「――話になりませんね」

 タルタロス艦内の一室。
 マルクト皇帝ピオニー九世陛下の名代としてキムラスカへと向かう途中であったジェイドは、運良く《保護》した公爵子息であるルーク(とオマケのティア)に和平の橋渡し役を《頼み》込み……
 其処で、冷たい声音の彼の言葉に邪魔された。
 温厚な人柄の彼が発した声とは到底思いがたく、すぐ横に立つ導師守護役のアニスも、あた、ジェイドと同じように驚いているようだった。
 唯一、動じていないのはルークと、彼を慕う聖獣チーグルの子供であるミュウのみ。

「僕は確か、和平条約の仲立ちを頼まれたとばかり思っていたのですが……ジェイド、貴方は和平を成功させたいのですか? それとも失敗させたいのですか?」

 にこやかに微笑みつつもまったくもって目が笑っていない、幼き導師・イオンの痛烈な言葉に、室内の温度が五度ほど下がったような心地すら覚える。
 何故、導師に叱責を受けなければならないのかまったく理解出来ないジェイドが、眉を顰める。

「勿論、成功させたいのですよ、導師イオン。だからこそこうして、ファブレ公爵のご子息であるルーク様にお願いを――」
「相手を蔑んで見下して、彼に対し礼を尽くすことを《安っぽいプライド》と言うそれが、王族に対して振舞う態度なのでしょうか。例えば、マルクト皇帝にその様な態度を取れば、まず間違いなく不敬罪で極刑。少なくとも和平を結ぶなど戯言と一笑に付されると思うのですが……?」

 自分よりも一回りも二周りも年下の少年に指摘され、ジェイドは言葉を失った。
 ――確かに、その通りだ。これがピオニーになされたものだったら、イオンの言う通り死罪ものだ。

 子供に言われなければ分からないのか、何故こんな男を和平の名代になど遣わしたのかと、《頼まれた》側のルークにとって、理解に苦しむ話だった。
 キムラスカは身分を重んじ、また階級思想がかなり根強い。もし、彼がルークと出会わず、誰にも態度の不遜さを指摘されないままキムラスカ入りしていたらいい笑いものになっていただろうと、ルークは嘲笑する。

 ――まぁ、彼がどう思われようが、自分にとってなんの不利益も無い話なのだが。

 マルクト皇帝の懐刀と呼ばれている著名な人物とは云え、所詮たかが佐官だ。敵国といえど王族であるルークに対して礼を尽くすのは当然であり、脅迫――もとい、頼みごとをするなど、以ての外。
 軍人であるならば、王族に対し頭を垂れるのは当然――なのだが。

「ですが、導師イオン。今のはルークの態度は良くありません」

(またしゃしゃり出て来やがった)

 脇から口を挟まないと気が済まないらしいティアに、ルークは内心舌打ちした。
 この女は、一体自分を何様だと思っているのだろうか? まさか、一兵卒如きが、王族よりも偉いと勘違いでもしているのか?
 ……案の定、イオンの顔から笑顔が消え失せ、冷たい視線が、ティアへと向けられる。

「ティア・グランツ奏長。何故貴方が、ルークの態度に口出し出来るのですか」
「え?」
「ルークはキムラスカ=ランバルディア王国の第三王位継承者にして、キムラスカ貴族の重鎮ファブレ公爵大元帥のご子息。ひいては、未来のキムラスカ王になる方です。何故貴方のようなたかが兵士が、彼と同等のように振舞っているのですか」

 イオンの指摘に、ワケが分からないとでも言わんばかりに戸惑うティア。
 ジェイドと違ってこちらは、指摘されても、己の愚かさ加減に気付けないらしい。
 これ以上イオンを煩わせるのもどうかと思い、ルークは緩慢な動きで凭れ掛かっていた椅子から身を起こすと、頬杖を突いてティアを見た。

「ヴァン師匠の妹だろうとなんだろうと、キムラスカにしてもダアトにしても、お前は一兵卒だってことだ。俺やイオンに口出しする権利なんて無いって言ってるんだよ」
「なんですって!?」
「ナンデスッテじゃなくて――お前理解力無ぇなー……ああ、説明するのもうぜぇ。なぁイオン、こいつを王族への不敬罪適用ってことで牢屋にぶち込んでも良いか?」

