「なぁ……本当に良かったのか? あいつらのこと……」


 マルクト帝国首都・グランコクマ。
 キムラスカとはまた一風変わった、偉大さを主張する荘厳な宮殿の回廊を、ルークはイオンに連れられて歩いていた。
 その足元には、チーグルの森で彼が助けた聖獣チーグルの仔・ミュウが忙しなく跳ね回っている。どうやらミュウは、水の気配が濃いこの城を殊更気に入ったらしく、一時期に比べれば随分と元気に見えた。
 しかしそれとは正反対に、何処か落ち込んだ様子のルークに、イオンは穏やかな笑みを浮かべて応えた。

「ええ、あのまま放っておけば、彼らは己の罪を何時まで経っても自覚しないままでしょう。此処で誰かが歯止めをかけないと、逆に彼らが笑い者になりかねませんよ」
「そ。相手のことを思うなら、鞭も必要ってことさ」

 ルークの後ろから、イオンと同じ声音――しかし口調がまったく異なっている――で話しかけられ、ルークはくるりと振り返る。
 其処には、六神将・烈風のシンクが立っていた。
 けれど、ルークは特に驚くことも無く、彼が傍へ来るのを特に咎めるようなことはしない。
 何故ならばルークは、彼が自分達の味方であることを知っていたし――何より、自分やイオンと同じレプリカで、いわばイオンの兄弟とも呼べる存在。
 どうして、彼を敵対視することなど出来ようか。

「レプリカって言っても、その身がキムラスカの王族で第三王位継承者ってことには変わらないんだよ。しかも、アクゼリュス救援の親善大使を任された、国王の名代。それをアレだけ論って扱き下ろすなんて、身の程を弁えない馬鹿としか言い様が無いね」

 冷笑を浮かべて言い切ったシンクにルークは頬を引き攣らせ……イオンはくすくすと笑いを漏らす。

「シンク。そんな言い方をしては、ルークが脅えてしまいますよ?」
「だっ、誰が脅えるかっつーの!」

 自分よりも明らかに年下の少年二人にからかわれたことを悟ったルークは、顔を真っ赤にして怒り出す。
 けれども、彼が本気で腹を立ててなどいないことは明らかで、素直でない態度がまた可愛らしいと、二人は顔を見合わせて思った。
 生まれて未だたった七年の、しかも、自分達のように刷り込みも、ろくな教育もされずに大きくなったルークは、真実純粋な子供そのものだった。それが、ルークを最愛とする二人には好ましく映って見える。
 彼は、良くも悪くも素直で、そのことがかつての同行者達には煩わしく感じられた。一度心を開けば、こんなにも分かり易い、無垢な性格だと云うのに。

「それは兎も角……幾らマルクト皇帝といえど、ジェイドは彼の幼馴染。きっと悪いようにはしませんよ。他の方に関しても、出来るだけ僕達も尽力しますし」

 他ならぬイオンにそう言われて、ルークはほっと息を吐いて――笑った。
 それは、アクゼリュス崩落後から初めて見せた彼の微笑で、ずっと元気の無いルークの姿を見ていたイオンも、シンクも、ミュウも、心から安堵したのだった。



*  *  *



 ――無論、ジェイドや他の者の不敬罪・及び職務怠慢等の罪が軽減されるかと云えば……そんなことは有り得ない。

 確かにマルクト皇帝・ピオニー九世はジェイドの幼馴染だが、彼の男がそれを政治の場に持ち出してくることなどする筈も無いし、そのことは、イオン達とて百も承知だ。

 そしてティアやアニス、アッシュ、ガイ、ナタリアの罪に関しても、幾らイオンが奔走したところで意味は無い。というより――する気もない。
 ティアとガイ、ナタリアに関しては、処罰の権限はキムラスカにあったし、アニスはマルクト陸艦タルタロス襲撃の手引きをした疑いがある。シンクが裏から手を回していたために、双方に死亡者は出なかったが、導師守護役という立場でありながら導師を何度も危険な目に遭わせ、挙句スパイ行為を働いていたなどと……許せよう筈もない。

