ムジュラの仮面(序章)



時を超え、世界を跨ぎ、彼らは壮大なる旅を繰り広げた。


『り、リンク〜〜〜!デクの樹サマが危険なノ!!寝てないで助けてヨ〜〜〜!!』


かつて、ハイラルという一つの世界を己が手に治めようと企んだ魔族の王は、伝説に伝えられし七賢者の力によって永き封印に抑えられ、世界は光と平和に満ちた。


『舞ダイジョウブだった?怪我してなイ?ナビィ治すヨ!』


休息の時を過ごす間もほんの僅かに、彼らは、一度は置いた剣に再び手を伸ばし、危険と隣り合わせの旅へと赴いた。


『キャーーv速い速い〜〜〜!!』


その理由を知る者は、彼らがどんな危険な目に逢いに行こうとしているのかを知っていれども、彼らの歩みを止めることはしなかった。


『リンク、しっかりしテ…!』


何故なら…止める術など、誰も持ち合わせていなかったのだ。


『ううん…ナビィ、もう逃げないッ。リンクと一緒に戦ウ!』


彼らの眼差しは、もう既に曇ることなく真っすぐと向けられているのだから。


『ナビィ、舞と出会えてッ、ホントに良かった!舞と一緒に触れ合ったハイラルを…守ってくれテ、アリガトウ…!』


伝説に刻まれし、壮大な旅を共に駆け巡った…


――忘れないよ、ずっと…ナビィは、リンクのパートナーでもあり舞のパートナーでもあるからネ!!


かけがえのない、大切な仲間を探すために。




― ― ― ― ―




ハイラル国―――。
この世界で最も大きく、最も繁栄したその大陸の片隅に、コキリの森よりももっとうす暗く複雑に入り組んだ深い森が在った。
誰も好き好んで入ろうとはせず、現に今日現在も人の気配は全くと言っていいほどなかった。

…とある、三つの人影を除いては…。


―――ポクッ、ポクッ


霧が立ち込めるその森には滅多に響くことのない馬の蹄の音が木霊する。ゆっくりとしたテンポで鳴り響くその音の他に、耳を澄ませば微かな声が聞こえてきた。


「うわー、真っ暗…。ゼルダが言ってた通り、本当に霧が深い森だなァ」


きょろきょろと頭上に聳える木々の葉を見上げるのは、その森と今にも同化してしまいそうな緑の衣と緑の帽子を身に纏う少年――リンク。
その少年の前に座り、茶色の子馬の手綱を握る少女が答えるように振り返った。


「リンク…ないとは思うけど、こんな所で冒険心くすぐられて逸れるなんて真似しないでね?万が一そんなことになったら、あたし達は永遠に会えぬままこの森の一部となるでしょう…(フッ)

ししし、しないよ!絶対しないって!!だっ、だからそんな怖い言い方止めてよ〜!!」

「だってさァ、常にリンクのストッパー係だった頼れる相棒ナビィがいないんだもの。迷子になんてなられたら、あたし…あたし……っ」

「え(ドキッ)、舞…?」

「死んで化けてやるぅぅぅう!!(ガバァッ)」

「うわああああ!?」


「おい…。お前ら、もう少し静かに会話できないのか。万が一モンスターに見つかったら面倒くさいだろ」


茶色の子馬――エポナの隣に並ぶように黒い子馬が前に進む。
その子馬に乗った少年は闇に紛れそうなほど真っ黒な服を身に纏い、整った表情を歪ませて溜息を吐きだした。


「だ、だってダーク!舞が脅かすんだよっ。唯でさえこの森の雰囲気だけでも怖いのに…」

「阿呆。テメェも男なら、これぐらいのことでガタガタしてんじゃねえよ。
おい、舞。お前もその馬鹿を驚かすのもほどほどにしとけ」

「いやあ、だって…こうやって声を出して体を動かすこと自体がもの凄く久々なもんだからさァ。もう嬉しすぎてテンション上がりまくってるのよね」

「いや…そりゃそうだけど。お前メタいこと言うなよ…

「もの凄く、久々…?オレ達、前の旅を終えてからそんなに時間経ったっけ?」

「何言ってるのリンク!あたし達が最後に言葉を交わしてから、かれこれ16年近く振りになるのよ!?」

「えええっ!?じゅ、十年!?一体何の話…?」

「リンク…忘れたの!?時は2008年1月3日!あたし達の物語は終止符を打たr「いい加減メタ発言止めろこの馬鹿女!!!」

あいたァァァっ!?ちょっ、何故馬上からそんなにコントロールよく小石を額にクリーンヒットできる…!?


バランスのとりづらい馬上から放ったとは思えないほど適格なコントロール捌きで黒服の少年が放った小石が少女の額を直撃する。
自業自得だ、と怒った後少年は再び前を向いて馬を歩かせる。少女の赤くなった額を見て、緑の少年は眉間を八の字に歪ませた。

緑の衣の少年――リンク
黒い衣の少年――ダークリンク。通称ダーク。
白服の少女――舞。

その姿はどう見ても10歳前後の幼い少年少女ばかりで、とてもじゃないが馬に跨って旅をするには似つかわしくない面子である。
しかし彼らは数か月前まで世界の存亡を掛ける長い長い旅を経験しており、目的を無事に終えたばかりであった。その彼らがこうして再び旅に出たことには理由があった。

