君のこと目で追わなくなった


 妊娠が発覚してからしばらくして、赤井と皐が住む家には、常に誰かしらがいるようになった。


「聞いてよ優作! 双子よ双子!! もー私、嬉しくって!!」

「ああ、聞いてるさ。改めて、おめでとう皐」

「ありがとう」

「皐さんもとうとう、母親になるのかぁ」

「そうだね。そう言えば、新一くん。蘭ちゃんとはあれからどうなの?」

「あー……っとそれは」


 特に、工藤家の三人はどこにそんな時間があるのか不思議なくらいに入り浸り、毎日のように話しに花を咲かせている。

 折角、仕事場の上司や同僚が気をきかせて休みをくれるが、彼女はいつも彼らの相手をせざる負えない状態。赤井としてはいいのか悪いのか、よく分からない。

 欲を言えば自分も団らんの中に入って行きたいものだが、悲しいがな、思い出話をされてしまえば赤井は会話に入れない。

 結局は蚊帳の外になってしまうわけで、彼は黙々と昼食の準備をしていた。





 ようやく工藤家の三人が返ったのは、夕食をそろそろ取るような時間だった。


「ごめんね、秀一さん。折角のお休みに……」

「構わない。三人ともお前が心配なんだろう」


 リビングのソファに隣同士で座る赤井と皐。赤井は皐の肩に腕をまわして抱き寄せる。


「だが、面白くはないな」


 拗ねた様な声を出せば、クスクスと笑いながら更に皐が身を寄せた。


「ねぇ、秀一さん。私は貴方がいないとこの世界で生きていけない。それを知っていても優兄達に妬くの?」


 赤井の存在が皐をこの世界に留めている今、彼女にとって赤井は何よりも優先するべき大事な人である。それは今、お腹にいる小さな命たちが生まれてからも同じだろう。


「ああ。気を抜けば彼らはお前と俺の時間を盗んでいってしまうからな」


 静かに皐の額へと口づけを贈る赤井。皐は、されるがまま瞳を閉じる。


「私との繋がりに、居場所、その上、時間まで欲しいなんて。時間泥棒よりも強欲だと思うけど」

「お前は、それぐらい欲しがらなければ振り向いてくれないだろう。それ以前に、欲しいモノを欲しいと言って何が悪い?」

「んー。特には何もないかな」


 短い言葉遊びを終わらせ、小さく笑い合う二人。

 彼らの空いた手が、無意識に大きくなりつつ皐のお腹を優しく撫でた。

君のこと目で追わなくなった
(そんな事をしなくても、君は僕の元に戻ってくるから)

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