「えーっ嘘でしょ!?」
「ごめん! どうしても外せない用事が急に出来ちゃって……」
女友達と一緒にお祭りに行く約束をしていたのに、ドタキャンされた。まあ、ちゃんと電話してくれるだけまだマシか。
「今度また何かおごるからさ! ほんっと*にゴメン!」
「浴衣着てもう着いちゃってるんだけど?」
「た、楽しんできなよ! せっかくだし!」
「……はあ、もういいよ。その代わり今度そっちがヒマなときでいいから焼肉食べに連れてってよね」
「もちろん! 今日は本当にごめんね」
「ん、いいよ。じゃあもう切るね」
電話を切って辺りを見回すと、人、人、人……。この辺で一番大きなお祭りなだけあって、どこもかしこも人だらけ。楽しんできなよ、とは言われたけど人混み嫌いの私にどう楽しめって言うの……。でも帰ろうにも人の波に押されてなかなか帰り道の方に行けない。仕方ない、カキ氷でも食べたら帰ろう。その頃には少し人も減るだろうし、暑いのも少しはマシになるだろう。
あまり人が並んでいないカキ氷屋さんが丁度あったのでそこで買うことにした。
「……いくつだ」
このカキ氷屋さんにどうしてあまり人が居ないのか分かった。ちょっと、いやかなり屋台のお兄さんのガラが悪い。オールバックのツーブロというイカツイ髪型に加えて、顎のあたりには縫合痕がある。どう見てもカタギの人には見えない。
「ひ、ひとつお願いします」
「味は」
「あっ、えーと……いちごで」
「200円だ」
愛想もそっけも無い……。ちんたらして怒られるのは怖かったので、急いで財布から200円を取り出して渡した。
カキ氷を受け取って、ふと周りを見ると人がまばらになっていた。さっきまであんなにごみごみしていたのに……。人が減ったおかげでベンチも空いている。さっき買ったカキ氷は座ってゆっくり食べられそうだ。
よいしょ、とベンチに腰を下ろしてしゃくしゃくとカキ氷を口の中に放り込む。半分くらい食べたところで、どぉん、と大きな音がした。あぁ、そういえば花火の打ち上げは8時からだったっけ。皆は花火の見える川沿いに行ったからこの辺は人が少なくなったんだ。
花火を見るつもりは無かったのだけれど、打ち上がる音だけ聞いているのも何だかもったいない気がする。ここからでも少しくらい見えないかなぁ……。体を少し伸ばしてみたけど、今いる場所では雑木林の高い木々が邪魔をしてちっとも見えない。うーん、角度を変えたりすればちょっとでも見えないかな?
「おい、そこの」
「もうちょっと右かなぁ」
「そこの挙動不審な奴」
「うーん……やっぱり左にずれた方が……」
「……ハァ」
がしっ
「わっ! え、な、何ですか?」
ベンチから体を伸ばし伸ばししていると、突然手首を掴まれた。誰かと思って顔を見ると、さっきのカキ氷のお兄さんだった。
「これ、浴衣にこぼしたらまずいだろ」
お兄さんの目線の先を追うと溶けかけのカキ氷があった。浴衣の心配をして声をかけてくれたらしい。怖そうな人だと思ったけど、見た目で判断するのは間違いだったみたい。
「すみません、わざわざありがとうございます」
「花火も見ずにひたすらカキ氷食ってるかと思えば、急に挙動不審になるから何事かと」
「えっ、そんなに変でした?」
み、見られてたのか……恥ずかしい。そんなに激しく動いているつもりはなかったんだけどなぁ。
「花火、そこからじゃ見えんぞ。絶対に」
「ぜ、絶対ですか」
「絶対」
うう、残念だなぁ……。でも屋台の人が言うのだから本当に全然見えないのだろう。まあ、人も少なくなって移動しやすくなったことだし、少し惜しくはあるけど帰ろうかな。もともとそのつもりだったんだし。……でもやっぱり見ないってのはもったいない気もするなぁ。
しょんぼりうなだれていると、
「だが、あそこなら見える」
とぽつりとお兄さんが呟いた。お兄さんが指差す方を見やると、さっきのカキ氷屋さんの屋台くらいしか見当たらなかった。
「……屋台?」
「そうだ。ちょっとこっちに来てみろよ」
そう言われたので、屋台の中にお邪魔した。そこから空を見上げると、屋台の前は丁度木々の切れ間になっていたらしく、打ち上がっている花火がよく見えた。
「うわぁよく見える! 」
少し場所をずれただけでこんなによく見えるだなんて! 自分だけじゃ絶対気づけなかっただろうなぁ……。
「教えてくださってありがとうございます。すごく綺麗ですね、花火!」
打ち上げの時刻すら忘れていたけど、やっぱり見ると壮観だ。ついはしゃいでしまう。大きなお祭りなだけあって、花火の量も大きさも凄い!
「だろ?」
お兄さんはふふん、と得意気に笑った。最初の怖い人のイメージはどこへやら、何だか少し面白い人かもしれない。
「いつもここで屋台開いてんのもそういうワケだ。この人通りなんで商売繁盛というわけにはいかんがな」
「あはは……でも、本当にこの場所良い所ですね。人が少ないから静かだし、涼しいし」
もし、友達がドタキャンせずに来ていたら、普通に川沿いの人混みの中で花火を見ていたのだろう。それはそれでお祭りらしい賑やかさや熱気が楽しいだろうとは思うけど、こうやってゆっくり眺めている方がきっと私には合っている。
しばらく眺めていると、
「そんなに気に入ったんならまた来年も来いよ。ここだったらカキ氷食いながら見れることだしな」
とお兄さんが少し意地悪く笑いながら言った。
「もう!そんなに私食いしん坊なわけじゃないですから! でも、またここに来てもいいんですか?」
「人混みは嫌いだが、一人でってのも味気ないんでな。あんたもそうだろ」
「まぁ、そうですけど……」
「じゃあ決まりだな」
お兄さんはそう言うと、小指をぴっ、と立ててこちらに手を差し出した。
「……?」
「約束の指切りだ。知らんのか?」
それは知ってるけど……。わざわざ指切りで約束だなんて律儀というか、少し子どもっぽいというか。堪えきれず少し笑ってしまう。
「ふふっ、知ってますよ。分かりました、約束しましょう! 来年も必ずここへ花火を見に来ます」
「ん」
私たちは小指を固く結ばせて約束をした。絡めた小指の無骨さと、指切りという行為のアンバランスさにやっぱり笑ってしまう。
「あんた何さっきから笑ってるんだよ」
「え? ふふ、お兄さんってば律儀な人なんだなぁと思って」
こうやって話していて気が付いたのだけれど、来年もまた会う約束までしているのに、お互いの名前すらまだ知らなかった。
「いつまでもお兄さんって呼ぶのもなんですからお名前教えてもらえませんか?あの、私の名前は**」
「待った」
名乗ろうとすると、急にお兄さんが自分の唇に指を当てた。それからニヤリと楽しそうに口角を上げて言った。
「それは来年の楽しみにしとこうぜ」