長い旅を共に乗り越えた、かけがえのない仲間の妖精――ナビィが姿を消した。
旅を終えた後、故郷の森に帰ったと思い彼女を迎えに行ったリンク達だが、故郷の仲間達は口を揃えて「ナビィは帰ってきていない」と言うのである。目撃情報もなく、彼女の行方は完全に不明となってしまったのだ。
彼女は一体何処に行ったのか…。何か事件に巻き込まれてしまっているのでは?
そう危惧したリンク達は、ナビィを探すべく旅を再開したのである。


「にしても…本当にこんな物騒な森の中に妖精の泉があるの?全然そんな気配が感じられないんだけど…」

「情報を提供したのは王女だ。世界の各地に派遣隊があるハイラル国の王女がそう言ったんだ、出まかせな情報な訳はない」

「でも、此処はハイラル国の管轄外だから詳細が分からないとも言ってたよな?ゼルダのこと疑ってるわけじゃないけど…ナビィ、いるかな」


そう言ってリンクはエポナの上から不安そうな眼差しを空へ向ける。
この中では一番長く一緒にいたのは相棒である彼だ。舞達がよほど心配していないわけではないが、リンクは特に相棒の安否が気になって仕方がなかった。
エポナを操作する為に彼の前に座る舞は、リンクから漏れた微かな溜息が聞こえて胸が痛んだ。リンクの心情は今きっと痛いほど切羽詰まってるだろう。何とかしないと…


「――ん?」

「? どうしたの、ダーク」

「今、向こうの方で何か光った。あれは…妖精?」

「えっ!?妖精がいたの!?」


ダークの声に弾かれるように顔を上げるリンクと舞。二人の期待の視線を浴びながら、ダークは紅い瞳を細めて森の奥を見つめる。


「確証はない、が…あの仄かな光は松明とかそういうものじゃなかった。王女の情報が正しければ妖精の泉がある。泉があるのなら妖精の可能性が高い」

「ナビィかな?いや、それとも魔物かも…。魔物なら慎重にいかないとだけど」

「折角見つけた可能性だもの、行ってみましょうよ!リンク」

「舞。だけど…」

「大丈夫よ。ダークが見つけたのなら信憑性が高いわ。それは今はもう亡き変態魔王があたしの匂いを辿って見つけてくるより確証が高いわよ!

「…舞。お前は冗談のつもりで言ってるのかもしれねえけど、断言する。俺はガノンドロフの野郎のお前へのレーダーの力に勝てる自信全くねえぞ

「嘘やろ。勘弁してくれ」

かつて熱烈なストーカー被害に合っていた舞は、過去の嫌な記憶を思い出し、顔を青くして震えた。その元凶はもうこの世にはいないのだが、これほど記憶に残るとは彼女自身も思わなかった。
まるで嫌な過去を忘れるかのように首をぶんぶんと左右に大きく振り、表情を明るくして舞は後ろのリンクに振り返った。


「と、とにかく調べてみましょう!あ…もし不安なら、リンクだけでも此処で待ってる?」

「えっ?う、ううん!一緒に行くよっ」

「…いや。舞の言う通り、お前はここで残れ。馬を二頭とも連れて行って、万が一のことがあった時に逃げられなくなると困る。お前はエポナの番をしてろ」

「ええ?でも、それならエポナを操れる舞が残ったほうが…」

「阿呆か。戦う術のないこいつを置いて、万が一魔物に襲われたらどうするんだよ。無抵抗のまま食われるぞ?」

「そ、それは…」


リンクの言葉が尻すぼみになるのと入れ替わりに、ダークの言葉に不満を持った舞が眉間に皺を寄せた。


「ダーク。あたしだって長い旅を乗り越えた身よ?無抵抗のまま食われるなんてことしないわよ。大声でシャウトしてチーターのように逃げまくって、失敗したら殺されるだけよ!

それが無抵抗に食われるって言うんだよ。馬鹿。大馬鹿。世界一馬鹿

「ちょっ、ダーク!?いくら何でも舞が可哀そうだよっ」

「そうよ!あたしが世界一の馬鹿なら、リンクは宇宙一の馬鹿になっちゃうでしょうが!!」

えええええっ!?舞、オレのことそんな風に思ってたの…!?」

「いやね、リンクの馬鹿は可愛らしい馬鹿なのよ?だってこんな冗談事にもすぐに涙目になっちゃうような愛すべきお馬鹿そういないわよ。寧ろあたしが魔物に食われるより、こんなに可愛いリンクが魔物とかダークとかに食われないかそっちのほうが心配よ!!あっやばい妄想したら鼻血が

「いいから黙って着いてこい馬鹿女ッ!!日が暮れちまうだろうが!!」


堪忍袋の緒が切れたダークが放った小石が再び舞の額にいい音を立てて当てられた。
こいつ…女の扱いを何だと思っているんだ(by舞)
しかし、ダークのいう通りこのままでは日が暮れかねない。渋々とエポナから落りて、舞はダークの乗るゼロへと跨った。リンクは心配そうな表情で舞に言葉をかける。


「舞…危なくなったらダークに守ってもらってね?それでも怖かったら大声で叫んで。オレ、すぐに行くから!」

「ありがとう、リンク。貴方を一人置いて遠くまで行かないから。すぐに戻ってくるからね!」

「うん…。気を付けてね」


舞はエポナに向かって「リンクの言うこと聞いてね」と一言伝え、ダークの服を掴んで森の奥へとゆっくり歩いて行った。
二人の姿が見えなくなると、リンクは「ハァ…」とため息を零した。


