
主が病で死んでから、すぐの通達だった。
その通達を断固として拒否する刀も居れば、仕方がないことだと言う刀も居た。
だが、どれだけ額を集めても、主の死は変わらなかった。そうこうしている間にも時間は過ぎ、ついに新しい審神者の就任日になってしまった。
政府からの通達や指示を無視する訳にもいかないだろうと考えた者たちの中から、案内役として白羽の矢が立ったのが己であった。

「へえ、聞いてはいたけどホントに人間だな」

彼は好奇心を隠さずこちらを見つめ、感心するように言った。
不躾ともとれるその視線から逃れるように顔を逸らして、広間へと足を向ける。後ろから着いてくる足音が聞こえた。

「……俺たちは刀だ」
「分かってるって」

この本丸に居る刀は全て主に顕現され、主に仕えてきた。その月日は付喪神である俺たちにしてみればあっという間で、けれど深く、濃いものだった。
主が仕えていた存在である政府を無視する訳にはいかないが、かと言って素直に迎合できる訳もない。
新しい審神者を案内しながらも心中は複雑で、居心地が悪かった。




命のない刀に新しい肉体を与えられるなら、命を失った主に新しい肉体を与えたっていいじゃないか。

先日、そう悪態をついたら「主は付喪神じゃないからね」と眉を下げた石切丸に言われた。

人間というのは、まったく不便なものだ。