男性転換
突然だが、これからある出来事を教えよう。
私達は普通に朝ごはんを食べて、普通に自由に好きな時間を過ごしていただけなんだ。私も、コテージで好きなことを思い思いにやっていた。ーーなのに、なんでこんなことになったんだ。
違和感を感じてふと、鏡を見る。そこに写っていたのは、自分と似ているが、自分とは言い難い人が立っていた。
それが不思議に思い、左腕を天井に向けて上げる。鏡の中の誰かも鏡合わせで左腕を上げた。次に眉間に皺を寄せる。鏡の中の誰かも皺を寄せた。それからもいろんな行動をしたが、鏡の中の誰かも自分と同じように動く。私は絶句した。まさか、そんな。ありえない。
なぜって、そこに映る人物は、男なのだから。
背の伸びた自分。シュッとした顎の輪郭、いつよりかもやや細くなった目。首を触ると、女には無いはずの喉仏が掌にゴツゴツとダイレクトに伝わる。そのまま、腕を下へと落とすとクビレの少なくなった、何時にも増して筋肉質なお腹。薄くではあるが、腹筋が割れている。普段なら割れてるほどの筋肉なんて、ついていないのに。ズボンの下から脹脛を触ると、予想はついていたが、固くなっていた。
「あ…あ!あー、あー…」
声は、低くなっていた。何故か怖くなって、ベルトを外す。
ーー絶叫
「うわぁぁぁぁぁぁぁアアア!?」
「みょうじ!?どうし……」
日向が入ってきた。何故だ。というかこの状況を一体どうやって説明すればいいんだ。
腰と太腿の間あたりに、ズボンをずり下ろして涙目のまぁまぁ華奢な男なんて、日向は見たくないだろうし。
「だっ……誰だよ!?」
「私だ!みょうじなまえだ!」
「はぁ!?」
日向は勿論信じてくれなかった。いや、こんな事信じてくれる奴なんて滅多にいないだろう。とにかく私は、ありったけのことを猛スピードで話した。
「日向!ここにいるのは男だが、正真正銘みょうじなまえ!超高校級の暗殺者なんだ!何故か突然鏡を見たら男が映っていて混乱してしまって嘘だ嘘だと思いながら身体を触ったんだ!そしたらあんなトコロを触ってしまったんだ……!ああもう嫌だ死にたい…」
「とりあえず落ち着けって!だったらまずズボンを上げろ!そして手を洗いに行ってこい!」
手を洗いに行ってこい!
その一言で目が覚めた。私はハッとして勢い良く立ったあとに手を洗った。なんであんなトコロを触ったんだ……罪木さんに消毒してもらおうか…ああダメだ。そしたら罪木さんが汚れてしまう…
あの後泣きながらも日向に引っ張られて皆の下に行った。最初は皆日向が男の恋人を!?みたいな騒ぎになったが、小泉さんと辺古山さんが状況を察してくれた。誤解を解いてくれて嬉しかったのでとりあえず罪木さんに抱きついた。
何時もなら罪木さんと同じ目線が、罪木さんを見下ろせるというなんともない幸福感があって良かった。本当に良かった。
日向や狛枝はこの目線を何時も見てるのか…羨ましい…
『みょうじさんの男体化でちゅか?はわわ、それは大変でちゅ!一刻も早く治す方法を…!』
『ウププ…それには心配及ばないよ』
『なっ…モノクマ!?なんで』
『はあーあ…みょうじさん。ボクは君にガッカリだよ…』
『はぁ?別にモノクマにガッカリされても…』
『なんですと!?こんなにプリティーでキュートなボクを更に追いやるなんて…なんて罪な生徒なんでしょう…』
『で?何がしたいんだ』
『ウププ…ウプププププ…みょうじさんには更にオシオキを追加してもらうよ…!』
『なっ…!モノクマ!お前、みょうじに何をさせる気なんだよ!』
『やだなぁー、日向くん。ボクは優しい優しい学校長だよ?そんなに酷いことを、生徒であるみょうじさんにするわけないクマーッ!』
『ウワッ!?何だコイツ、いきなりキレやがった!』
『まあ…こーんな、下らない茶番はココまでだよ…みょうじさんには、一日だけの男体化ではなく、一週間!この体で過ごしてもらいまーす!』
『……はい?別にいいぞ?』
『エッ?』
『だって罪木さんを見下ろせて、男ということは、壁ドンとか、床ドンだろ?そのまま既成事実をつくってもいいわけだ!』
『チッゲーだろ!みょうじ!』
『なんだ、左右田?自分がソニアさんよりも小さいからって慌てるなよ…』