「ダーク…きっとオレが注意散漫になってるのに気づいて、気を利かせてくれたんだろうな…」


リンクは自分が相棒の行方を心配するあまり、気が散っていることに気づいていた。
このままではいけない。下手に他の仲間に気苦労をかけさせてしまう。
自分の現状に改めて「駄目だ」と感じ、リンクは雑念を振り払うように首を振った。


「よし!変に余計なこと考えてもダメだっ。もっと気を引き締めて―――」


意気込んで顔を上げたリンクの言葉は不自然に途切れた。
それは、彼が乗っていたエポナが突然何かに驚いて嘶き、その体を大きく振り上げたためだった。


「うわっ!?」


油断して手綱を握っていなかったリンクは呆気なく馬上から振り落とされ、その体を地面に叩きつけた。
打ち所が悪かったようで、そのまま彼は意識を飛ばしてしまう。
静寂が訪れたその場には、落ち着きを取り戻したエポナと…二匹の妖精と、不気味に笑う仮面をつけた小鬼がいた。


「ケケケッ!お前たち上手くやったな!」


そう言って小躍りする小鬼――それは森に住まう魔物・スタルキッドであった。
スタルキッドは嬉しそうに高笑いしながら倒れているリンクに駆け寄る。
その傍を飛び回る妖精の内の片方…紫の妖精が弱々しく光を放つ。


『ね、ねえ…この人大丈夫カナぁ?ちょっとやりすぎじゃ…ないカナ…』

『何言ってるのトレイル。男なら一度やったことには責任と自信を持ちなさいヨ!』


紫の妖精――トレイルに説教するように黄色の妖精が高い声で喝を入れる。
妖精達が後ろで言い合いをしているのを聞きながら、スタルキッドはリンクの荷物を無造作にばら撒いた。


「なんか面白いものあるかな〜。……お?なんだコレ」


スタルキッドは一際異色を放つ”とある物”を見つけ、ぴたりと手を止めた。
それをゆっくり手に取ると色々な角度から観察する。害がなさそうだと分かると、それの歌口に口を当て、音が出るのを楽しんだ。


『わ〜…!綺麗な音色…ねぇスタルキッド。僕もソレ…吹いてみたい…』


紫の妖精がおどおどと、しかし弾んだ声色でスタルキッドに声をかける。それを聞いて傍にいた黄色の妖精が体当たりをした。


『アンタは駄目よ、トレイル!怪我でもしたらどうするの。危ないから、大人しく見ていなサイ!』

『で、でもネエチャン…。僕もやってみたイ…』

『ダーメ!』


どうやら黄色の妖精はトレイルという妖精の姉のようだ。
スタルキッドも妖精たちも気がばらばらに散漫していた時、地面に倒れていたリンクがピクリと動いた。
間もなく頭を押さえながらゆっくりと立ち上がる。


「イテテ…。一体、何が…? ――ん?ああっ!!」
「ヒッ!?」


森に響き渡りそうな程大きく響いたリンクの声に、夢中になっていたスタルキッドが小さく飛び上がる。リンクに振り返ると同時に遊んでいたものをサッと後ろに隠した。
だがリンクは見逃していなかった。スタルキッドが遊んでいたものは――


「お前…今何を隠した?」

「ん〜?なんのコトだ?」

「とぼけるな!お前、オレの荷物から勝手に取っただろ!」

「ヒヒッ。オイラがお前の荷物を奪ったなんて証拠ドコにある?これはオイラのだ!」

「ふざけるな!!返せよ、オレの―――時のオカリナを!


まるで話を聞かないスタルキッドに腹を立て、リンクはスタルキッドに飛び掛かった。
しかしその手が敵に触れるより早く、スタルキッドはひらりと跳んで交わし、そのままの勢いでエポナの背中に飛び乗った
驚いて嘶くエポナの目の前に手を翳し、スタルキッドは不思議な光をかける。その光に充てられたエポナの目が色を変えた。


「あ!?お前っエポナに何をした!?」

「ヒヒッ。教えてやらないよ!これが欲しかったら追いかけてこい!!」


スタルキッドはリンクを挑発しながらエポナの手綱をパシッと叩いた。その合図にエポナが走り出そうとするのを瞬時に判断し、リンクは咄嗟にスタルキッドの後ろに飛び乗るようにエポナに跨った。
勢いよく走るエポナの上で、リンクは振り落とされないようにしながらスタルキッドに掴みかかる。


「おい!エポナは舞の大事な馬だ!返せ!!」

「舞〜?なんだソレ、変な名前」

「なっ…!?舞を馬鹿にしたな!彼女はいい子だ!時々変なこと言ったり変な行動するし突然スカート捲ってくるけど、いい子…………だぞ!!

何だ今の間!?その舞って奴、やっぱちょっと可笑しいんだろ!?」

い、いや…いい子だよ。本当に時々ちょっとあるだけで――って、そうじゃなくて!お前は早くっ、エポナから降りろ!それと、時のオカリナを返せ〜!!」


まるで子どもの喧嘩のように(実際に子どもだが)二人は馬上で取っ組み合いを続ける。
その時だった。リンクの声に馴染み深い声が届いた。


「リンク!?何やってるの!?」

「――! 舞!ダーク!」


振り返ると、少し後方から黒い仔馬を走らせて追いかけてくる舞とダークが見えた。
仲間の登場に喜んだリンクは一瞬だけ気が緩んでしまった。その隙をついてスタルキッドはリンクを蹴飛ばし、馬上から振り落とした。


