花の白さが映える青く晴れた空の下
桜並木を並んで歩いた
めったに繋がなかった手を握ると
彼女は嬉しそうに目を細める
ゆるやかに吹く風は
濡れた土と青く微かに甘い匂いをのせた
手くらいもっと繋いでおけば良かったと
卑屈なふりをしていた自分を呪った
本当は彼女の好意にうぬぼれていたくせに
花びらがゆれてしゅわしゅわと鳴る
彼女の髪は春の光を透して柔らかく揺れた
はじめから、4年限りの恋だった
まだあどけなさの残る顔で
「今だけでいいから門倉さんと居たいです」
涙を堪える彼女に言わせたのは自分だった
期待するのが怖くてかけた保険が
今では絡まって脚を重くする
まっすぐな気持ちに惹かれて
隠した弱さも受け止めて
笑いあってますます好きになって
触れたときの髪の香りも
照れたときに服の裾を掴む仕草も
ひたむきに努力する姿も
自分の名前を呼ぶ甘い声も
全てが愛しくて
離したくないと言ったら
きっと困った顔をさせるだけだろう
そういう事に限って頭が回る
わずらわしい男にはなりたくなかった
ぬるい幸せに浸かるだけの人生を選ぶには
彼女はまだ若すぎたし
なりふり構わず引き止めるには
自分は少しばかり歳を重ねすぎた
「まぁ、その…身体に気をつけて、頑張ってな」
「うん、門倉さんも元気で」
そつない笑顔を交わしたふたりは
きっとどちらも正しくなくて
あらがうようにきつく抱き寄せる
大事なことは大切に思う程言えなかった
列車だけが正確に出発の刻を告げる
彼女ははなびらのように腕をすり抜けて
「ありがとう」
綺麗に笑う顔がずいぶん大人びたなぁなんて
駆け出した小さな肩は、もう振り返らない
銀色の列車が彼女を遠くへ連れ去る音を
背中に聞きながら
灰色にくすんだ並木を歩いた
ひとりきりには慣れているはずなのに
「まいったなぁ…」
霞んで、ぼやけて、はらはら零れて
桜の花が舞い落ちる
春が終わる