『なっ…べっ、別にんなの気にしてねーよ!』
『どーだかなー?』
『うっせうっせ!』
『ウー…なんなのさ!ボクのことを放ったらかして、痴話喧嘩なんてしないでよね!』
『痴話喧嘩じゃねぇ!』
『……となると私は左右田と夫婦ということか?…うん、似合わんな!』
『オメーも笑顔で言うんじゃねぇ!』
先程の漫画のような展開を思い出して罪木さんに埋もれながら笑った。ギュウ、と罪木さんの腰と背中を抱くか周りの目なんて気にしない。何故って、周りの目よりも罪木さんが柔らかい。元々抱きついたら女子特有の柔らかさが程よくあって、まるで天然クッションのような感じがしていたが、今、男となってはそれが強くなった。気持ちがいい。
「うゆぅ…みょうじさぁん…?」
「なぁ、罪木さん…」
「は、はい!なんでしょう、か?」
「やっぱりなぁ、私は罪木さんが好きだ。」
え。と罪木さんが固まるのを感じた。でも私には関係ない。そのまま本音を思い思いに話した。
…途中で平和な、絶望の残党へと変わる前の学園生活での罪木さんのことを言いそうになった。危ない危ない。
そっと顔を罪木さんに向けると、罪木さんは顔が真っ赤になっていた。
「?どうしたんだ、罪木さん」
「ぅう…わ、私、も…?」
「私も?」
「!…うゆぅぅ…わぁ…私もぉ!みょうじさんのこと、大好きですぅっ!」
大好き。
そんなことを言われたのは、何時ぶりだろうか。その後、皆からもバラバラに「俺も、みょうじのことは…」とか、「ァ、アタシも…」とか聞こえてきた。
「っ……ありがとう…皆ぁ…」
男のままなのが残念に思えてしまうのは仕方ない。涙目で、ありがとう。とだけ伝えた。
「なんでさ、なんでなのさ!」
「…何がだよ?」
「コッチのセリフだよ!もう!なんでお風呂に入ろうとしないのさ!」
「仕方ねぇだろ!男の身体で入れるものか!」
あの後はいい雰囲気で終わった。でも弐大の一言でその雰囲気はガラリと変わった。
ーーそういえばお前さん、風呂はどうするつもりなんじゃ?
そう、風呂。今は男の身体で、風呂のことなんて考えていなかったのだ。
「うぅ…男でも大丈夫な訳がなかったんだ…風呂…あぁ…嫌だ…またアンナノを触りたくはない…」
「ウプププププ…まっ、これはオシオキだからね!お風呂に入りたくても入れない、そんな絶望を感じてくれたらボクとしては嬉しいなぁ!」
「このっ…外道がっ」
……前よりも絶望を感じる度合いが低くなってきてないか?私が何回もコロシアイを止めたからか?それともプログラムだからか?わからん。
「一週間…風呂入らない、のは不味いよな…」
私はそう言って頭を抱えた。
しかし翌日、ベッドから起き上がり、鏡を見る。
背が低くなり、目が大きくなった自分が居た。首を触ると喉仏なんてなく、平だった。嬉しくて目が潤んだ。
腹にもクビレが元通りに出来ていて、筋肉質ではなく、女の身体になっていた。
「………そうだ、風呂だ!風呂に入らなくては!」
風呂で念の為もう一度確認をすると、アレもすっかりなくなっていた。もうトイレを我慢する必要がなくなったのだと思うと、また泣きそうだった。ああもう嬉しい。
そして皆にも伝えると、良かったな。と声を掛けられた。罪木さんも言ってくれた。…もう罪木さんを高い位置から見れないのは残念だが。
「うーん…それにしても残念だよねぇ」
「何がだ?」
「だって、もうあのみょうじさんの綺麗な体型が見れないんでしょ?あんなに華奢なのに、下にはアレが付いているっていうギャップがいいんじゃない!」
「……花村?」
「ひぃ!?ご、ゴゴゴゴゴメン!」
「みょうじ…?」
多分皆には私が鬼の様に見えているのだろう。だって皆怯えてるし。左右田に至っては上に被っているのを引っ張って、顔を隠そうとしてるくらいだしな。でもこれは花村が絶対悪い。絶対にだ。…ああでも、
「もう一回、1時間だけ男になれるんだったら、いいかもな」
「はぁ?みょうじ、さっきまであんなに男になるの嫌がってたじゃねぇか」
「それは…そうなんだが…ほら、1時間だけなら、罪木さんを1時間抱きつけるだろ?」
言った途端に西園寺さんから「みょうじお姉キッモ!」と言われた。…流石に傷付いたぞ。私は。