「うわあっ!!」

「ケケケケッ!ザマーミロ!」


咄嗟に受け身をとるものの、勢いよく落ちた衝撃で砂煙が立ち上がる。
スタルキッド達の姿が見えなくなると同時に、追いついた舞とダークがリンクの傍で止まる。ゼロから飛び降りた舞はリンクに駆け寄った。


「リンク、大丈夫?一体何があったの?」

「ゴメン舞…あいつに突然襲われて、エポナを奪われちゃったんだッ。エポナも魔法をかけられて操られてるみたいで…」

「急いで追いかけるぞ!舞、お前はゼロを頼む。リンクと俺は走って追いかけるぞ。あの先は木が生い茂っていた…そう遠くまでは行けないだろう」

「分かったわ。後ろから追いかけるから、二人ともエポナをお願い!」

「うん!」


リンクは服についた土を軽く叩き落とし、ダークと一緒にスタルキッドが消えた方向に向かって走り出した。
ダークの言う通り、少し走ると木が折り重なって道は途切れていた。木と木の間に洞窟のような穴を見つけ、二人は洞窟に向かって歩いていく。


「さっきの奴…スタルキッドか?あいつが魔法を使っていたのか?」

「うん。エポナもそれまで嫌がってたんだけど…あいつに魔法をかけられた途端、正気を失ったんだ」

「……可笑しいな、スタルキッドは魔法の類が使えない筈だが…。この地域に住む特殊な魔物か?」

「うーん…どうだろう。そう言えば、ダークたちは何か見つけた?」

「妖精は見つからなかった。近くに妖精の泉を見つけたが、神殿もなく小さな泉だった。当てが外れたな」


言葉を交わしながら慎重に洞窟の奥に進む。
行きついた先は不自然に道が途切れ、下へ向けて大きな穴がぼっこりと空いていた。
穴の先は底が見えず、のぞき込んだリンクはごくり…と唾を飲み込んだ。


「此処に行ったのかな…」

「分からん。だが、他に道がなかったからな…。可能性はあるだろうよ」

「…そうだね。一旦戻って舞を呼びに行こう。それから皆で―――」

「ぎゃああああ!!ゼロ、待って!ストップ!すとーっぷ!!」


リンクとダークの会話を遮るように洞窟内に絶叫が木霊した。
驚いた二人が声のした後方を振り返ると…そこにはもう目前まで勢いよく突進してくる舞とゼロがいた。


「舞!?ちょっ待って!」

「何してる!早くゼロを止めろ!!」

「ちちち違うんだって!何か急にゼロが言うこと聞かなくなって…!止まらないの!!まるであたしの萌え道を突き進む信念の如くッ!!

「後半意味分かんねえよッ!!」


コントのような掛け合いをしている間にも暴走状態のゼロが突っ込んでくる。
止める術を考える暇もなく、リンクとダークを巻き込んで舞とゼロは目先にあった穴に落ちた。


「あぎゃあああ!?穴ァァァッ!?」

「っリンク!舞を掴め!!」

「う、うん!舞!!」


受け身のとれない舞をリンクが抱え込み、三人と一匹は深い穴を急降下する。
穴を落ちる時、摩訶不思議な紋様が彼らの周りを取り囲む。それと同時に不可思議な感覚に襲われながら、とうとう最下層へと辿り着いた。


――ボヨンッ!

「うわわっ!?な、なんだっ?」

「デク花…?こいつがクッションになったのか」

「リンク、ダーク!大丈夫?」

「うん。オレ達は大丈夫…」

「…?おい、ゼロはどこだ?」


三人が顔を見合わせた後、一緒に落ちてきたゼロを探そうと顔を上げた。
その途端、三人の表情が一瞬強張った。顔を上げた先には、自分たちが追っていたスタルキッドが不気味に笑いながら浮いていたのだ。


「ヒヒッ。やっと追いついたか!ノロマな奴らめ」

「え?あれ…何?魔物?」

「スタルキッドだ。…だが、あいつのつけている仮面は何だ…?」


舞は初めて見る魔物に首を傾げながら、ダークは眉を顰めながらスタルキッドの仮面を睨みつける。
その視線を受けて不愉快になったのか、スタルキッドは鼻をフンと鳴らした。


「おいお前、なんだあのバカ馬は?魔法を自力で解きやがって…むかついたから捨てといてやったよ!」

「馬…?まさか、エポナを!?」

「アア。それと、お前らと一緒にいた黒い馬もオイラの魔法をかけてやってたんだよナ〜。此処まではちゃんと来たけど、飽きたからバカ馬と一緒に捨てといたよ」

「! テメェ…ゼロをどこにやりやがった…!!」


舞とダークはそれぞれの愛馬を奪われたことに顔色を変えた。
スタルキッドをキッと睨みつけるリンクとダーク。二人の視線にスタルキッドが更に不機嫌に声色を変えた。


「なんだその生意気な目は?気に入らないな〜…。そんな生意気な顔をする奴らには、痛い目を見せてやる!」


不穏な言葉と共に、スタルキッドが目の前の三人に向けて手を翳す。
リンクとダークが武器を身構えたと同時に、三人は突然頭の奥がズキリと痛んだ。


「な…っ!何だっ、これ…」

「あ、頭が…っ」


すぐに立っていることすら難しくなり、三人はその場に頭を抱えて蹲る。
視界がぼやけ、まるで巨大な洗濯機の中に放り込まれたように体がぐるぐると回る感覚を覚える。
吐き気すら覚えそうなぐらい長い――本当は一分と経っていないが――時間をかけ、ようやく三人の異変が収まった。
リンクは平衡感覚が可笑しくなった体を支えるために、左手を地面についた。
その手を見て驚いた。


「え…?お、オレの手…?小さくなって……―――ええええええっ!?

