乙女のはにかみを挟む






私の同居人には、変な癖がある。


「なぁ、尾形ぁ?」
「なんだ?」


その癖は、本を読んでいるとき側にいる人の耳をいじるというもの。


「私の耳を揉んでくるけどさ、楽しいの、それ?」
「は?揉んでないでだろうが」


しかも、無自覚の癖。
ホントに質が悪いとしか言いようがない。


「はぁ……、無自覚とはホントに怖いよねぇ」
「たしかに、この小説の主人公の無自覚さはヤバイな」
「おっと、まさか恋愛小説読んでる?」


そう聞くと、ようやく尾形は本から顔をあげてこちらを向いた。
どうやら彼は本当に無自覚に私の耳を揉んでいたようで、この光景を見ると固まる。


「…嫌、だったか?」


暫くの間固まっていた彼はそう言うと、少し悲しそうな顔を本で隠す。


これも尾形の癖の一つ。
私も同居を始めてから知ったのだが、どうやら“拒絶されるのではないか”と思った時に、側にあるもので顔を隠すようだ。


「なーんで、直ぐにそっちに思考がいくのさ、君は?」



まったく…。
一体何年間一緒に暮らしていると思っているのだろうか、この人は。


本で顔を隠しながら、こちらを見ている怖がりな猫を抱き締めるために、本にアンズの押し花の栞を挟み、目の前のテーブルの上に置く。
今は、心配性で意地っ張りで怖がりな猫を、安心させてやるのが先決だ。


「ほら、こっちにおいでよ。まだ触り足りないでしょ?」



それに、私も触られ足りないんだ。
―――もっと、触れててくれませんか?