桜がきれいな季節が今年もやってきた。
「尾形さん、お花見しませんか?」
同棲をしてまだ2ヶ月……お互い忙しくて休日もゆっくり過ごす日なんてなかった。
「今度の休日にでも……最近忙しかったし気分転換になると思うんです!」
「別にいいが……いいのか?」
「何がですか?」
どうやら彼は最近多忙な仕事なため、体休めた方がいいのでは?ということらしい。
「はい!大丈夫です!!丈夫なだけが取り柄なので」ない力こぶを見せて自信満々に言ってみせた。
「じゃあ行くか。弁当、作ってくれんだろ?」
「ハ、ハイッ!!美味しいの作りますから楽しみにしててくださいよ」
これは久々に気合が入るお弁当ができそうだ。尾形さんに喜んでもらえるの作るぞ!
そして待ちに待った休日――
「すまん……後輩がとちったみたいで仕事入っちまった。早めに済まして帰るから」
休日のはずが尾形さんに急な仕事が入ってしまったようで朝からバタバタと支度をしていた。
「大丈夫です。気にしないでください!午後からでも全然問題ないし。ね!だから、仕事頑張ってきてください」
そう言って玄関で靴を履いた尾形さんに鞄を渡すと、腕を掴み少し引かれ「ん。」と、顔をこちらに寄せてきた。
「名前、頑張る彼氏に何かねぇのか?」
ニヤつきながら早くしろと目で訴えてくる彼に、恥ずかしさで頬を熱くしながら尾形さんの頬にチュッと軽くキスをした。
すると目の前から大きなため息が聞こえ「そこじゃねぇだろ」と掴まれてた腕を更に引かれ唇へキスをされた。
離れる時に唇を舐められて益々顔が赤くなった私に、
「ハハッ!こりゃ仕事が捗りそうだ」
そう笑うと私の頭をガシガシ撫でて、いってきますと出ていった。
「さて、一応私はお弁当作りますかっ!!」
もし尾形さんが遅くなってしまっても晩御飯にもなるし!
仕事入ってしまったのは残念だけど、桜今すぐ散っちゃうわけじゃないしね。
弁当も作り終え時刻も14時を過ぎた頃、電話が鳴った。
着信は尾形さんからだった。
「はい、もしもしどうしたんですか?」
「名前………すまん。夜まで帰れそうにない」
申し訳なさそうな電話の向こう側の声は、いつもと違いとても弱々しく聞こえる。
あぁー……この人も残念がってくれてる。楽しみにしてくれていたんだと思うと少し胸が温かくなった。
「気にしないで。仕事だし仕方ないですよ」
「早く帰りてぇ……お前とゆっくり花見してぇ」
余りに正直に言うものだからクスっと、笑ってしまった。
「そうですね、私も一緒にお花見したかったです」
「でも、仕事は仕事です!頑張って仕事終わらせて帰ってきてください。お弁当全部食べちゃいますよ?」
「作ったのか?」
「ハイ!尾形さん楽しみそうだったので、お弁当」
すると電話口で盛大なため息が聞こえて、また少し笑いそうになってしまった。
「絶対、残しとけよ弁当……」
その返答が可愛くて手で口を抑え笑っていると、
「オイ!聞いてんのか?…………お前、笑ってるだろ」
「いえいえ、笑ってなんていませんよ……プッ!」
「ったく、笑ってんじゃねぇか。いいか、残しとけよ!べ・ん・と・う!」
そう言うと、仕事戻るからと通話が切れた。
なんだか子供の様に拗ねた尾形さんが可愛くて電話を切った後も暫く、思い出してはニヤニヤしてしまう。
花見は出来なくなってやはり寂しいがこんな彼が見れるならこれもありだな……と、また思い出してニヤついてしまう。
「掃除でもして待ちますか!」
時刻は21時まだ帰ってきていない。
予想以上に大変なことになっているのかまだ彼は帰ってこない。
帰るまでに時間を潰すため、掃除も洗濯も済ませた。さっき尾形さん帰ったら疲れてるだろうからお風呂のお湯も入れ始めた。
「少しだけ………いいかな」
冷蔵庫から缶チューハイを出し小皿に少しだけお弁当の具を盛り、ソファーに掛けてたストールを羽織ってベランダに出た。
「うぅ、少し寒いかな」
ベランダからは少し離れてるが公園が見えて桜が見える。
なので待ってる間、一人プチ花見でもと離れた桜を見下ろしてお弁当を食べつつお酒を飲んでいた。
尾形さんには少し悪い気もしたが、仕方がない。お腹の虫が煩いのが悪い。
しばらく少しつまみながら離れた花見客を見て飲んでいると、
「おい、なに一人でおっぱじめてんだよ」
「っっ!!!」
突然後ろから声をかけられビックリして缶を落としそうになった。
「お、おかえりなさい。全然気づかなかったよ」
「ただいま。これでも急いで帰ってきたんだ。そしたら声かけても返事ねぇし、一人で窓閉めて飲んでやがるし……鍵でも閉めてやろうかと思った」
皿にのった卵焼きを手でつまみ、口へ放り込みながら彼もベランダで公園の桜を見下ろした。
「ここからでも見れるんだな、桜」
「少し遠いが場所取りのいらん花見席。いいじゃねぇか」
うめぇと言いながら桜を見て、皿のおかずをパクパク食べるので、今お弁当とお皿持ってくるから!と急いで室内からお弁当と小皿、箸とビールを持っていくと、尾形さんが私の缶チューハイ飲み干してる!
