始まりは最悪の

今日から、私は桐皇学園一年生。
私は、弾んだ気持ちで校門を潜る。
これから、新しい毎日が始まるんだ。気持ちを引き締めて行かなくちゃ。
「スミマセン、おはようございます!名前さん!」
『おはよー。良君もここの高校だったんだね!』
「そうです、僕が一緒でスミマセン!」
『…相変わらずだねー…謝らなくていいのに』
「あっ…スミマセン!!」
桜井良君は、良い人なんだけど…この無意味な謝り癖さえなければ。
正直、ここまでだと、ちょっとウザい。…今では慣れたけど。
彼とは中学が一緒で、割と仲良くしていた。
こう見えても、彼はバスケが上手い。特に3Pが。
桐皇には、スポーツ推薦で入ったらしい。
『高校でも、よろしくね』
「スミマセン、よろしくお願いします!!」
…もう、彼の"スミマセン"は、枕詞だと思っておこう…
私の隣を背の高い人が通り過ぎた。
色が黒くて…強面で…何だか強烈な印象を残す人だ。
そして、その隣には、桃色の髪の可愛い女子が歩いている。…彼女だろうか?
「あーあ、ここまでさつきと一緒だとはな」
「何よ、大ちゃんが心配だから、一緒に来たんじゃない!」
「何心配してんだよ、お前は俺のおふくろか?何も心配する事なんてねーよ!」
それを見た良君が、低く呟いたのが聞こえた。
「…青峰…大輝…」
『青峰?良君、あの人知ってるの?』
「ええ。…バスケやってる人なら、誰でも知ってます。帝光中キセキの世代のエースです。…まさか同じ高校だなんて…!」
良君は、私が初めて見る硬い、緊張を孕んだ表情で彼を見ていた。
キセキの世代…
私も聞いた事がある。
私の所属していた中学も、帝光中にひどく負かされたらしい。
何でも、遊びみたいに点取り競争をされたとか。
それだけの実力差があったのだろうが、それにしても残酷な事をする。
※※※
入学式が始まった。
私も良君も、並びが近い。同じクラスみたい。
そして、その青峰君も、どうやら同じクラスの様だった。
『………?』
青峰君は、私をじっと見ている。
何だろう?…気のせい…じゃないよね…?
特に顔と胸の辺りをじろじろと見られているみたいで落ち着かない。
肉食獣に睨まれてる気分だ。
校長が話しているんだから、檀上を見ればいいのに。
さっき一緒に歩いていた女の子と比べれば、私なんて地味で眼鏡かけてるし、胸もそんなに大きくないし、何が彼の注意を引いているんだろう?
入学式が終わって、それぞれのクラス毎に教室に入る。
青峰君は、私の席の隣だった。
青峰君は怠そうに私を眺めてから、「おい、お前」と、低い声で私に声をかけた。
『な…何ですか?』
「名前は何てーんだ?」
『苗字名前です』
「俺は青峰大輝。苗字、眼鏡を取って見せろ」
『何で?嫌です』
初対面でいきなり眼鏡外せとか、何て不躾な人なんだろう!
キセキのエースだか何だか知らないが、やたらと偉そうだし。
私が彼から視線を外し、前を向いたら、横から手が伸びて来て、私は強引に再び彼の方に顔を向けさせられる。
『何するの!?』
気が付いたら、視界がぼやけていた。
目の前の男―青峰君によって、眼鏡が奪われてしまった。
そして、青峰君は私の顎に手をかけ、上を向かせる。
ぼやけた視界の中でも、彼の顔がアップで映っている。
浅黒くて強面が目立ってはいるが、鋭く男らしい、端正な顔立ちに私の心臓が跳ねる。
「へー…良く見ると、マイちゃんに少し似てるなー…悪くねえ」
マイちゃん?
…誰の事だろう?
続けて青峰君は、そのまま視線を下げる。
「…Bってとこか。そこはマイちゃんの足下にも及ばねぇなw」
…は?…Bって…?
彼の視線を辿ってみると、私の胸を凝視している。…!!!
…もしかして…もしかして…Bってのは…っ!!!
『こんの、変態ーーーっっっ!!!!!』
バチーーーーン!!!!!
気が付いたら、思いっ切り腕を振って、青峰大輝の頬を引っ叩いていた。
騒めいていた教室は、水を打った様に静まり返った。
私は青峰君から眼鏡を奪い返し、再び自分の顔にかけて、青峰君を睨んだ。
「痛てぇー…ったく、気の強え女だぜ…」
青峰君は痛そうに顔を顰め、痕の付いた頬を押さえた。
「名前さん!!!大丈夫ですか?」
桜井君が、慌てて私の所に飛んで来た。
「何だ?おめぇ。俺の方が大丈夫じゃねーんだよ。このアマ、目一杯叩きやがって」
青峰君が桜井君を鋭い視線でねめつける。
「ひいっ!!スミマセン!」
桜井君は、びくっと身を竦ませる。
『青峰君、桜井君に当たるのは止めて。元々は、貴方が失礼なのがいけないんでしょ!?』
「前言撤回。…全然マイちゃんに似てねぇよ。可愛げの欠片もねーもんな」
可愛げ無くて、悪うございましたね!
一瞬でも、この男に見惚れた自分に腹が立つ。
私は、出来るだけ落ち着いた声を桜井君にかける。平常心が肝要ね。
『良君!私は大丈夫よ。席に戻って』
「あっ、ハイ、スミマセン!」
一連の出来事は、クラスの注目を浴びるのに十分なインパクトがあったらしい。
皆がざわついて私達を見ている。
最悪だ。
最初から、クラスで悪目立ちしてしまった。
…それと言うのも、この隣のガングロ男のせいだ。
全く先が思いやられる…
私は一人、溜息を吐いた。
