ふたりはニチニチソウ
病院はあまり気持ちがいいものではない。
入院している人、 診察のために来ている人…自身が健康でも、そのような人たちを見ているとどうにも気が滅入ってしまう。
どうやらボクはあんまりメンタルが強くないようだ。マイナスな気持ちや空気にすぐ流されてしまう。
こんな様子ではこれから先---来月からの生活が思いやられる。一体どうしたものか。
はぁ、とため息をついてカップの中のミルクティーを見た。
ここは病院に入っている喫茶店で、さっきまで母さんと一緒にいたのだが…癒者に呼ばれて出ていってしまったため今はボクひとりだ。
ひとりになると余計にダメになる。
はぁ。2度目のため息。
「ハル?」
「あぁ…ハイ、ネビル」
俯いていた顔を上げるとネビルが立っていた。
その手にはティーカップと小さなパンケーキが乗ったトレーがある。
「ここ座ってもいい?」
「どうぞ」
「ありがとう」と言ってネビルはボクの向かいの席に腰を下ろす。
正直ほっとした。こうして弱ってしまったとき、気心の知れた友人が傍にいるのはかなり心強い。
「ハル、顔色悪いけど大丈夫?」
「時々あるんだ、こういうの。だから大丈夫」
「あーうん、なんとなく分かるかなぁ…僕もあんまりここにいると、ちょっと」
いい気はしないよね、とネビルは眉を下げた。
ネビルとボクは似たような境遇で、また同じ理由でここを訪れているからか、感覚が似ている、或いは同じところがあるようだ。
「そうだネビル、誕生日おめでとう」
「ありがとう。プレゼントちゃんと届いたよ!今読んでる途中なんだけど、とってもおもしろいね!」
先週の7月30日はネビルの誕生日だった。
ボクはプレゼントにボクが読んで面白かった薬草についての本を贈った。ネビルは薬草--もとい、植物が好きなようだったからきっと興味を示してくれるはず、と思ってあの本を贈ったのだが、どうやら正解だったらしい。
あれはホグワーツでも実際見ることができるであろうものが多く記載されていたし、何より解説が分かりやすく面白い。すっと頭に入ってくる感じだ。きっと入学してからも授業で役に立つだろう。
「…ハルはさ、ホグワーツ楽しみ?」
「あぁ、楽しみだ。でも不安がまったくないわけじゃない。守らなくてはいけないものもあるし…」
「守らなくちゃいけないもの?」
「…うちの次期当主だ」
「次期当主…」
うちの家はネビルの家のように純血の家系ではないが、魔法界ではそこそこ---いや、かなり有名な家である。
ある魔法に関してはボクの一族に敵う者はそうそういないだろう。しかしそれ故、ボクらを脅して力を悪用させることを考える輩なんかが後を絶えない。だから貴族でもないのに“当主”なんてものを設けて統制をとり、血を、魔法を守っているのだ。
ちなみに現当主はボクの母さんである。
「僕、てっきりハルが継ぐんだと思ってた」
「そりゃボクが1番ならボクが継ぐんだろうけど、母さんの見解ではアイツの方が上なんだ。そしてボクもそんな気がしている…これは完全に勘だが」
本来であれば、当主の子供が跡を継ぐのが妥当だろう。けれどボクらの一族は少し特殊なのだ。血を濃く引き、より魔力の強い者が選ばれる。それが当主の弟の、スクイブとマグルの子供だとしても。
「その次期当主も9月からホグワーツなんだよね?」
「そうだ。騒がしい奴だからすぐ分かると思うぞ」
「ちょっと楽しみかも」
「魔力はさておき、性格はだいぶ…アレだから期待しない方がいいぞ」
悪い奴ではないんだが、性格が本当にめんどくさい。静かに暮らしたいボクとは大違いで騒がしいし…正直アレの面倒をみないといけないのかと思うと不安しかない。放っておきたい。
しかし、アイツが立派な当主になれるように道を示すのがボクに与えられた役割なのだから、構わないわけにもいかなくて。
考えたら少し胃が痛くなってきた。
「ホグワーツ行くの正直不安だったけど…ハルがいるって思うとちょっと頑張れる気がしてきたよ」
「ボクもネビルがいると思うも気持ちが楽だ。…この先迷惑をかけるかもしれないが、それでも友達でいてくれると、その…嬉しいし、ありがたい」
「何言ってるの!僕、これからもずっとハルの友達だよ!」
そう言って笑うネビルの姿がなんだかとても頼もしく見えて、ボクは少し泣きたくなった。
いい友人を持ったな、我ながら。
(旧・拍手お礼文)
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