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オマエのことが好きなんだ 番外編

あの子を泣かすなっ!!



「ずいぶん大きくなったねー。」

彩夏のお腹を撫でる円香の気分はすっかり親戚のオバサンになっている。

「歩くの、大変じゃない?」
「長時間はしんどいけどね。少し歩くのは筋力維持にも、体力向上にも、気分転換にもいいんだって。お医者さんがお腹が張らない程度に動くのも大事ですよって言ってた。」
「ふーん、そうなんだ。」

もう一度ゆるりと彩夏のお腹を撫で、円香は会場の端にある椅子に彩夏を誘った。
彩夏から棗と復縁したと聞いて数カ月。
会うたびに母親の顔になっていく親友が眩しい。
今日も同窓会のようなもの。
教員生活を40年以上勤めあげた恩師の退職記念と言う事で、数世代の中学と高校が入り混じった大規模なパーティーになっている。
相当懐かしいメンバーもいる中、円香はずっと彩夏にべったりしていた。

「おっ!主将、我らがマドンナ達を発見致しました!!」
「あ、松永君。」

2人がワイワイと騒がしい方を見ると、それぞれ飲み物や食べ物を持って集団で近づいてくる男性達が軽く手を上げている。
彩夏も円香も、中学から陸上部マネージャーとして活動をしていた。
その同級メンバーが2人を見つけたのだ。

「うわっ、久し振り。元気だった?」
「おう。彩夏も円香も元気そうだな。」
「もっちろん!松永君の活躍、テレビで見てるよー。」
「マジで?どうも。」
「このまま日本代表になっちゃえば?」
「バ〜カ。そんな簡単なものじゃねえよ。知ってんだろ?」

一気にタイムスリップをした感覚で、わっと盛り上がる。
今は何してるだの、社会人はツラいだの。
話している内容はともかく、高校時代のようにはしゃいでいた。
けれど、そのうちの一人が彩夏の腹部を見てギョッとする。

「…って、おい!彩夏、その腹…」
「え?」
「すっげえ出てるけど…」
「そうだねえ。」
「…え、もしかして…赤ん坊、が…?」
「うん。あと2カ月しないぐらいで生まれる予定だよ。」
「え、マジで!?」
「マジ、マジ。」
「…あんた達、なにショック受けてんのよ。」

押しつぶしそうな勢いに円香が間に割って入る。
呆れるような言い方に、集まっていた男性陣が互いに目を見合わせながら『だって、なあ?』と気持ちを共有した。

「俺らのマドンナが…っ!」
「てか、いつ結婚したんだよ!?知らせてくれないなんて冷たいヤツっ!」
「ちょっといろいろあってね。」

質問攻めにあう彩夏が言葉を濁すと同時に、円香がちょっと!と声を荒げる。

「私には!?ちょっと松永、私にも聞いてよ!」
「円香は見たまんまなんだろ?どうせ会社でバリバリ働いて出世コースまっしぐらなんだぜ。」
「よく分かってるじゃないの。」
「聞いたか?我らが円香様は相変わらずでいらっしゃる!」
「男を食っちまうくらいの勢いなんだろ?俺、同じ会社じゃなくてよかったわ。」
「円香、彼氏は?いなかったら俺と付き合おうぜ!」
「それで松永を養えって?」
「よく分かってんじゃねえか!!」
「あんたが考えそうなことだよ。」
「俺、陸上界じゃ期待の星だぜ?お前に大事にしてもらう自信あるぜ?」
「バッカじゃないの、松永!?松永、バカでしょ!?」

こんなやり取りも高校の時から変わらない。
仲間だった人達のじゃれるような会話に彩夏もニコニコと笑っていた。

「彩夏。」

そんな時にかかった声。
座っている彩夏を囲むようにしてできた同級メンバーの輪の向こうに、明るい髪が見えた。

「…うわ、出た。」
「円香ってば…棗、どうしたの?」
「棗?ああ、ナツ日奈か。裏切り者のナツ日奈か。」
「…なんだよ、その裏切り者って。彩夏、椿と梓が呼んでる。」
「ん…あ、ホントだ。行ってくる。」
「気をつけろよ。」

椅子から立ち上がる彩夏に手を貸す棗を、円香を除く同級メンバーが唖然とした様子で見た。
彩夏を送り出した後、そんな彼らを見て棗は首を訝しそうに眉を寄せた。

「…どうかしたか?てか、久し振りだな。そんでもって、さっきの『裏切り者』って何だよ?」
「…彩夏、腹に赤ん坊がいるんだけど…」
「ああ。」
「もしかしてお前の子…?」
「ああ、そうだ。」
「はーっ!?」
「何だ?彩夏、話してなかったのか?」

彩夏が言っていると当たり前のように思っていた棗に、円香の目が据わる。

「ほんと裏切り者だよね、ナツ日奈は。」
「だから、その『裏切り者』って何だよ?」
「分かんない?」

円香は事細かに説明しようとしたが、それは周りの同級メンバーによって阻まれた。

「高校から外部に行った奴なんか裏切り者だ!」
「しかもそこの陸上部に入りやがって!」
「さらに2年からレギュラー入りして成績残しやがるし、大学も戻ってこねえし。」
「大会で活躍するだけに飽き足らず、箱根で8区だと?」
「それだけ走れるのに、卒業後はさっさと就職して陸上から遠ざかっちまったよな。」
「…分かった。オマエら、俺のこと嫌いなんだな?」

