小さな君と良い夢を
※組織壊滅後、灰原が宮野志保に戻っています。
※赤井さんが幼児化してます。
皐が夕食の用意をしていると、志保から電話が入った。
『ごめんなさい、皐さん。今、いいかしら?』
「ええ。いいけど……どうかしたの?」
尋ねれば『今すぐ阿笠邸に来てほしいの』と言われ、具体的な内容は来てから話すとのこと。
疑問符を頭に浮かべながらも皐が阿笠邸へ向かうと、そこには信じられない光景があった。
「……あの……」
リビングに置いてある大きなソファに、チョコンと座っている小さな子ども。
その小さな体躯には全く合っていない大きな服を着ている男の子は、見覚えのありすぎる特徴を持つ子で――しかし、その人物として断定するにはどうにも理解しえない。
「もしかして……赤井、さん?」
志保に尋ねる声が震えている。
だが、事情を知るであろう志保も当事者である幼子も否定しないところを見ると、まさかとは思うが、幼い彼が赤井である事は間違いないようだ。
「……えっと、どうしてこうなったのか、説明してもらってもいいかな? 志保ちゃん」
「率直に言えば、私のミスよ。それ以上は聞かないで」
志保に説明を求めれば、罰が悪そうな表情をして視線を逸らされる。自分が悪いと自覚しているようで、皐も反省している志保に対し、それ以上の追及はしなかった。
「それなら、この現象は自然に治るの? それとも、解毒薬を飲む必要がある?」
「解毒薬は飲ませたわ」
皐がそう言うと、志保は静かに頷いた。
「一日か二日すれば元に戻るそうだ」
「そうですか。それじゃあ、それまで赤井さんの面倒は私が見るわね」
最初から、小さくなった自身の面倒を見てもらおうと思って皐を呼んだからか、赤井も志保も反対するような事もなく終わる。
「あの、皐さん。私……」
「どうしたの?」
テキパキと物事を決めていく皐に、志保は気まずそうに声をかける。
皐は志保が切り出すのを待っていたが、中々言い出せない彼女に、柔らかく微笑んだ。
「志保ちゃん」
名前を呼べば、肩を震わせ、怯えたような視線を皐に向ける志保。
「すぐに解毒薬を赤井さんに飲ませてくれたのよね? ありがとう。貴女が冷静に判断してくれたおかげで、大事にならずにならなくて良かったわ」
そんな皐の言葉を聞き、志保は酷く泣きそうな顔をした。
「皐さん……ごめんなさい。ありがとう」
必死になって言葉を返す志保に、皐は静かに微笑んだ。
*
小さくなった赤井を連れ、皐は工藤邸へと戻ってくる。
ぶかぶかだった服を脱がせた後、使われなくなったコナンの服を着せ、二人はダイニングでコーヒーを飲んでいた。
「……子どもの相手はお手の物、と言ったところか」
「お手の物と言うより、甘いだけですよ」
赤井の言葉に皐はただ苦笑する。
「そうか?」
「ええ。彼女はしっかり反省していたみたいですし、何も言ってない時点で、あんな風に泣きそうな子を叱るのは、ちょっと……」
いつもは、あまり表情を顔に出さない志保。出会った当初に比べれば、随分と明るくはなったが、まだまだ控えめな部分もある。
ところが、そんな志保が最初から最後まで泣くのを我慢している様な表情をしてるのだ。普段の彼女を知っている身からすれば「駄目じゃない!」と怒るよりも「大丈夫?」と心配する方が勝った。
「……っ」
不意に込み上げてきたアクビを噛み殺すと、見上げてくる幼い瞳と目が合った。
「眠いのか」
「いえ、この位はいつもの事なので……」
目を擦りながら皐が言うと、無言で見つめてくる赤井と目が合う。
「……赤井さん?」
「いや……あまり無理はするな。この身体では、お前を抱き上げて運ぶのは難しい」
赤井が真剣な表情で言うと、そんな事を考えていたとは思っていなかったのか、皐は驚いたような表情をする。
言われた皐はしばらく考えた後――
「赤井さん。一緒に、お昼寝しませんか?」
と赤井に提案した。
*
「ふふっ」
寝転がって、嬉しそうに幼い赤井を抱き締める皐。
「楽しそうだな」
クスクスと笑う彼女を見上げながら、赤井は皐の腕の中にいた。
普通ならこの現状にもっと焦るなり不安がるなりすると思うが、尋ねれば「誰かが死にそうになっているわけでもないので、特に焦る必要はないかと」と返ってくる。
彼女の言う事も一理あるなと考えたところで、そう言えば彼女が不安がるのは、人の生死に関わる時と、彼女自身の存在について悩んでいる時だけだったと思い出した。
「ええ。だって、赤井さんを抱き枕に出来るなんてありませんから」
「まぁ確かに、いつもは皐が俺の抱き枕だからな」
赤井の方が大きく、皐の方が小さいため、いつもは必然的に皐が抱き枕になる。確かに、これは新鮮な感覚だろう。
「でしょう? 次、志保ちゃんに会った時には、お礼を言わなきゃいけないですね」
こんな時に笑うのも不謹慎な話だが、皐はいつもと違う現状を楽しんでいるようだ。
赤井自身も解毒薬を飲んでいるので、それほど焦ってはいない。一日か二日で元に戻るのだ、色々と不便であるなと感じはしたが、それくらいだ。
「彼女の驚く顔が見ものだな」
「そうですね」
やらかしたと思っている志保に、穏やかに礼を言う皐。礼を言われた志保の混乱する姿が、容易に想像出来た。
「……皐?」
クスリと小さく赤井が笑っていれば、いつの間にか皐は眠りに落ちていた。
「おやすみ、皐」
穏やかに眠る彼女を見つめた後、赤井もゆっくりとその視界を閉ざす。暖かな暗闇の中、柔らかな彼女の温もりを感じながら、赤井は静かに眠りの世界へと旅立った。
小さな君と良い夢を
(平和な日常の一幕)
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