狼まであと何秒?
気をつけてと言えば、いってきますと門前で手を振る二軍は、今から資材補給の為長時間の遠征へと向かう。
「流石は、薬研率いる粟田口短刀部隊。早い早い」
「若い者は元気があっていいことだ」
「さあ、三日月殿。私と茶でもどうだ」
いただこう。と紡いだ言葉にまだ茶筒からだしてもいない茶葉の匂いが鼻にかかる気がした。
二軍から四軍までの三隊を遠征に向かわせ、自分を含めた一軍は内番と相成った。
しかしながら自分と手合わせの予定だった太郎大刀が、先日の戦いにて重傷の為手入れ部屋へと促されてしまったのだから俺は暇を持て余し朝から主の後ろを短刀と同じようについて歩くばかりだ。
先ほどちらりと手入れ部屋を覗けば、あの大柄な体をようやく横に寝かせていたからあと半刻もすれば目も覚めるだろう。
「いやぁ、三日月殿と茶など飲める日がくるとは」
うまいうまいと繰り返す女だてらに言葉遣いの荒い主は、縁側で音をたてて茶を啜る。
鶯丸の秘蔵の茶葉でなかっただろうか、と少し思ったが気にはしない事とした。
桜が揺らぐ、ほこほことした湯気に主の頬も、淡く桜を宿している様だ。
「桜餅か」
「お、それは私の事ですかな?」
ただの独り言だったのだが、思いの外大きく声がでてしまいそれを聞き取った主は、無邪気な笑みを向ける。
人の体となったものの食べたことはないそれの知識は、甘く、そして葉の苦味と塩気の調和だと聞く。
甘ったるいだけではないというのだから、もう幼子でもない主には似合いの菓子ではなかろうか。
「ご明察。いや、主殿もやはり女子か」
少しずぐりとした喉奥を押し込める様に少しぬるく渋くなり始めた湯のみを傾ける。
食べたいなぁなどと笑う主は、このぐずる喉の理由を言ってしまえばどうするのか。
俺よりも若くして、その意味と、目の前の俺をどう見るのか。
遠くで、主。と太郎大刀の声がした。
end
20150626