バレンタインデー

2月14日
バレンタインデー。
乙女の勝負の日。


マリアは真夜中、厨房に足を踏み入れる。


「厨房、借りるわよ」

「どうぞ。お怪我はなさらないように」


セバスチャンは朝食の下ごしらえをしていた。


マリアは隣でノートを取り出し、鼻歌混じりにご機嫌にクッキーを作る。


綿棒で生地を伸ばし、型抜きでクッキーの型を取る。


オーブンにクッキーの生地を入れて焼き上がるのを待つ。


計画を書いたノートを開き読みながら、順序よく後片付けをしていく。



セバスチャンは作業をしながら、チラチラとマリアを見る。

一旦部屋に戻ると小袋と小さなカードを持ってマリアは厨房に戻って来た。


「よし!焼けた!」


美味しそうな香りと共にハートや星のクッキーがたくさん焼き上がっていた。

クッキーを冷ましながら、小さなカードにメッセージをさらさらと書いていく。


一人一人の顔を浮かべながら。



冷めたクッキーを小袋に入れて、封を閉じて可愛らしいシールでメッセージカードを付ける。


「よし!完成!」



箱にクッキーを静かに詰めると、厨房からマリアは去っていった。



朝一で、馬車に飛び乗ると、タウンハウスへ向かった。


コンコン


勢いよくドアを叩くとソーマが出てきた。



「こんな朝早くからどうした?マリア」

「これ、ソーマとアグニに!いつもありがとう!じゃあね」

また馬車に飛び乗ると、ミッドフォード邸に付く。


「どうした?」

きょとんとしたエドワードにクッキーを渡す。

「いつもありがとう!」


葬儀屋に着く。

「アンダーテイカー、食べてね!いつもありがとう!」

「ヒッヒッヒッ、ありがとうお嬢ちゃん」



馬車に乗り、ファントムハイヴ邸へ戻る。

「バルド!いつもありがとう、はい、どうぞ!」

「フィニ、いつもありがとう!どうぞ!」

「スネーク、いつもありがとう!蛇ちゃんの分もあるわよ!」


ハキハキとテキパキとクッキーを渡していく。




階段をかけ上り、書斎へ向かう。



扉をバタンと開けば机に向かい仕事をしている愛しの弟、シエル。


「どうした、姉さん」

「シエル!いつもありがとう!」


クッキーを渡す。

「…ありがとう、姉さん」

恥ずかしそうにシエルは言う。

一通りクッキーを配り終えたマリアは、お気に入りの場所薔薇が咲く庭で、満足気に次の計画を建てる。


「メイリンとリジーとフランシス叔母さまにもあげれば良かったかしら?グレルは一応レディだし、ホワイトデーにあげても大丈夫かしら?」



ぶつぶつ言っていると、いつの間にかセバスチャンが表れてティーカップに紅茶を注ぎながら言った。


「マリア様、私には?」

「貴女は何も食べないじゃない」

「そうですか。少し悲しいですね」


そう言うと、セバスチャンは跪き、薔薇の花束と小さな箱をマリアに差し出した。


「これは?」

「元来、バレンタインデーは女性が好きな男性にチョコレートをお渡しする日だと伺いましたが、男性から好きな女性にお渡しするのも悪くないでしょう」


勝ち誇ったような笑顔のセバスチャン。



マリアも隠していたクッキーをそっと出すと、顔を背けながら恥ずかしそうにセバスチャンに渡す。


「べ、別に貴方だけの為に作ったわけじゃないんだから!」


「ありがとうございます」


マリアからのメッセージカードには


「貴方が大好き」

と一言書いてあった。