そして再び惑わされた
女の成長は怖いぞ。
誰だったか、大学の先輩に言われた言葉だった。
いつもの様に講義を聞いて、空いた時間にメンテナンスやら試走やら。
金城が走っていれば仕方なしに並走してやるし、待宮が走っていれば挑発して短距離レースに持ち込む。
いい汗をかいたな。と爽やかに抜かす金城は、この後教授と話があるらしくとっとと校内へ消えていった。
「なんじゃ。まだ走るんか」
「この後なんも予定ねえんだヨ。ほっとけバァカ」
耳障りな声をバックに車道に向かってハンドルを操作した。
ひゅん、と頬をかすめた風と共に視界の端で見覚えのある顔が、目を見開いたのが分かった。
それは、高校時代のクラスメイトの一人で、別に何度も話したわけでもない上に、見てくれも特に目をひくわけではない。
新開がいつだったか、こいつの事を、小さい上に純粋そうなのがいいななどと変態みたいな目線で見ていた時があったが…そうしたのだったか忘れてしまった。
いつも胸元にぶっさいくな狸のペンとメモ帳を入れて校内をあるくちっさい存在。
「荒北くんだ!」
控えめとはいいがたい大きさの声で、名前を呼ばれロードをとめて改めて声をかけてきたそいつを見た。
誰だったか、先輩が言ってた。
女の成長は怖いぞ。と
「わー!元気だった?あ、覚えてる?名字ですよー!」
口からこぼれる声やテンションはまるで変わらないくせに、そのナリは、一丁前に大学デビューを果たしたのだろう。
見たことのない薄めの化粧をしたそいつの頭を、かき乱すようになでてやった。
ああ、覚えてる覚えてる。
俺に正面切って口悪いねなんて言ってきた初めて言って度肝をぬかせたお前の事は。
でもこんなお前を初めて見た俺の心情も、あの時以上に予想外だ。
end
20170206