「どうしたのリンク―――ぎゃああああ!?何、リンクその姿どうしたの!?

「何を叫んで―――って、舞!?お前もなんだその姿!?


最初は下の水面に映りこんだ自分の姿を見たリンクが、そのリンクの声を聞いて振り返った舞が、最後は舞の異変に気付いたダークが、各々が悲鳴と驚愕を上げた。
三人が慌てふためるのも無理はなかった。何せ、彼らの姿が……


「ど、どうして!?何でオレ達―――魔物の姿になってるの!?


森の魔物・デクナッツに変容してしまったからだ。
こんなこと、今までの旅でも起こらなかった。初めての出来事だった。突然のことに呆然とするリンク達だったが、頭上からケタケタと仮面を揺らして笑うスタルキッドに気が付いてハッと顔を上げた。


「ヒヒヒッ!なかなかユニークな姿だ!!」

「おっ、お前がやったのか!?一体何をしたんだ!」

「何だヨ。さっきも言ったダロ?生意気な目をしてくるから、お前らのむかつく顔ごと変えてやったんだよ!愛嬌あるだろー?」


尚楽しそうに人の不幸を喜ぶスタルキッドに、リンクとダークはカチンときた。


「てめえ…!今すぐこのふざけた姿から戻せ!」

「何だ?それが人に物を頼む態度カ〜?」

「っお願いだスタルキッド!オレは最悪後でもいいから、せめて彼女は…ッ。舞だけでも――」


必死な形相でリンクがスタルキッドに頭を下げる。
スタルキッドがその姿を楽しそうに眺めていると……今まで静かだった洞窟内に甲高い声が木霊した。


ッぎゃああああ!!!何々っリンクとダーク!そのまん丸魅惑のキュートなボディは!!リンクは垂れ目でダークは吊り目っておいおいそこに個性つけるのかい、素敵すぎやしないか!? しかもスカートだけ身に着けてるってことは、もしや二人とも現在上半身裸!?HA・DA・KA!?ぐあああそんな可愛い見た目でセクシーさまで兼ね揃えているなんて、なんて恐ろしい…ッ!!ハッこれがこの魔物の魅惑の技なのかしら…?きゃっほーーー!!チビ魔物ばんざぁぁぁい!!

「「「………」」」

「……え。何であたし、リンクとダークだけじゃなくてスタルキッドとやらからも冷たい眼差しを受けてるの?


この状況を一人だけ全力で楽しんでいるメスのデクナッツ(舞)がいた。
自身すら魔物の姿になっているのだが、現在の彼女にとってそれはどうでもいいことらしい。
興奮のあまり木で出来た顔の半分以上が赤く染まった舞を無視して、スタルキッドはフンと鼻を鳴らした。


「そこの変態女みたいに今の状況楽しめよ!じゃっオイラはもう行くからな〜」

「ちょっ!?変態女ってあたしのこと!?乙女に向かって何て失礼な!」

「これだけはアイツ(スタルキッド)に賛同するぞ、俺は」

「ダークに裏切られた。もう死ぬしかない」


「ふっ、二人とも!呑気に話してる暇ないって!あいつ、本当に逃げちゃうよ!」


慣れない体でピョンッと水面をジャンプし、リンクは洞窟の奥へ逃げようとするスタルキッドを追いかけた。
しかし、その彼の行く手を阻むように目の前から何かが突進をしてきて、リンクの体を弾ませて止めた。


ボヨンッ

「いてっ!?」

『っべ〜〜!アンタなんかに先を行かせてあげないわよ〜ダ!』

「よ、妖精っ?何て意地悪なんだ…ッ。どいてよ!」

『嫌ヨ!悔しかったらやり返してみなさいヨ!』


まるで楽しんでいるかのような明るい声で邪魔をしてくるのは、スタルキッドと一緒にいた黄色の妖精だった。
デクナッツになった所為でそれほど抵抗できないことをいいことに、楽しそうにリンクの体に体当たりを仕掛ける。
一通り妨害をすると、満足したのか妖精がリンクから離れた。


『さてっ。あんたの相手をずっとしてる場合じゃないノ。アタシ達は忙しいんだから、これで』

『ネッ、ネエチャーーーン!!


ズシンッ!…と、音を立てて妖精の背後から何かが落ちる音がした。
黄色の妖精が音の方向に振り返ると…そこには、さっきまであった洞窟の奥に続く通路が岩で塞がれている光景が広がっていた。
その光景に、さっきまで生き生きとしていたのが嘘のように、黄色の妖精は体をほんのり青くして大岩に飛び掛かっていった。


『チョッ、ちょっと!スタルキッド!アタシがまだ入ってないのよ〜!?トレイル!勝手に一人で着いていっちゃダメだからねー!!』


ボヨンッ、ボヨンッ と何度も妖精の柔らかい光が岩に向かってアタックを続ける。
その間に後ろからやってきた舞が小さな体で尻もちをついているリンクの手を引っ張った。


「大丈夫?リンク」

「うん。ありがとう、舞。」

「ううん、いいの。あの妖精、置いて行かれちゃった…のよね?」

「多分そうだと思うんだけど……」

「俺らに楯突いたんだ。自業自得だろうよ」

ちょっと!聞こえてるわヨ!あんた達の所為で弟と離れちゃったじゃない!どうしてくれるのヨ!!』


岩が退かないと諦めたのか、妖精が怒りを露わにして戻ってきた。
リンクの蛸のような口の先に向かって理不尽な怒りをぶつけてくる妖精に、リンクはムッとしながら体を避けた。


