人の恋路を邪魔するな


――運が悪いというか……


 ジョディがそう思うのも無理はない。


 特別会議室は、その名の通り特別な何かでしか使われない。取り扱う情報も極秘なモノが多く、情報漏えいを防ぐためにも周辺は人通りが全くない。そのため、偶に暇を持て余した恋人達がその部屋を使っているとか、いないとか、そんな噂がある部屋なのだ。

 ジョディとしては、職務中にそんな場所でそんな事をする人間がいるとは想えず。だから噂の真偽を突き止める前に呆れが勝ってしまい、真相を突き止めるような事はしなかった。

 だが、火のない所に煙は立たないと言うのは、あながち間違ってはいなかったようで。仮にも公務を担う人間が何をやっているのかと苦言を申し入れたいところだが、それをジョディが行う必要はなさそうだ。

 何せ、よりにもよってバレた相手があの赤井。そして、連れ込もうとした相手は赤井がやっとの思いで恋人になった女性。


――……この二人、死んだわね。


 今でさえ、赤井は少しでも気を抜けば離れてしまうかもしれない皐を引き止めるために必死になっているのだ。未遂とは言え、最愛の女性に手を出そうとした男を放っておく事はないだろう。

 同僚の二人もそれに気がついているのか、彼らは全身から冷や汗を流している。

 赤井が二人の間にいる皐には気づかれないよう、殺気を向けているところを見ると、流石と感心すればいいのか、器用なモノだと呆れればいいのか。この際、どちらでもいいかと溜息をついてしまった自分は悪くないと思いたい。


「皐さん!」

「あら、コナンくん」


 遅れて来た険しい表情のコナンが、皐に声をかける。

 同時に、皆の視線がコナンに向いたところで、一瞬、赤井の手が緩んだのだろう。


「じゃ、じゃあ……俺達は、この辺で!!」

「Have a nice day!! お嬢さん。俺達は仕事に戻るぜ!」

「あ、はい。ありがとうございました」


 同僚の二人は逃げるようにその場を後にした。

 唯一、赤井の殺気に気がついていない皐が、あからさまに安心した様子で礼を述べているが、今の二人からしてみれば、このお礼も死刑宣告に等しいだろう。

 まぁ、あれだけの情報を赤井に与えてしまったのだ。あの二人は数日後に生きた屍となるのは確実。しかもコナンの表情を見ると、彼も赤井に協力する事は簡単に想像出来た。

 勤務中によからぬ事を考えた罰だろう。自業自得という言葉がジョディの脳裏をよぎった。


「ジョディさん。赤井さん。ありがとうございます」

「いいのよ。たいした事じゃないわ」

「ああ。それに、わざわざ資料を届けてくれたんだ。助かったよ」


 赤井に言われ「あ、そうでした」と言いながら皐は持っていたカバンから書類を赤井に渡した。


――……資料、ねぇ。


 それを見て、ここのところ赤井が多忙であった事を思い出すジョディ。


「ジョディ。俺は皐を送ってくる」


 この言葉を聞き、どうして皐がこの場にいるのか見当がついたジョディは、思わず苦笑してしまった。

 そもそもFBIきっての仕事中毒者が、自宅に仕事の資料を忘れるわけがない。


「ええ。なら、ついでに外でお昼を取ってきたらいいんじゃない? 貴方、今日はデスクワークだけなんでしょう?」

「ああ。だが……」


 ジョディの気づかいに、罰の悪そうな顔をする赤井。そこまで公私混同をするわけにはいかないと思っているのだろうが、赤井とて人間だ。

 そろそろ癒しが必要になってくる時期と考えると、大方、眠っている皐を抱き締めて眠るだけではなく、彼女の声や眠る以外の表情を見たくなったのだろうと考えつく。


「ジェイムズには私から言っておくわ。多少の遅刻くらいなら、彼も多めに見てくれるわよ」


 赤井は、あの二人の同僚以上の働きを見せている。ジェイムズもこれくらいの事なら目をつむってくれるだろう。


「……ああ、頼んだ。皐」

「え、でも……コナンくんは……」

「僕もがっ!?」


 戸惑う皐について行こうとしたコナンの口を、ジョディが塞いだ。


「彼は私が見ておくから、心配しなくていいわ。彼と二人で話したい事もあるから」

「だそうだが……俺との食事は嫌いかな?」

「そんな事はありません。でも、このままでは……」

「ああ、変装道具なら持ってきてある。時間が押しているのでね、早速、行こうか」

「は、はい。その、コナンくんの事、よろしくお願いします!」


 コナンの口を塞いでしまえば、戸惑う彼女をその気にさせる事は造作もない。

 歩き出した赤井は、自然と皐の肩に腕を回す。すると、迷っている彼女も自然と歩き出す事になり、結果的に二人は昼食を取りに出かけて行った。


「ジョディ先生……」

「見せつけられるのが嫌なのは分かるけど、偶には、いいんじゃない? 代わりに皐を困らせていた二人の情報をあげるわよ」


 面白くないと表情を歪ませるコナンに、ジョディはウインクをした。


「分かったよ……」


 コナンは軽く溜息をつきながら、小さくなる二人の背中を見ていた。


人の恋路を邪魔するな
(後日、FBIの本部で屍が二体回収されたとか、されないとか)

あとがき→
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