世界で一番愛してるわよ!


サクモモ夫婦…身長的に仕方ないと思う
私の旦那は男女ともに恋愛対象に性別を問わないという友達が多い。
それだけではない、親戚にはかわいい人間の女の子や、未来から来たという孫の幼馴染のオーガ女子、元貴族のお姫さまやイケメン男子。
ただでさえ旦那はオーガやかわいいプクリポに目がない(推しだとかなんとか言ってるけど)。
「いや…あの人は友達っていうなんていうか」とか色々言うが、ちょっとだけ…いや割と気に食わない。
小さな抵抗として、そんなときはふわふわの長いしっぽを軽く引っ張ってやるけども。
今日も今日とて旦那と会話する皆の輪に入るタイミングが掴めずに遠巻きで彼をにらんでいた時、スッと自分に影が落ちた。
「すいません、戦士の方ですか?」
「は、はあ」
顔をあげるとあらイケメンね。といっても知り合いのカイくんみたいな爽やかなタイプではないし、どちらかというと旦那の弟に似ているタイプである。
まああっちのがイケメンだろうけど…むかつくけどあっちのがイケメン…だと思う。むかつくけど。
むかつくイケメンウェディである義弟の姿を思い浮かべたら無性にむかついてきたわね…と歯ぎしり。
話かけられているのを忘れていた…と、慌てて相手を見上げると、持ってる武器からして僧侶かしら。なんて。
そう思っているとさわやかな笑顔を向けられた。
「よかったらカードボス、一緒に行きませんか?」
「…え、やだ」
なにが悔しくてあの男と似たような雰囲気の魚と出かける事ができようか。
ましてや、旦那とその親戚以外の男と二人で遊ぶなんてことは考えたコトがなかったので速攻で断るが、社交辞令かと思ったらしい目の前の魚男はまだ言葉をつづけた。
「そういわず、オレは僧侶なんで戦士の方がいると安心しますし…ね?」
なんだこの男!馴れ馴れしいにもほどがあんぞ!やんのかコラ!と拳を握り、ぶんなぐる!と腕を振り上げた…その時だった。
「サクラさん?」
よくとおる、金属に跳ね返りより響くテノールが自分の名前を心地よく呼ぶ。
その声に視線を挙げると、いつもの赤いマントが自分とウェディの間で翻り、藍色の壁が視界に広がった。
「そろそろ帰るぞ」
「あ」
見上げると藍色の鎧を着た、さっきまで仲間と喋っていた自分の旦那が、自分を隠すようにして立っていた。
「どうかしたか?」
いかつい鎧で作っている声だが、そのコテンと首を横に倒す幼い仕草に今までの苛立ちは煙のように消え去る。
「…いいえ、なんでもないわ」
帰りましょうか、と言ってから自分を守ってくれたのだと思い、嬉しくなって走り出す。
くるりと振り返っていまだにそこにいる旦那に向って大きく口を開き、大きく叫ぶと旦那を置いて走り出した。
やはり、自分にはあの人しかいないなと心で実感しながら。
「…なんだ突然…」
嫁の突然の行動に茫然とした旦那ことモモンが首をひねっていると、後ろから小さな声が聞こえた。
「旦那さんがいたんですね…」
振り返ると見覚えのないウェディの男がこちらを見上げていた。
「え、誰」
「えっ?」
実は相手が小さくて見えてなかったことは、知らなかったことにしよう。