 深い深い溜息の後でそう言ったルークに、ティアはいきり立ったが、

「勿論、構いませんよ。ローレライ教団は今後一切、彼女を擁護しません」
「ど、導師イオン!?」

 笑顔で告げられた切り捨て宣言に、ティアの顔面が蒼白になる。
 罪を自覚して――ではない。自分が仕えるべき主=導師から見放されたという事実に慌てているのだろう。相変わらず、自分が何をしたのか分かっていないらしい……快諾したイオンからルークへと映したその視線は、酷く憤っていたのだから。

「えっと、カーティス大佐だっけ。外交センスが皆無でないことを祈って、この女の処置を頼む」
「……了解致しました」

 ジェイドまでもが、自分を捕らえるよう部下に命令し出したのを見て、ティアはぺたりと床に蹲った。唯一、導師守護役のアニスだけが同情的な視線を寄越すが、結局それだけだ。巻き添えになりたくないのか、目線が合った途端、実にあっさりと顔を逸らしてしまった。
 ……一連の出来事に口出しをせず、静観するその割り切った態度は、軍人としてはそれなりに良いのではないだろうか。少なくとも、ティアよりは遥かにマシだ。
 猿轡を噛まされて連行されていくティアの後姿を見つめるアニスを視界に入れつつそんなことを思ったルークは、ふと、イオンへと視線を走らせた。

「ご好意、感謝する。礼に――というわけでは無いが、出来るだけ、助力させてもらおう。最も、爵位も持っていない俺に出来ることと云ったら、本当に口添え程度だけどな」
「いえ、それで結構ですよ。ありがとうございます、ルーク」

 そして、ふと考え付いた。

(……このやり取りの方が、余程《交渉》らしいよな)



*  *  *



 先ほどと打って変わり、橋渡し役についての話し合いが終了した後。
 人気の少ないデッキの上で。ルークは、イオンと二人きりで顔を合わせた。

「やっと、二人きりになれましたね」
「ああ……そっちは、アニスの再教育に成功したみたいだな」
「ええ。ご両親の借金については、貴方の御陰です。アニスがお礼を言いたいそうですよ」
「あれは俺の金じゃなくて父上たちの金だよ。俺が礼を言われるようなことじゃない」
「……ふふ、相変わらず、素直じゃないですね」

 頬を撫ぜる風に目を細めながら、イオンが楽しそうに笑う。それにつられてルークも微笑むと、不意に、顔を引き寄せられた。
 ……唇を掠めた感触に、身体を離したルークの頬が真っ赤に染まる。

「……誰かに見られたらどうするんだっつーの」
「僕は見られても構いませんが?」
「俺は構うっ」

 ふいっと顔を背けてしまったルークに、イオンはくすくすと笑みを零した。

「怒らないで下さい。ずっと、ずっと……僕は、貴方に触れたかったんですよ」
「……分かってる。俺だって、そうなんだから」

 熱っぽく訴えかけるイオンの眼差しに、ルークも根負けして、彼が求めるまま……浅い、ついばむような口付けを受け入れる。
 ちゅ、と、音を立てて繰り返される行為は、次第に、ルークの頭の中を痺れさせていく。

「もう二度と、同じ過ちは繰り返しません……僕も、貴方も」

 囁きと同時に深く重ねられたキスに、危うく嬌声を漏らしてしまいそうになりながら、ルークは、自分達にやり直しの機会を与えてくれたローレライに、心から感謝した。









ルーク至上☆リクエスト「イオルクで!!もしくは、アリエッタ、シンクも含んだ無自覚ルーク争奪戦!! か仲間に精神的ダメージを与える話を!!」とのことでした。

仲間いぢめはほどほどにして(それでも指が勝手にティアをちくちくやっちゃうんです・爆)イオルクで気が合ってみたりラブラブだったりにトライしてみよう!と思う存分イチャつかせてみました。邪魔が入らないよう、周囲はアニスによって人払いされてます(笑)
分かりにくいですが、逆行前提です;二人で逆行してきて、既にアニスが再教育されてます。まっとうな導師守護役。もちろんスパイなんかしてませんよ〜。
イオルクでアレなシーンってあんまり想像出来なかったんですけど、いざ書いてみたらキスシーンくらいは普通に書けました。おお、意外と楽しい?!(笑)

リクエストありがとうございました!



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