遡ってきた者のうち、誰ともなしに呟いた。
 自分達無しで世界を救えるものなら、救ってみろ、と。



 その内、物語は始まる。

 マルクトから遣わされた和平の使者と共に、ルークはアクゼリュスを救援するための親善大使として選ばれ。
 信頼する親友と二人で彼の地へ向かうことになった彼は、旅の中、マルクトの名代達と親しくなり。
 海路を使い辿り着いた障気満ちる鉱山の街にて、幼馴染で婚約者の少女が手配してくれた救援物資を使って迅速な救助を行い住民達を救い。
 アクゼリュスこそは崩壊したが、起こったのはルーク達は揃って退去した後。
 キムラスカが預言に則り開戦準備を始めたところで、王女が父王を諌め説得を重ねた御陰で開戦は遅れ。
 其処へ急ぎ帰国したルーク達と、そしてアクゼリュス崩落犯であるヴァンの手から危うく攫われそうになった導師イオンが、事の次第を聞きつけ急遽バチカル入り。
 此処で、ヴァンの陰謀が明るみになり、キムラスカは預言に対し懐疑的になる。
 その上、事態を重く見たイオンが、医師立会いの下第七譜石を詠み上げた結果、消滅預言の存在が明らかとなり。

 ルークは、崩落を始めているという外殻大地を崩落ではなく降下させる為、再び旅へ。それまで共に旅をしてきた仲間達、そして教団から新たに聖女ユリアの子孫、更に導師御自らが導師守護役達を引き連れ、自国の汚名を雪ぐためそれに同行。
 彼らは見事外殻大地降下作戦を成功させ、更に、アクゼリュス崩落や諸々の罪で指名手配にかけられていたヴァン・グランツが、三国から選び抜かれた精鋭部隊によって討伐され、その首級が持ち帰られた。

 旅の最中、ルークや導師イオンが実はレプリカだったという事実が判明するが、世界を救うという大きな功績を残したことで国や民達からもおおよそ受け入れられることとなる。
 また何よりも、自らの出生に悩むことはあったものの、旅を共にした仲間達に支えられ、大きく成長を遂げたのだった。



 結局、あの時犠牲になった者達は、誰一人として命を落とすことなく物語は幕を閉じた。

 劇的に、そして穏やかに変化した世界から取り残され、ただ悔しげに歯噛みするしかない彼らは叫ぶ。──未来の知識を得て戻ってきた自分達ならば、同じように世界を変えられた、と。

 ……果たしてそうだろうか、と、『彼』は考える。

 自らの兄が外殻大地を崩落させるかもしれない、と分かっていて、何もしなかった者が。
 彼が精神的に未熟であると知りながら、導いてやることすらしなかった者達が。
 彼が七年しか生きていない子どもであると察しつつ、己が罪を暴かれること怖さに口を閉ざし続けた者が。
 自らの行いで数多の命が危険に晒されると、大切な者の命が脅かされると知りつつ何もしなかった者が。

 ──どうして、世界を変えられると思うだろう?

『傲慢で、実に醜悪だ』

 くくく、と一頻り嗤うと、『彼』は黄金色の焔をひらめかせ、蒼穹の空へと舞い上がる。

『お前達の願いは叶えられた。『ルーク』は生き延び、『イオン』は助かり、そして世界は彼らに優しい環境へと変わるだろう──少なくとも、この世界は』

 彼らが『英雄』となった世界では、決して救われることの無かった命である。
 自らが救うと意気込んだ彼ら自身こそが、二人の献身を搾取し、良いように振り回し、命すらも奪い取った張本人であると理解しなかった。──だからこそ、彼らに相応しい結末を用意するために、優しい声音で彼らを唆し、栄光の未来を奪い、『過去』へと送ってやったのだ。否、『過去』によく似た、別世界へと。
 其処で、少しだけ物語に干渉し、歴史を変えた。

 キムラスカの王妃には、子が望めるよう少しだけ癒しの力を分け与え。
 あの時ファブレ家には居なかったはずの青年が、使用人として採用されるよう手を出して。
 ダアトでは、真っ当な導師守護役長を任命するように預言をでっちあげ。
 ダアトで暮らす、心優しく穏やかな少女に、ローレライの譜歌を紡げる力を分け与え。
 マルクトでは、かつて排斥された皇族の子を保護し、生き永らえさせ。

 それだけ、たったそれだけのことである。意図して彼らを排斥しようとしたわけでもない。
 大した変化ではあっただろうが、しかし己の傲慢さを自覚していれば、或いは立場を理解していれば、少なくともルークに関わることは出来たはずだ。
 ……だから、これは自業自得。彼ら自身が招いた結末。

『……さあ、それでは我は戻ろうか。穏やかな眠りについたあの子達の待つ、空へ』

 現状を嘆き、『過去』へと遡る以前の『未来』へ戻して欲しいと懇願する声が聞こえる。だが、ローレライは地上に一瞥すらくれず、蒼穹の空へと視線を向けた。

 被験者ルークであるアッシュは、以前と違い大した罪を犯していなかったために、許され、キムラスカへ連れ戻された。其処で両親と幼馴染の説得を受け、ルークと和解したらしい。
 その後、各国の支援の下、手を取り協力し合い、ローレライの助力を得て障気を中和することに成功した。
 今、ルークとイオン、そしてアッシュは、預言の消えた世界を支えるべく、日々奔走しているようだ。だがその表情が、何処か満ち足りたものであるように見えるのは、気のせいだろうか?

『ふふ……この世界の同位体よ、そして我が眷属達よ。……幸せになるのだぞ』

 優しい声で彼らの未来を祝福すると、ローレライは空へと還って行った。



TOP &9665;#