次々と飛んでくる言葉に、棗の表情が険しくなる。
事実だが、そんなに憎まれているとは思っていなかったのだ。
懐かしい顔を見て声をかけたのだが、間違ったか…。
棗は淋しく思いながらも降参するように小さく手を掲げた。
だが、同級メンバーの詰りは終わらなかった。

「しかも今日会ってみたら何だ!?彩夏の旦那はナツ日奈だって!?」
「俺らのマドンナに…許せねえっ!!」

その言葉と同時に、棗の体に冷たい刺激が降り注いだ。

「おい、うまくやったもんだな!」
「彩夏の事、大切にしてやれよ!」
「久し振りに会ったのにサプライズすぎるだろ!?」
「っ…オマエら…」
「おめでとうっ!!」

近くにあるグラスの中身を次々に掛けられて、スーツが濡れていく。
気持ち悪いはずなのにそんな事は感じず、みんなの笑顔を嬉しく思う。

「…サンキュ。」
「なにスカしてんだよ。ナツ日奈なんか風邪ひいちまえ!!」
「ほら、円香!お前もぶっかけてやれよ!」
「…アンタ達、周りの迷惑も考えなよ。」
「何でそんなに落ち着いてんだよ。」
「逆に聞くけど、何でそんなに騒げるの?」
「いいだろ?めでてえんだから!」
「そうね。おめでたいわね。ねえ、ナツ日奈。私もお祝いしていい?」
「あ?ああ…」
「そう。」

じゃあ。

円香がつかつかと棗に近づく。
そして、躊躇いもなく拳をねじり込んだ。

「ぐ、ふ…っ!!」
「おめでとう、ナツ日奈。彩夏には何度も言ったけど、あんたにも直接言いたくてね。」
「…オマエ、さっきから一体…何なんだよ…」
「分からない?」

構えていないところに思いっきりいいものを食らった。
しかも食べた後に。
前屈みになって腹部をおさえる棗のネクタイを円香はグイと掴みあげた。

「これ以上彩夏を泣かしたら、私が許さないから。」
「…」
「私が言いたい事、分かるよね?」
「…ああ。」
「そ。じゃあ、これでおしまいにしてあげる。おめでとう、ナツ日奈。」

円香はニコリと笑うと、呆然としている同級メンバー達に指示を出してテキパキと片づけ始めた。



「うわ…痛そう。」
「棗のヤツ、殴られてやんのー★」
「仕方ないんじゃない?棗が悪いんだし。よく顔を出せるよね。」
「いいパンチだったなー!」
「相当頭にきてたらしいからね。」

椿と梓が面白がって彩夏に話す。

「彩夏ちゃん、あんなのでいいの?」
「ふふっ、今さら?」
「そーだよなー。今さらなんだよなー。」
「お腹だいぶ大きくなったね。ムリしてない?」
「おかげさまで。あと少しだよ。」
「俺らもオジサンかー。」
「よろしくね。椿おじさん、梓おじさん。」
「うわっ…ちょっと待って!ダメだわ、それは。なんて呼ばせるか考えとくから、『おじさん』は止めて!!」
「僕も椿に賛成。」

苦笑する梓に、真剣に考え始める椿。
彩夏もくすくす笑う。

「彩夏っ!」
「円香。」
「ごめんねー。彩夏の旦那、殴っちゃった。」
「うん、見てた。」
「ちょースッキリした。また泣かされたら私に言ってね?」
「頼りにしてます。」
「うっは!棗の前途、イバラの道だねー★」
「ツバ日奈君もアズ日奈君も彩夏を泣かせないでよ?」
「僕達も?」
「あんた達、3人でワチャワチャやってるの好きじゃん。彩夏に迷惑かけないでよね。」
「…肝に銘じておきます。」
「俺も。あんなパンチくらいたくない…。」
「しょうがないでしょ。彩夏の事、愛してんだから。」
「うふふ。愛されてるなぁ、私。」

優しく抱きつく円香に、彩夏も破顔しながら抱きつき返す。
それを見て椿が梓に抱きつき、冷たく引き剥がされる。
その光景も中学から見慣れたもので、4人はまたひとしきり笑い合った。


2016.11.24. UP



140000HITS記念リクエスト。
斗羽様からの『棗をヒロイン友人の円香さんが盛大にぶん殴るお話。ヒロインは離席してたりする。』です。
連載中にリクエストをいただいたものですから、勢いで作ってしまいました(笑)
楽しかったです!!
リクエストでは『連載if、高校が棗と同じで同窓会に来た棗を〜』だったのですが、せっかくなので同じ設定で円香さんに殴ってもらいました。
こういう友人欲しいなぁ。
ところで…しつこいようですが、もう一度言いますね!
夢沫、なっくん大好きですからー!!

斗羽様、どうもありがとうございました。
すっきりできましたか?




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夢幻泡沫