 アッシュに関しても、カイツールにおける王位継承者への狼藉、カイツール軍港での破壊活動、バチカルでの導師誘拐など、幾らキムラスカとて庇い切れないほどの罪を重ねている。レプリカ・被験者の問題を入れて考えてみても、アッシュを《ルーク》としてキムラスカへ戻すより、今まで通り、ルークを《ルーク》として置く方がキムラスカ王室のためになる。
 事実、グランコクマよりも先に訪れたバチカルでは、アッシュとルークの入れ替え自体を隠し、アッシュを排そうとする動きが出始めていた。間も無くアッシュを切り捨てにかかるだろう。しかしそれは自業自得だ。彼はあまりにも傲慢過ぎたのだ。

 唯一アッシュを庇うであろうナタリアに関しても、偽姫疑惑が生じ、その上王命に背いて勝手にキムラスカを出奔したことが民の間に伝えられ、かつての人気は今や底辺スレスレまで落ち込んでいた。彼女もアッシュと共に切り捨てられるのではないだろうか。



 過去、ルークを誘拐し今のルークと入れ替え、アクゼリュス崩落の預言を歪めようとしたヴァン・グランツとその配下である六神将は、キムラスカ・マルクト両国及びダアトから指名手配されている。
 イオンとシンクの説得に応えたアリエッタだけは、降格したものの、彼女自身はヴァン達に利用されてきたということが分かっているので、それ以上の御咎めは無いだろう。



*  *  *



「これからが忙しくなりますね、ルーク」

 アクゼリュス崩落後に判明した、外殻大地を支えるセフィロトツリーの老朽化と、それに伴う大地の崩落。
 それらを防ぐために、イオン達三人は、大地を崩落させるのではなくルークの超振動を利用してパッセージリングに命令を送り、降下させるという作戦を各国のトップに伝えて回っていた。
 つい先ほど、ピオニー陛下からも了承の返事を貰ったところである。
 彼は、ヴァン・グランツ達の妨害を危惧し、フリングス少将とその部下である一個小隊を貸し与えてくれた。
 キムラスカからも同じ理由で、セシル少将とその部下を就けられている。

「なんてったって、叔父上達に任されたからな」
「ふぅん? 《英雄》はもう良いの、ルーク」
「うるせー! それを言うな!」

 かつての師から唆された言葉を思い出して、ルークはむっとしてシンクに突っかかった。
 あの頃は、シンクもイオンも傍に居なかったから、もしかしたら師匠の言う通りかもしれない……と、上手く話に乗せられてしまったのだ。勿論、その後でイオンから笑顔で諭されてしまったが。
 ――自分やシンクより、あの髭を信用するのですか、ルーク? ……と。
 正直、あの時のイオンは、ジェイドなんかより余程怖かった気がする……などと、ルークは心の底から痛感した。
 それすらも、今のルークにとって、幸せの一端となっているのだけれど。




「港のノエルと合流して、一先ずシュレーの丘に向かいましょうか」

 イオンの提案で一番近いパッセージリングから操作して回ることになった。

「行きましょう、ルーク」
「行こう、ルーク」
「行くですの!」

 心から信頼出来る二人と一匹にそう言われて、ルークは、笑顔で頷いた。






優希様リクエスト「幸せに暮らす緑っ子×ルーク+ミュウ、反対に罪人となったPTメンバー+アッシュ」でした。

あれ、暮らしてない、旅を続けてるよ!なんてこった!と書き上げた後に気付きました(汗)
きっと外殻大地降下作戦完了後に緑っ子がバチカルへ突撃、「息子さんを僕らに下さい!」ってファブレパパに申し出て、「息子はやらんぞー!(ガシャーン←ちゃぶ台をひっくり返す音)」とか、そういうやり取りを経て三人と一匹で暮らすんだと思います(遠い目)
勝手なマイ設定としては、緑っ子が逆行してるか、緑っ子が本編前にルークと知り合ってるかって感じです。読む分にはどちらでも大丈夫、だと、思うんですが……?あれ?

リクエストありがとうございました!



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