「お前絶対花粉症だろ」
朝起きてから幾度となく繰り返されるくしゃみと鼻をかむ音。
「違うよ。風邪だよ」
鼻と目が真っ赤な私は不機嫌を露わにゴミ箱にぐしゃぐしゃに濡れたティッシュを捨てた。
「薬飲んだら楽になるぜ」
と、花粉症とは無縁の尾形は不貞腐れながら歯を磨く私をあざ笑う。自分は花粉症のかの字も知らないくせして何をいうか。
「だから違うって言ってるでしょ」
「そうかぁ…じゃあ風邪なら…今日は安静にしていないとな。残念だがデートはなしだ。あぁ〜これは残念だ」
「え……なんでそうなる…それはいやだ…」
「わがまま言うな。風邪なんだろ。悪化したら大変じゃないか。今日は家で寝てろ。あぁ〜次の休みが被るのはいつになるかなぁ」
「…」
歯を磨き終えた私の顔をまじまじと見ながら、尾形は軽く髪を撫で上げる。
「柄にもなく今日のデート楽しみに…してたんだぜ」
そっと視線を外しながらポツリと落とされた言葉に私は思わず白旗を上げてしまった。
「花粉症の薬…もらってきます」
その言葉を聞くや否や悪い黒猫はニヤリと笑って「あぁ…そうしてこい」と、大柄な態度で言う。
猫かぶりとはこのことか。
いつものことながら、どうも私は彼に踊らされてしまう。強くいよう!と、毎回心に誓っては結局私は彼の手のひらの上だ。
どうしたものかそう考えながら手が思わず髪を撫であげる。
「あ…」
いつのまにか移ってしまった彼の癖に、思わず一人笑みがこぼれてしまった。
「何笑ってんだ」
「べっつに」
「せっかくだ。俺も一緒にいく。これもデートの一環だ」
「色気がないデートだこと」
「はっ!お前がさっさと薬飲まねぇからこうなるんだ。隣で苦しそうに鼻かんだり目かいたりされてみろ。そんなの…心配する…だろ…ってなんだその顔」
一体どんな顔をしていたのかはわからないが、この目の前の尾形から「心配」だなんて言葉が出てきた事に私の脳内が純粋に驚きと嬉しさに支配されてしまった。
「いや…だって…心配…だなんて…」
「なんだ。俺が心配しちゃ悪いか」
そう言う尾形は笑いながら私の耳を撫でる。熱くなっているそこは尾形の指すら冷たく感じるほどに煮立っているようだ。
「悪くない…嬉しい」
「そうか…」
耳を撫でていた指がするりと髪を梳かす。そのまま顔に添えられた手はいつものこれからキスをする合図だ。
「尾形…」
私は期待を込めてそっと目を瞑る。あぁ…そう言えばこうやってゆっくり休みを二人で過ごすのも久しぶりだし…そう言えば昨日の夜はキスもせずに寝てしまった気がする。
もう尾形の顔が目の前にある。
ふわりと香る彼の体の匂いに体の奥が締め付けられる。
その時。
「ヘッックションッ!!!」
盛大なくしゃみは私の顔面を唾液まみれにするのに十分な声量と肺活量だった。
「ヘックション!クションっ!あ〜ちくしょう…なんだってんだ」
ずずっと鼻をすすりながら、思わず垂れた透明な液体を子供のように袖口で拭く。
これは仕返しのチャンスでしょう。ねぇ尾形…
「尾形…絶対花粉症でしょう」