「そんなの知らないよ!大体、そっちが先にオレ達に迷惑かけてきたんじゃないか!」

『そ、それはそうかもだケド…でもっ、アンタ達が珍しい物とか持ってるカラ興味湧いちゃったんじゃないの!』

「テメエ…反省の色ねえだろ?」

「ま、まあまあ!それより今は早くスタルキッドを追いましょうよっ。エポナとゼロが心配だわ!」


今にも喧嘩が勃発しそうな空気に舞が終止符を打つと、彼女の言葉にリンクも大事なことを思い出した。
エポナとゼロだけではなく、自分も大切なものを奪われたままだと。


「舞の言う通りだ。今はあいつを追いかけよう!」

「ええ。…って、言ってもあの岩どうしたらいいのかしら?」

「今の俺達の体じゃあ、あの岩を持ち上げるのは無理だろう。別の道を探すしかないが…」

『ねっ、ネエ!アタシ、あそこ以外の隠し通路を知ってるわヨ!だからアタシも連れてってヨ!』


どうするか悩んでいた三人の前に妖精が体を大きく揺らしてアピールをしながら飛び込んでくる。
別の道がある、という言葉に三人がパッと顔を上げると、その反応に気をよくして妖精の声が少し明るんだ。


『さっきのは、ちょっとやりすぎたと思ってる…わっ悪かったわヨッ。アタシも弟を放っておくのは心配なノ。一緒に連れてってくれたら、アタシもアンタ達に手を貸すわ』

「手を貸すって…?」

『アタシ、さっきのスタルキッドの行き先を知ってるノ。スタルキッドに会ったら、アンタ達から奪ったものを返すようにアタシからも言い聞かせたげる!だから、ネ?ネッ?』

「うーん…」


ついさっきまで自分の邪魔をしたり意地悪をされた手前、リンクは少し怪しむところがあった。そんな彼の様子を見て、舞が背中を押すように声をかける。


「いいんじゃないかしら?彼女も謝ってることだし。行き先と別の道を教えてもらえるなら連れて行ったらどうかしら」

「舞…」

『ウンウン!彼女の言う通りヨっ。ほら、男は優柔不断じゃダメ!パパッと決める!』

「……分かった!でもっ、もしさっきみたいに嫌なことしたり、また邪魔をしてきたらその時は本当に許さないからな!?」

『りょーかいッ。ハイ、決定!それじゃあ早速教えるカラ、着いてきてね』


妖精は三人の周りをくるり、と一周飛ぶと、洞窟の南西のほうに向かって飛んでいく。
当てがない以上は信じるしかない。そう腹を決め、三人は妖精の後を追いかけた。
妖精が飛んで行った先は、蔓と草木で覆われて隠された小さな穴があった。デクナッツの体になった三人がやっと入れる大きさだった。


「ところで、貴方の名前は?」

『アタシ?アタシはチャットよ。弟はトレイル。…って、そう言えばお互い名前知らないままだったのネ』

「ええ、ごめんなさい。遅くなったけど、あたしは舞よ!」

「オレはリンク!よろしくっ」

「…ダークだ」

『ふうん。アンタ達、この辺りの人間じゃないでショ?旅人なの?』


チャットの先導に着いて行った先は、まるで巨人が大地をねじったように道が渦巻きに歪んだ不思議な道だった。平衡感覚が可笑しくなりそうな道をゆっくり歩きながら、静かな空洞に四人の声が響き渡る。


「うん。オレ達、大事な仲間を探して旅をしてここまで来たんだ」

『仲間?』

「丁度いい。お前、ナビィって言う妖精に心当たりはないか?それこそ、この辺りの妖精じゃない。他所から来たなら情報が入っていると思うが」

『ナビィ…ナビィねえ……。悪いケド、知らないわ。今年は妖精玉があまり生まれなかったカラ妖精の数が少ないノ。ダークが言った通り、知らない妖精が来たら絶対に耳に入る筈だから間違いないワ』

「そっか……。残念だなあ」


有益な情報が得られずに肩を落とすリンクに、後ろから着いてきた舞が肩を二回撫でた。
その彼の様子に気づいてか否か『でも』とチャットが言葉を続けた。


『大妖精様なら何か知ってるカモ。大妖精様はアタシ達と違って国の隅々まで見通す力を持ってる人たちだから。これから向かう先の町にも大妖精様の泉があるから、聞いてみたらドウ?』

「ほ、ほんと!?」

「良かったわねリンク!」

「お前らなあ…。一応この妖精もさっきまで俺達の敵だった奴だぞ?ちょっとは疑えよ」

『失礼ネ!アタシだって反省してるんだカラッ。――ホラ!そうこうしてる内に着いたわヨ』


チャットの声に弾かれて三人はほぼ同時に顔を前方へと向けた。
そこには頑丈な扉が閉ざされており、リンクとダークが力を合わせて片方の扉を押して開く。
扉を開いた先は何かの建物の内部になっており、大小様々な大きさの歯車がいくつも連なり、建物の中心部に聳える柱を支えるようにそれぞれが回っている。
珍しい光景に目を奪われながら、上の階に繋がる階段をゆっくりと昇っていった。


