大切なアナタに贈る
※恋人関係
季節はもうすぐ夏を迎えようとしている。
皐と共に買い物へと出かけた沖矢は、それぞれが必要な物を買うため、別行動を取っていた。
――必要な物は、この程度か……
元々、物欲がそれほど強くもないので、この辺でいいかと思っていれば、ふと視界に綺麗な緑が入り込んできた。
「……」
何気なく視線をそちらに向ければ、モスグリーンのストールが飾ってある。
しばらく見つめた後、沖矢は無言でそのストールに近づき、そっと手に取った。
――ストール、か……
夏が近づき、日に日に気温が上昇している今、それでも邸の中で快適に過ごせるのは、共に暮らしている彼女が沖矢に合わせて空調管理をしているからだった。
そのせいか、寒そうにしている皐を何度か見かけていた。彼女も普通よりは厚着をしているようだが、それでも寒さに負けてしまう事は多々あるようで、小さく身体を震わせていた時もある。
以前は上着の上にストールを巻いていたが、ある爆発事件に巻き込まれた際、愛用していたソレが使い物にならなくなってしまった。
――ない、よりはいいだろう。
皐が使ってくれるかは分からないが、沖矢は見つけたモスグリーンのストールを手に取り、会計の方へ向かった。
*
時間通りに集合場所へと向かえば、そこに皐はいなかった。
しばらく待っていれば、小走りでコチラへと向かってくる皐の姿。少々ふらつきがある走りを見て、ゆっくりでいいから歩いて来てくれと、沖矢は思いながら彼女を見つめている。
「沖矢さん! すみません。遅くなってしまって……」
「気にしないでください。僕も、さっきここへ到着したばかりですので」
沖矢は言いながら、皐の持っている荷物を持つ。その拍子に、袋から緋色のストールが顔をチラリと見せたのに気がついた。
「おや、これは……」
「あっ、これ……その……」
見つかってしまった事に言葉を詰まらせる皐。視線をあちらこちらへ移動させながら、何度も口を開閉させた。
言葉を探しているのだと理解した沖矢は、何も言わずに彼女の言葉を待つ。
「最近、暑くなってきたので……これを巻いたら、少しは良くなるかなと、思って……」
どんどん小さくなる声で「沖矢さん用に、買った、んです……」と続け、同時に視線を下げた。
色々と沖矢が快適に暮らせるよう、今も配慮してくれている皐。その上、このような物までわざわざ買って来てくれる彼女に、なんと言葉を返せばいいのか分からなかった。
「俺とお前は、似たような事を考えていたんだな」
ただ、込み上げる気持ちを抑えるように、視線を下げている皐の手首を掴む。そして、沖矢は足早に歩き、それに合わせて皐は小走りで後を追った。
駐車場に着き、ストール以外の荷物を後部座席に置いた沖矢は、運転席に座る。その後、皐が助手席に座ったと同時に、ピッと機械音が鳴ったからか、彼女は驚いたように沖矢を見た。
「……お前に、渡したい物がある」
赤井の声が車内に響いた後、そっと彼女に手渡したのは、皐がストールを買った店と同じ袋。その中には合流前に買ったモスグリーンのストールが入っている。
突然の事に驚いているのか、皐は手渡された袋と、沖矢のまま声だけ戻している赤井を交互に見つめた。
「以前、使っていたストールが破れて使い物にならなくなっていただろう? 俺に合わせて空調管理をしているせいか、上着を羽織っても寒そうにしていたからな……首に巻けば、少しはマシになる」
「気づいていたんですか?」
「自覚はしていると思うが……お前の動作を見ていると、流石の俺も心臓がいくつあっても足らん。傍に居れば自然と視線がお前に行くんだ、それだけ観察していれば言われずとも気がつく」
「それは、そうですね……」
赤井に言われ、苦笑いをしながらストールを袋から出す皐。それから直ぐに彼女は、そのストールが沖矢のために買ったストールの色違いだと気がついた。
「そう言えばコレ……色違いですか?」
「ああ、そのようだ。意図して買ったわけではないから、偶然そうなったんだろう」
自然と頬が緩んだ赤井は、渡されたストールを見つめている皐を見ていた。
「……ありがとうございます」
「いや、俺の方こそ礼を言おう。これは、大事に使わせてもらう……」
それぞれが買い物袋の中からストールを出し、プレゼントされたストールを持って笑い合った。
大切なアナタに贈る
(後日、それを周りから指摘されるのは、また別のお話)
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