「直々の指名らしいし」
「……なぜお前が」
「さてね。遺産とでも思ったのかもな」
「遺産?」
彼は己の指に生えた爪をつまらなさそうに眺めながら続けた。
「あの人は、俺の母だ」
部屋中に、どよめきが起こった。
それもそのはずで、主に子どもが居たなど誰も聞いたこともなければ、腹が膨れている所すら見たことがないのだ。
主が審神者としてこの本丸に就任したのは齢が二十を越える前で、それから老いて病床に臥せるまでずっと本丸に居を構えていた。
外での仕事なのだと留守にすることはあったが、ひと月も経たずに帰ってくるのが常だった。
それに、彼は精々十八かそこらの青年に見えた。
主の息子にしては幼すぎる。
「あの方にご子息は居ない」
驚きと疑いを込めてそう返すと、それまで飄々としていた顔が初めて歪んだ。戦場で見慣れた、痛みを堪える人間のそれだった。
しかし彼はすぐにまた表情を戻すと、肩をすくめて言った。
「まあ、外と本丸では時間の流れ方というか、時代が違うからな。そう思うのもしょうがない。けど事実だ」
「…………聞かされていない」
「時間のこと?俺のこと?」
ああ、両方か。彼の言い草はこちらを嘲るようで、思わず顔を顰めた。
「随分と可愛がってもらってたんだな」
「そうだよ」
「お前たちは刀なんだろう?主が変わる事は今までもあったろうに」
意外そうな顔をする彼に、苛立ちを覚えた。
「……君には分からないよ」
拳を握り締めて言うと「分からんなあ」と返ってくる。ひどく無神経だった。
彼はその調子のまま続ける。
「あの人があっという間に死んだ様に、俺もあっという間に死ぬ。それ迄の辛抱だよ」
「不謹慎だ」
「でも、事実だ。そしてお前たちは、また新しい主を迎えるさ。その次も、そのまた次もな」
まあ、そうなるより早く戦を終らせろって言いつけられてるんだけどな。彼はそう嘯いた。