勇者認定


 罪木さんの着たメイド服は主に花村に好評だった。西園寺さんは「ゲロブタクソビッチのくせに!」と怒っていたから一応褒めてはいるのだろう。罪木さんはエヘヘ。と笑っていた。天使か。

「ところでみょうじさんはメイド服着ないかな?」
「ん?花村、何言ってんだ?メイド服は罪木さんみたいなスタイルが良くて、ギャップ?みたいなのがある奴じゃないと似合わないだろ。」
「いやいや!みょうじさんも十分似合う筈だよ!僕が保証する!」

 そんな保証をされても困る。言いたかったけれど、言葉を飲み込んだ。
 花村の発言を軽くスルーをして、罪木さんの元へと駆け寄る。

「ほら言っただろ?罪木さん。絶対に似合うって」
「あ!みょうじさん…
エヘヘ…ぁ、ありがとう、ございますぅ…」

 頬を赤に染めて「ありがとう」と言う罪木さんが可愛かったので、取り敢えず抱きしめた。胸の所に罪木さんの柔らかい胸が当たる。下着越しでも温かさが伝わる。
 …うん、悪くない。

「なにしてんだ、みょうじ…」
「む、左右田。見て分からんか?ハグをしている。」
「そうじゃねぇよ!んなの見りゃ分かるわ!…なんで、罪木はメ、メイド服着てんだよ…」
「かわいいだろ?…あ、お前はメイド服苦手だったか?なら、次はバニーガール「おいみょうじ!流石にそれは罪木に駄目だろ!」

 別に似合うから良いと思うのだが…
 少し頬を膨らませていると花村が何か料理を持ってきた。十神は勿論、澪田さんもその料理を見たくてウズウズしていた。私も左右田と一緒に覗き込むと、桃やみかん、苺にりんごにさくらんぼ…等の果物を透明なゼリーで包んだものだった。
 流石超高校級のシェフと言うべきか、すごい出来栄えだ。見ただけで美味しいと思ってしまう。

「うっひょー!輝々ちゃん輝々ちゃん!何すかこれ、いつの間に?」
「んっふふふ。実は元から今日食べようとして作ってたんだよ!」
「うわー…美味しそうだね、それに綺麗だし」
「わ、美味しそうですねぇ…」
「だなー。なぁ、花村。少し気になっていたんだが…」

 私はそう言うと17個ある内の、1つだけ周りより一回りも二回りも大きなゼリーを指差した。しかもそれには一種類だけじゃなく、沢山の種類の果物がいっぱいいっぱいに詰め込まれている。
 個人的な予想は十神と考えた。元から二人は料理を作る側と食べる側で時たま仲良く喋っているのを見るからだ。簡単な推理だが、大体みんなそう思っているだろう。けれど、花村がゆっくりと私を指差した、ように見えた。…え?

「まさか、私のか?」
「そうだよ?何かご不満でも?」

 丸々とした顔を横に傾けているのを見て、可愛らしいと思ったのは秘密だ。多分西園寺さんらへんから「趣味わるーい」と罵られるだろうから。
 それとしても、なぜ私にこんな大きなゼリーを?
 私が花村に問いかけると、にこにこといつものように人懐っこい笑顔で言った。

「みょうじさんがみんなの命を救ってくれた、いわば恩人だからだよ!」
「はーー恩人?私はそんな大層なことをした覚えがないんだが」
「んもぅ、惚けないでよ」

 花村は柔らかな笑みで、私にゼリーを渡した。沢山の果物がゼリーに包まれて、まるでデータ型のジャバウォック島にいる個性豊かな私達のような。それを見ていた私に近づき、小さい背丈を私にできる限り同じにしようとして、「だって君は、狛枝くんのことを助けたんだよ?」と発した。
 …あれは助けたというか、止めたに近いと思うのだが、同じ意味だろうか?わからん。
 ーー怖くないのか?超高校級の暗殺者と名乗らずに、超高校級の歌声と偽りの情報を言った私を。怪しまないのか?このことだって、さっぱりわからん。
 頭の中でこのことを考えていたはずなのに、みんなに聞かれていたらしい。俯いていた顔を真正面に移す。するとみんなが笑っていた。

「は…?」
「ばかだねーっ、みょうじおねぇは。暗殺者だからって、わたしたちが怯えるとでも?」
「…普通、そうだろ」
「それでもだよ。だって、コロシアイを進めようとした狛枝くんのことを、止めたのはみょうじさんなんだから」
「七海さん…西園寺さん…」

 3人で和やかな雰囲気を味わってると、小泉さんが男子達に「アンタ達は何か言うことがあるんじゃないの?」と、睨んでいるような顔をしていた。男子は日向を先頭に、ばらばらだが「あの時を狛枝を止めてくれてありがとう」と言った、ように聞こえた。なんて言っているのかは分からなかったが、なんとなくで聞き取る。
 極めつけはメイド服を着ている罪木さんが、珍しくドジをしないでスプーンを私にくれた。照れている様子が可愛すぎて、最初の一口は味がわからなかった。花村、すまん。

 ちなみに、狛枝はこの様子を見て「超高校級のみんなが〜」と、いつもの希望論的なものを言い始めてしまった。せっかくのいい話がダメになってしまったようなかんじがする。
 日向を筆頭に、みんなが嫌そうな顔をしていたからだ。私は気にしないのだが。
 そんな先輩方の様子を見ながら、みんなで食ったゼリーは美味しかった。