「すげえ…!これ、何の機械?」

『ここは時計塔の内部ヨ。もう町の中には入ってるんだケド、ここはその町のシンボルである時計塔の中なの』

「時計塔かあ…。だから歯車が多いのね」


あまり多くなかった階段を登りきると、彼らを迎えるように目前に不思議な紋様の刻まれた木製の扉があった。
今度はそれほど大きくもないので少し力を加えれば簡単に開きそうだ。


『あの扉を潜れば町の中心部ヨ!さっ、行きましょう』

「初めての町かあ!わくわくするなあっ」

「初めての町かあ。う腐う腐するなあ!!」

おい、後者。不純な音が聞こえるぞ


それぞれが楽しみや不安を抱えながら扉へと歩を進める。
もう少しで扉に手が触れそうになった時、ピクリ、とダークが肩を揺らして勢いよく後ろを振り返った。
リンクと舞がダークの行動に「ん?」と驚いて彼を見ようと振り返ると、彼の視界の先に何かがいるのが見えた。
リンクは驚くと同時に舞を庇うように前に立って、さっきまではいなかったその存在に警戒のオーラを振りまいた。


「誰だ!」

「ホッホッホ…。驚かせたのならすみません。」


コツ、コツ…と靴音を響かせながら姿を現せたのは、細身で長身な男性だった。
体よりも大きなリュックを背中に背負い、その荷物には幾つものお面が括り付けられている。何よりも目を引き付けるのは、その人物の顔に張り付けられたような糸目の満面の笑顔。両手をすり合わせながらニコニコと笑う姿は、明らかに胡散臭いオーラが漂っていた。


「「「(怪しい…)」」」

「ワタクシは幸せのお面屋。古今東西、幸せのお面を求める行商人…」

「お面屋さん?」

「ええ。時に貴方。以前大きな町でお面をお貸ししたことがありますが、お覚えではないですか?」

「へ?オレ…?」


リンクは突然のカミングアウトに「うーん…」と記憶の片隅を探す。
暫く悩んでいたが、彼よりも先に舞がハッと何かを思い出した。


「もしかして…ハイラル城下町に初めて行った日。リンク、あたしとナビィと離れてた時にお面つけてなかったっけ?」

「え? ―――ああ!思い出した!キータンのお面を貸してくれた人だ!!」

「ホッホッホ。思い出して頂けて光栄です。」


リンクと舞が初めてゼルダと出会う前…彼らは城下町を探索している時に幸せのお面屋に出会った過去があった。
思い出せた二人は「そうだそうだ」と明るく声を弾ませる。
ただ一人、ダークはだけはずっと疑わしい目でお面屋を睨みつけていた。


「……。」

「そちらの凛々しいお方はお初にお目にかかります。さて…お話を元に戻すのですが、実はワタクシ、とある困り事がありまして」

「困りごと?なんですか?」

「実は…旅の途中、森で奇妙な小鬼に大切な仮面を盗まれてしまったのです。」

「森の小鬼、って…」

「ええ。そちらのお嬢さんの後ろに隠れていらっしゃる妖精と共にいた小鬼です」

『ギクッ』


お面屋が指さした先では、舞の後ろにいつの間にやら姿を隠したチャットがビクビクと震えていた。
チャットと一緒にいた小鬼ということは、スタルキッドのことだろう。いち早く察したダークがお面屋に問いかけた。


「お前が盗まれた仮面…もしかしてスタルキッドが顔につけている不気味なあの仮面か?」

「ええ、その通りです。」

「お前があの仮面の持ち主か。なら聞きたいが、あの仮面は一体何だ?スタルキッド自体からではなく、あの仮面から邪悪な気配がずっと漂っていた。本来なら魔力なんて持っていないスタルキッドが魔術を使っているのも、あの仮面が影響しているんじゃないのか?」

「……貴方は余程賢い方なのですねェ」


一瞬、ダークの言葉にお面屋の瞳が薄く開かれた。一瞬だけ見えた金色に光る瞳に、舞はビクリと肩を揺らした。
けれどすぐにその瞳は閉じられ、お面屋は一つ深呼吸をして仮面について口を開いた。


「ワタクシが盗まれたアレ…【ムジュラの仮面】と言いまして。太古のとある民族が呪いの儀式で使っていたとされる、伝説の呪物なのです。」

「の、呪い…!?」

「ええ。その仮面を被った者には、邪悪で凄まじい力が宿ると言い伝えられています。伝説では…ムジュラの仮面がもたらす災いのあまりの大きさに、それを恐れた先人たちが仮面を悪用されないよう、永遠の闇に封じ込めたそうです。その力がどんな力なのか、伝説に記されたその民族が滅びた今では分かりません…」

「……」

「しかし、ワタクシは感じます。伝説の仮面を手に入れた時に感じた、身の毛もよだつまがまがしい力…!あれが今、あの小鬼の手にある……このままでは恐ろしいことが起きてしまう」


お面屋は両手で顔を覆い、細い体を震わせた。
想像以上に壮大な話に固唾を飲み込んで聞き入るリンク達。お面屋は顔を上げると、一番近くにいたリンクの両肩をソッと持って目線を合わせた。


「そこであなた方にお願いがありまして…。宜しければ、あの小鬼から仮面を取り戻してくれませんか?」

「ええっ!?お、オレ達がっ?」

「はい。実を言うと、失礼とは思いながら森の中での貴方たちのお姿を拝見させて頂きました。貴方たちはその幼い体で不思議なほど素晴らしい経験と力を持っていらっしゃる。ワタクシでは今のあの小鬼に対抗することはできませんが―――貴方達ならできる」


