ベビーフェイスの悪戯


※純黒の悪夢の後

 どうして、こんな事になっているのだろうか。

 皐は困惑していた。

 急な連絡を赤井から受け、指定されたホテルの部屋で待っていれば、ズタボロになった赤井と安室が入って来た。無言の二人に気おされて、されるがままに三人でベッドの中へ。

 前は安室、後ろは赤井。眠る二人に拘束されるように、抱き枕状態となった皐は身動きが取れない。

 力いっぱい押してみるが、それ以上の力で押し返されるので、結局は抜け出せない状態となってしまうのだ。


――どうしろと?


 困り果てた皐は、一つ溜息をついた。

 しかし、息を整えた事で思考が冷静になったからか、だんだんとこの状況に恥ずかしさを覚え始める。

 細身とは言え、どちらも立派な体躯の持ち主である。その上、顔立ちもそれぞれ整っているので、その手の事に慣れていない皐には色んな意味で刺激の強い状態。

 眠る二人の間で、一人で静かに慌てる皐。

 いつもより目をあちらこちらに動かしているのは、そのせいだった。


――……寝よう。


 だが、ずっと慌てていても仕方がないと悟ったのか、どうしようもない現状に皐は諦めた。

 決意をして目を閉じれば、徐々に意識は沈んでいく。そして数分も経たずに、皐は静かな寝息をたて始めた。





 深い底に沈んでいた意識が浮上する。ボンヤリとしたまま静かに目を開ければ、眠っている皐の顔が突然視界に飛び込んできた。

 驚いて身体を震わせるも、彼女の向こうで眠っている男の姿を目にした事で、おぼろげだった記憶が戻ってくる。

 疲れがピークを越え、彼女を巻き込んで眠ってしまった事を思い出すと、思わぬ自身の失態に溜息が出そうになった。


――悪い事をしたな。


 人の良い彼女の事だから。困惑をしたものの、寝入っている安室と赤井を起こすのも忍びないと思ったのだろう。

 いつも眠そうな表情をしている彼女の、あどけない寝顔。

 そっと彼女の髪に触れようとして、しかし、その手を無骨な手に掴まれた。


「っな!?」

「あまり大きな声は出すなよ。皐を起こすわけにはいかんのでね」


 赤井は安室から距離を置くように、眠る彼女を後ろから抱き寄せた。その柔らかそうな髪に唇を寄せ、だが、こちらを見る目は射抜くように鋭く。安室の腕を掴む手に、少しずつ力を入れている。


「手を離してくれませんかね?」


 眉をひそめて言えば、解放される手。赤井はそのまま皐を抱き締めた。

 華奢で幼い顔立ちの彼女に、不釣り合いな太い腕が絡み、強面な赤井の顔が覗く。一見、アンバランスな二人に見えて、どこか倒錯的にも見えるそれは、流石の安室も息を呑んだ。


――無駄にフェロモンを撒き散らかすな!


 叫ばずとも視線で睨めば、赤井は満足そうに目を細めた。

 なんだか負けた気分になって、けれど彼女に触る事は出来ないだろうと息をつく。しかしその時、安室の脳裏に一つの案が浮かび上がった。

 安室はすぐに実行へと移すため、ポケットに入っていたスマホを取り出し、今この瞬間を画像に収める。

 流石に予想してなかった赤井が安室のスマホを取り上げようとするが、それよりも早く、安室はベッドから脱け出した。


「それでは、僕はこれで失礼させていただきます」


 赤井が何かを言う前に、安室は部屋の扉を閉め、撮った画像をある人物へと送る。

 その後、静かな廊下を歩きながら、送った画像を見て舌打ち。


「奴が邪魔だな……」


 ボソリと小さく呟き、安室はそのデータを保存した。

 技術の進歩した現代。画像に映り込んだ邪魔なモノを消すなど、造作でもない。





 同時刻。

 疲れた表情をしながら読書をしていたコナンの携帯に、一通のメールが届く。


――安室さんから?


 首を傾げながらコナンがメールを開けば、添付されたファイルに気がついた。


「…………」


 ファイルを開き、出てきた画像を見れば、コナンの眼鏡が嫌な輝きを放つ。直後、静かな空間に“ミシッ”と、携帯から音が響いた。

ベビーフェイスの悪戯
(悪質な悪戯には、ご用心を)

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