「一人で花見始めた罰だ」
と空になった缶を顔まで上げて振りながら笑った。
「ちゃんとお弁当残しといたのにぃ!」
「それは褒めてやる」
私の頭を撫でご機嫌のようだ。空きっ腹にお酒入れて酔ったのかな。
暫く桜を見ながら黙々と食べてると、
「今日は悪かったな……花見。桜の下でちゃんと見てゆっくりしたかっただろ?」
「花見できたじゃないですか!そりゃあ、尾形さんとゆっくりお花見はできなかったけど、今桜も見れてるし尾形さんとお弁当も食べてる!それで十分私は満足ですよ?」
自分の所に帰ってきてくれて、お弁当も美味しいって食べてくれて、大事にしてくれて……これで満足できないって言ったらバチが当たりそうだ。
すると尾形さんが手すりにおいてた私の手の上に尾形さんの手を重ねてきた。親指で手の甲を擦られくすぐったい。
「折角、一緒に住み始めたってぇのにろくに一緒にいてやれねぇし、外にもつれてってやれん……お前がこの同棲に後悔してねぇか正直不安だ」
そう言うと手をぎゅっと握られた。
「お前が嫌になって出ていかねぇか、帰ってきたらいなくなってないか、考えちまう……」
驚いた。
滅多に自分の気持ちを口にしない彼が不安だと、私が離れてしまうのではと吐露している。
きっと、今まで溜まっていたものがお酒と疲れで出てしまったんだろう。
私は上から握られてた手を返し、強く握り返した。
「私は幸せ者ですよ?好きな人と出逢えて、付き合えて、一緒に暮らして、一緒に食べて、一緒に寝て……こうして手を繋いでる」
「私もそりゃあ寂しくなることだってありますし、私も尾形さんを寂しくさせてることはあると思います。でもね……それでも余りあるほど私は尾形さんが好きです。だから心配しなくていいんですよ?」
固く誓う様に彼の目を見てそう告げた。
驚いた表情のあと少し眉根を寄せて握った手を引かれ抱きしめられた。
力いっぱい抱きしめられ少し苦しいが、それがとても愛しかった。
首元に顔を埋められ表情は確認できない。
暫く抱きしめられたまま頭をグリグリと肩に擦り付けられ、私はあやす様に彼の背中をポンポンと優しく叩き撫でた。
「お前がよかったんだ…」
ポツリポツリと彼が話しだした。
「お前がいい…お前じゃないとだめなんだ、きっと」
「俺は人が人を好きになるとか、わざわざそいつに時間をさくとか、何かしてやりたいとか意味がわからんかった」
「今は嫌でも分かるから怖ぇんだよ……」
子供の様に縋る彼がとても愛おしかった。
「私も怖いよ?浮気されたらどうしようとか、飽きられて捨てられちゃうかもとか……「するわけねぇししねぇ!!」
いきなり両腕を掴みガバッと顔を上げてそう言い切った。
あまりの勢いのよさに笑ってしまった。
笑うなと鼻を摘まれ、ハハッ!ブサイクだなと尾形さんも笑った。
同棲して初めてこんなにちゃんと話した気がする。
「また来年、お花見リベンジしましょうね!」
まだ少し冷たい桜舞う風の中、未来の約束をした。
二人の未来の約束を。