ことばがたりない
無表情な奴だな!と隣で小平太が声を上げたのは、別段いつもの事であったと思う。
その言葉を浴びせられたくのたまは、貴方の同室さんと何が違うのよとちらりと自分をいっぺんして唇の端をわずかに持ち上げるのだ。
「私はあいつのことが好きじゃない」
小平太がはっきりとそんな事を言うものだから、皆がこぞってそれはどんな奴なんだと面白半分で聞いていた。
本人は何が気に入らないのか、それがあまり明確でないのかわからんが好きじゃないと繰り返した。
なんとなく、本人ではない自分にはその理由がわかっていたが、教えようかなどという感情はふつりともわかない。
「…なに」
「…いや」
放課後のにぎやかさもない図書室で、本を二冊ほど枕にしたくのたまが、顔をあげてつぶやく。
私語は、とここで口にする気もない。
「私さ、七松くんにさ、嫌われてるじゃない?」
「…ああ」
「私よく言われていたのよ。貴方、中在家くんと似てるって」
なのに、なんでかな。学園内で通ずる共通矢羽根が耳につんと流れ込んでくる。
また、本に向かって顔をうつむけてしまったくのたまの肩がぴくりとわずかに揺れ、腕が小さく震えた。
声に出して泣き叫んで鬱憤を晴らすような醜態など見せてたまるものかと、しかしどうかこの気持ちだけでも誰かが気づいて、少しの情をもって慰めの言葉を吐き出してはくれないだろうかと。
感情がうまく伝えられない事が、いたいほどよくわかった。
その芯に寄り添える存在に自分であればなれるのではないかと思っていたから、友人に彼女の本意など伝える気もおきなかった。
「中在家くんになりたいわ」
「(俺は、小平太になりたい)」
end
20160729