01.プロローグ





ある世界にて


闇の支配者から世界を救い、『勇者』として伝説となった青年がいたのは約千年前。

また、異世界から『制御者』として連れて来られた少女が存在したのも、同じく約千年前のこと…


長い年月を経て、今、また世界が混沌の闇と交差しようとしていた。

地上を照らす神の光が少しずつ薄れていっている真実に、

そして、世界を暗い尽す闇の侵攻に

人々は、まだ誰も気がついていない……




―――さて、それとは話は変わり

此処はまた、【ある世界】とは違う異世界のこと









「今日、帰り遅くなるの?」


空が橙色に染まり、コンクリートの家々も一緒に染め上げる。
五センチ弱開かれた玄関の戸口から入り込む空の光が顔を僅かに照らし出した。
靴紐を固く結ぶ青年は、背後に佇む橙色の光を浴びる少女を振り返った。


「そうだなあ、遅番にされなかったら9時には帰れるだろ」

「そう…。折角今日誕生日なのにバイトなんて…」


気に食わなさそうな表情で口を尖らせる少女に、青年は困ったような笑みを浮かべて自分よりかなり低い位置にある頭を撫ぜた。


「まあ仕方ないだろ!食って生きて行く為だ。俺は気にしてないし、我が妹がそう思ってくれるだけで十分だぞ」

「そりゃどうも。…でも、一応ケーキとって待ってるからね」

「おお、ありがとな」


額に親指を当てて後の四本指と手の平でグシャグシャと乱暴に髪を撫でまくる。
少女の顔は夕焼けの陽もあってほんのり赤く染まっていた。

間もなく少女の頭から手を放すと、隣に置いていた鞄を肩に背負い直す。立ち上がると二人の身長差が如何ほどのものかは明確だった。


「それじゃ」

「あ、待って兄さん!折角なら今渡しておくわ、帰りが何時になるか分からないなら。今渡しておくのがいいでしょ」


少女は慌てて部屋に戻り、何かを握って直ぐに戻ってくると今出してきた小さな袋を押し付けた。
青年は袋口を開き、中身を確認するとその顔に笑顔を綻ばせた。


「ピアスじゃないか!」

「バイト代奮発したからね。兄さん欲しがってたでしょ?」

「おお、サンキュー舞。大事にするわ、ちゃんと付けとくからな!」


男は嬉しそうに笑うが、視界に入った時計の針を見た途端素っ頓狂な声を上げて慌しく扉へ向かう。
振り向き様に「じゃ、じゃあ行ってきます!!」と叫ぶように言うと、バタン!と音を立てて乱暴に扉を閉めた。

少女はそんな兄の背中を見送り「せめて行ってらっしゃいぐらい言わせろ」と心の中で呟きながら再びダイニングに戻った。

殺風景な広々とした部屋には自分以外の影は勿論無く
分かっているものの自然と虚無感を覚える少女は小さく溜め息を吐き出した。


「仕方ない、パソコンでもしようかな」


ダイニングの一角に備えられたノートパソコンに向かって歩き出す。
外からは烏の鳴き声と小さな子供たちであろう幼い笑い声。そして、それを掻き消すかのようにけたたましいエンジン音だけが、都会の空へ響き消えて行く。

まるで何もかも消えてしまいそうな静寂へか
少女の背中がぶるりと小さく震えた。





光が虚ろな「黄昏時(twilight)」





―――♪…


「……ん?」


後ろの方から音が聞こえた。
振り返ると、音の発信源はソファに放り出された自分の携帯。


「(あれ?)」


(確かさっき電源が落ちたんじゃなかったっけ…。)
少女は不思議に思いながらも、あまり深く考えないで音の発信源に近寄った。





それは光の世界の力が薄れ、影の世界と光の世界が交錯する





携帯の液晶画面には、未通知1件と書かれていた。
誰からか気になり、未通知とかかれた所をクリック。

だけど、クリックしても何も出ず、それどころか画面一体が漆黒に染まってしまった。


「え?ま、まさか…バグった…?」


携帯を壊したら兄に何を言われるか分からない。
けれどあまり機械類に詳しくない少女は何をすればいいのか分からず、只適当に、只単純にボタンを押すだけしか出来ない。





日の光輝く平和な世界





それで直るという核心があったわけじゃないけれど、やはりというべきか携帯の画面は相変わらず黒いままだった。


「手も足も出ない、かー…」


覇気のない声色で落胆。弱弱しい溜息をつきながら案を練るが出てこない。
仕方がないので携帯を閉めてからソファに戻す。





そこへ、かつて神々の力によって魔力を封じ込めた影の世界の支配が忍び寄る





…だけど、その直前に携帯のディスプレイが何やらおかしい事に気づく。
よくよく見ると、妙な模様が浮かび上がっていた。


「(何?模様…?)」


考えたのも一瞬、ディスプレイから不思議な模様が消えた。
なんだったのか分からずじまいで終わるかと思いきや、突然画面に変化が現れた。

それはまるで水に小石を投げ入れた時に出来る波紋。


「何コレ、水辺…?」


時間が一秒一秒と進むに連れて、波紋の大きさも広がっていく。
身体にも心にも不安が広がり、離れたい筈なのに何故か見入ってしまう。

目が離せない。






勇者として、そして…―――としての宿命を背負う者達は、






…その途端、


グアァッ!!

「!?」


携帯の画面から手のようなものが出てきた。それも人間のものではなく、何か赤と黄色を含んだ…不気味なモノ。




再び武器をとり、新たな道を今こそ導に




悲鳴を上げる間もなく、その手らしきものは少女の体を掴み


「おあ…っ!?」


そのまま抵抗する間もなく、文字通り携帯の中へ引きずり込まれていった。













光の世界を取り戻す旅に出る












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