悪夢






夢を、見た。
遊園地で、いないはずの母親と、いないはずの父親と手を結んで歩いている幼い頃の私。母親は、微笑んでいた。見たこともない顔で。

『なまえ?今日は、楽しかった?』
『うんっ!』
『はは、なまえは元気だなぁ。』
『おとーさんは、元気なの、やなの?』
『違うぞー。悪い意味じゃなくて良い意味で言ったんだ。』
『ほんと?』
『あぁ本当さ。父さん、嘘はつかないぞー』

こんな記憶、知らない。
おやは、死んだんだ。昔に。それに、こんな遊園地知らない。知らない。知らない。
ざー、とノイズ音が鳴ったあと、場所が変わった。楽しそうな空間から、一気に惨劇へと移る。
血の匂い、サウナに放り込まれたような大量の汗。倒れている両親らしき人達。
この記憶は、知ってる。おやが、死んだんだ。ガスコンロが故障して、死んだんだ。私は、奇跡的に生き残った。
お母さんが力を振り絞って幼い私に微笑みかける。同じように、お父さんも。

『おかーさん…?おとー…さん?』
『必ず生きるのよ?なまえ。』
『お父さん、お母さんの分までしっかり生きて、墓参りをしてくれないか?なまえ』
『なん、で、おはかまいりの、話をするの?』

おとーさん、おかーさん、死ぬ、の?

幼い私は、小さな声で問いかけた。ーー途端、暗転。

目を開けたら、祖国の家とは違う天井だった。
そっか、私、ロマーノの家に泊まってたんだっけ。

「今、何時……?」

チラリ、とベッドに置かれた時計を見ると、4時を過ぎた辺りだった。
頬に痛みが一直線に伝わる。痛みを伴った部分に触れると、何かが乾いた後があった。涙だ。
泣いてたんだ。私。ありえないほどの他人事のように感じた。
知らない記憶で泣くなんて、なんて滑稽なことなのだろう。
そう思いながら、また眠りについた。