お面屋の開かれていない瞳が、まるでその奥から射貫いているような程不思議な力を感じた。リンクは思わず一瞬言葉が詰まった。
リンクの代わりを代弁するように、静かに聞いていたダークが前に一歩踏み出る。


「お前の望みを叶えて、俺達に何の得がある。俺達も先を急いでいるんだ。悠長なことに時間を割いている暇はない」

「ん?そうですね…。あなた方が仮面を取り返してくれたら……お礼に、貴方達が今かけられている呪いをワタクシが取り払ってさしあげましょう」

「あ、あたし達の呪いって…?」

「貴方達、小鬼に呪いをかけられて人間の姿を奪われているのでしょう?」

「!!」

「ワタクシなら、その呪いを解く方法を知っています。いかがでしょうか?悪くない取引だと思いますが…」

ええ…。あたしとしてはリンクとダークの魅惑のキュートボディは手放したくないなァ

「お前は空気を読むことをそろそろ覚えやがれ」


思いもよらぬ幸運だった。スタルキッドにかけられた呪いを解く方法は現状当てがない。
リンクは後ろにいる舞とダークと顔を見合わせる。ダークは警戒しつつも頷き、舞は心の底から嫌そうな顔をしていたが渋々頷いた。
二人の反応を確認してから、リンクは意を決してお面屋と向き直った。


「分かりました。仮面はオレ達で取り返してみる。」

「おお!何と有難い…。心より感謝します」

「その代わり、俺達にかけられた呪いを解く約束も忘れるんじゃねえぞ」

「ええ、ええ。勿論ですとも!ただ……生憎ワタクシも忙しい身でして、あと三日で此処を去らねばならないのです。できればそれまでに取り返して頂けると有難いのですが…」

「三日もあれば…多分大丈夫じゃないかしら?あまりあたし達も時間をかけられないものね」

「三日、だね。分かりました!何とか頑張ってみるよっ」


リンク達から明るい快諾の言葉を受け、お面屋は更に嬉しそうに口端を持ち上げた。
す…とリンクから身を離すと、最初の時のように両手をすり合わせた。


「大丈夫。貴方達はお若いのに大層勇気のあるお方達だ。きっとすぐに見つかりますよ。
ご自分たちの力を信じなさい…信じなさい…」


「では、ワタクシは別件の用がありますので」と恭しく会釈をし、お面屋はさっきリンク達が昇ってきた階段を下りて行った。
お面屋の姿が見えなくなると、今まで静かに身を潜めていたチャットが舞の後ろから出てきた。


『ふぅ…ビックリした。あの時のお面屋だったなんテ』

「チャット…貴方達、あたし達の他にも旅人を襲っていたの?」

『い、いつもじゃないわヨ!あのお面屋とアンタ達が初めてッ。スタルキッドが珍しくやろうって言うからッ』

「何だか不思議な人だったなァ、あのお面屋さん。オレ、前に会ったのもすっかり忘れてたよ!」

「……」

「ダーク?難しい顔してどうしたの?」

「あのお面屋、気を付けておいたほうがいい。何もかもが怪しすぎる」

「ええ?そうかな……ちょっと不思議だけど、悪い人じゃないんじゃないの?」


リンクは首を傾げながらそう問いかけると、ダークは眉間の皺を深くしてため息をついた。


「不可解なことだらけなんだよ。先ず、何で奴は今のお前の姿を見てお前のことが“リンク”だって分かったんだ?今のお前の姿はデクナッツだ。森での姿を見てたとは言ったが、俺達がスタルキッドに魔物に変えられたあの場所にお面屋はいなかった…。おかしいだろ」

「あ……そう言えば」

「それに、あいつは一体どこから出てきた?俺達が通ってきたのは、あの洞窟から一本道だ。此処まで来る途中他の道も扉もなかったのに、何で奴は俺達の背後にいた?考えれば考えるほどあいつは怪しい」

「い、言われてみれば…」

『確かに…』

「……まあ、仮面の話は恐らく本当だろう。どのみち俺達にかかった呪いを解く方法が見つかっていない以上、今は奴の妙案に乗るしかない」


お面屋への疑心暗鬼が深まる一行。だが、今は元に戻る方法に当てがないので、ダークの言う通り約束に乗っかることしかできなかった。
シン…と静まり返った空気に痺れを切らしたチャットが、リンクの頭の上で二、三度バウンドした。


『もう!今はうじうじ悩んでても仕方ないでショ!約束しちゃったんだから、今はスタルキッドに会うのを急がないト!』

「…そうね。約束の期間も三日しかないし。今は先に進みましょう」


リンクは舞達の言葉に力強く頷いた。今は兎に角、色んな物を取り戻すために前に進むしかない。そう腹をくくったリンクはぎゅっと握りこぶしを固く握った。


「よしっ。チャット、どこに行けばいいか案内してね!」

『ハイハイ!まずは大妖精様の泉に向かいましょう。スタルキッドの居場所を教えてくれる筈だカラ』

「分かった。じゃあ舞、ダーク…行こう!!」

「ええ!」

「ああ」


仲間からの強い返事に押され、リンクは目の前の扉に手をかけた。
これから出会う様々な出会いを前に、胸の中には不安と期待が入り混じる。
舞とダークも一緒に扉に手を置き、ゆっくりと力を込めて扉を開く。

三人は新たな世界への扉を―――今、開いた。

この先、彼らが繰り広げる新たな冒険に何が待ち構えているのか……
それはまだ、誰も知らない。



To Be Continued…