見てはいけない


その言葉はきっとあなただけの為に
※ファーハルのファーブニル視点で昔のウォルモモ
※軽いエロが入ってます

「うちに来て呑むか?」
とファーブニルはその男に誘われた。
そいつはモモンの元カレで、現在ではモモンの家族を守るために近くで見守っている番犬のような男だ。
たまたま自分の恋人の実家に誘われて行ってみれば、その男とばったり遭遇してしまった。
同じオーガの男であるからなのか、それてもやけに自分の恋人に距離が近いだからなのかは知らないが、あまり得意な存在ではない。
しかし、自分の恋人は祖父っ子だと聞いていたので知ってはいるが、自分の祖父だというそのモモンが実家で仕事をしているとベッタリと離れるコトがない。
その為自分は手持無沙汰になりがちなのだが…、それを見かねたのかその男アンヲルフはポンポンとファーブニルの肩を叩いて、にかりと笑って先のセリフを述べた。
「おう…」
あまり得意ではなかったが、断る理由もないので恋人に一言告げてから共にアンヲルフの家へと帰宅した。
アズランの森の奥、そこにその男の家はあった。
「ま、モモんちみたく広いわけじゃねぇけどな」
とログハウスのような家に入ると小さなカウンターがあり、カウンターの中にある棚には多くの酒が並んでいる。
「なにか好きなもんあるか?」
「や…別になんでもいいっす」
自分よりは幾分か年上のオーガにそういうと、アンヲルフは「そうか」と言って裏口の戸に手をかける。
「実は俺が地味に作ってる酒があるんだ」
それをとってくるな、と裏口から出て行ってしまった。
アンヲルフを見送ってから、ぐるりとその家の中を見渡す。
簡易な家、壁には色々な紙が貼ってあるが、何がかいてあるか分からないようなものから、モンスターの討伐依頼、盗賊の討伐依頼なども混ざっている。
ベッドも簡易なもので、枕元には本棚もあり何かを勉強しているようにも見えた。
「…?」
ただ、整っているベッドの上にポツンとある小さな端末。
ドワーフの国で置いてあるような液晶の端末だった。
「なんだ?」
気になってその端末を持ち上げると、なにやら映像なようなものを見ていたらしい。
「…ほほー」
ベッドの上にあったのだ、きっとエロ映像か何かだろうとファーブニルはその端末に映し出されている再生ボタンを指で押してみる…と。
『やっ…あっ!!』
『ほれ、もっともっとすごくなるぞ?』
『とまっ…とまれバカっ…!』
端末から聞こえてきたのは聞き覚えのある声だ。
しかも大分艶のある…、そうそれは自分とセックスをしているときの恋人のような声だった。
「これ…は」
ファーブニルはまさか、とその動画が再生されていくのを黙ってみるコトにした。
画面いっぱいにうつるのは、発達した両胸の筋肉、そこにはふっくらと膨らんだ赤い乳首。
男の大きな指がそこを指でカリカリと刺激してやりつつ、たまにぎゅうっと摘まんでやっていた。
アンヲルフは、自分の腰を大きく前後にスライドしながらそれを繰り返す。
『あっっっっんんんん!!』
『おーおー、モモちゃんはここ弄られるのがすきだねぇ』
『っざけ…オマエのせいだろっ…が…あんっ!』
少しだけ言葉責めのようなこともしているが、それがまたちょっとした快感につながっているのだろう。
肌同士がぶつかりあう音と、かすかに聞こえるぐちゅぐちゅという音、その水音すでにこの行為が何度目かの事だというのがわかる。
何故だろうか、自分はノンケであり、いまの恋人がたまたま男だったというだけで男同士のセックスに何か興奮したり興味があるわけではない。
それなのに、いま目の前で動く動画からは目が離せなかった。
『んっく…あっ…あっあっあっウォル…♥』
「っ…!」
いま、その理由が分かった気がした。
動画の中で艶っぽく喘ぐモモンの表情が、どことなくだが自分の恋人に似ているのだ。
よくモモンの妻が「ピュンちゃんはパパそっくりよね」と言っているが、最初こそオーガの男であるモモンと自分の恋人の表情が似てるなんて聞いてもピンとくることはなかった。
だが、こうして素の顔をよく見ると、ふとした瞬間の表情がよく似ている事がわかる。
モモンは普段、家族以外には顔を出すことは少ない上に、人とは壁を作って接しているからだろう。
『ウォルッ…ウォルッ…』
艶声だが、どこか悲しい声をあげるモモンの頬には快楽からくるものとは違う涙が流れていた。
いつも見るコトはない恋人の祖父の涙に、ギクリとした。
『モモ…俺はおまえが…』
『おれも…ウォルが…』
「っ…」
ここから先は見てはいけないような気がして、ファーブニルは動画を停止させると、そっと端末を元の場所に戻す。
そこから先の言葉はきっと、あの人にとって大切だったに違いない、たった一人しか聞くことの許されない言葉だろうから、聞いてはいけない気がした。
「またせたな」
「ああ…」
ファーブニルがカウンターの椅子に座りなおしたところで、ちょうどアンヲルフが戻ってきた。
その手には澄んだ美しい紫色をした液体の入った水指が握られている。
「山ぶどうを使った酒なんだ」
美しい紫色をグラスにいれて、ファーブニルに渡す。
「キレイだろ」
注がれた色を見て何を思っているのだろうか、ファーブニルはぎゅう…と心臓を掴まれたような気分に陥る。
ああ、これが切ないという思いなのだろう。
自分は好きな奴の傍にいて、お互い愛し合うことができている。
以前くってかかってしまった事を後悔しつつ、その液体を少しだけ口につけた。
うまく笑えているかどうかは分からないが、隣に座ろうとするアンヲルフに微笑んでみる。

「うまいっす」

その酒は俺には少し甘かった。