Last summer day

夏休みもそろそろ終り10日を切った頃、私は原澤先生から連絡を貰った。
私の夏休み残りの予定が特に無いのを確認してから、彼は私に切り出した。
「苗字さんは、夏休みの宿題の進行は問題ないですね? …実は頼みたい事があるのですが」
私は直感したままに確認する。
『……もしかして…青峰君の事ですか?』
「その通りです。…彼の夏休みの宿題……まだ殆ど手付かずだと桃井さんから聞きました。
それで是非、苗字さんにご協力していただきたいのですが」
宿題の未提出は強制講習になる科目がある。
試合日程にも影響が出かねない。
夏休みの残り日程、私は一緒に宿題をする為(と言うより手伝う為)に青峰君の家に行く事になった。
『あっつう…』
「おう、上がれ」
私は青峰家の家に上がりながら、青峰君に訊いた。
『ご家族は?』
「ん、仕事」
『さつきちゃんは?』
「あー? さつきは学校行ってっぞ」
『バスケ部で?』
「まぁ、そうだな。何でも偵察と分析で忙しいってよ」
青峰君の部屋に上がり、私は辺りを見回した。
適度に散らかった部屋だが、スペースは空けてある。
青峰君の出した冷たいお茶を飲みながら、私は一息吐いた。
クーラーの効いた空気が心地良い。
『…で、宿題はどこまで進んだの?』
「ここまではやった」
と、彼が出したノートやらドリルやらをパラ見して、私は呆然とした。
予想はしていたけど……
『全っ然やっていないじゃないのーーーーー!!!!!』
「あ? 俺がやるわきゃねーだろーが。いい加減学習しろ」
『偉そうに言わないでーーーっっ!!!』
私はゼイゼイと息を切らした。
私は早速テーブルに座り、辞書やらノートを広げた。
なのに、青峰君は全然やる素振りを見せない。
『殆ど真っ白なんだから、早く取り掛からないと間に合わないよ?』
「おい名前。これじゃ勉強やる体勢になってねーぞ?」
私は首を傾げた。
『…?…やる体勢って?』
青峰君はニヤリと笑うと、足を広げて間の座布団を叩く。
「決まってんだろ。…こっち来い」
『えっ!?』
「俺はやっぱりこっちの方が落ち着くわ」
以前男子寮で勉強した時と同じく、青峰君は私を後ろから抱えながら宿題を始めた。
※※※
-桃井side-
「監督に頼まれて、名前ちゃんが大ちゃんに宿題をやらせてるって言うけど…ちゃんとやっているかなぁ?」
私は勝手知ったる青峰家に上がると、真直ぐ大ちゃんの部屋を目指した。
部屋の外まで来ると、中の会話が聞こえる。
「ここ…か?」
『ううん。そこ違うよ』
「じゃあここだな…」
『何でそうなるの?』
「ここ柔らかいんだぜ」
『そんな所、触っちゃダメだよ…!!』
「…えっ…どうしよう…?」
あの二人、勉強してんじゃなかったの?
私はドキドキしながら、そーっとドアを開けて中を覗こうとした。
「きゃっ…!??」
その時足を滑らせ、盛大な音を立てて廊下に尻餅をついてしまった。
「何だぁ…?」
ガチャリと音を立ててドアが開く。
私は決まり悪げに誤魔化し笑いをした。
「大ちゃん…ごめん、良い所邪魔しちゃって!」
「何だぁ…さつきかよ?」
「二人でラブラブも良いけど、ちゃんと宿題しなきゃダメだよ?」
「だから、ちゃんと宿題してんだろ」
「だってさっき…って…あれ?」
名前ちゃんは真面目くさった顔をして、ドリルを開いている。
『大輝君、だからこのアンボイナガイ見付けても、触ったりしないでよ!? 毒で死ぬ事もあるんだから!!」
「名前ちゃん、さっきから何やってるの?」
『…ん? ああ、さっきの音はさつきちゃんだったのね。大丈夫だった?
今ね、生物の設問やってるの。大輝君たら違う所ばかり指すんだもん。歯舌歯はここだよ」
何だ…拍子抜けしたぁ…私はてっきり…
そこまで考えて猛烈に恥ずかしくなった。
「キャー!! やだぁ…っ!!」
悶えている私を彼女は首を傾げて見ていた。
『…どうしたんだろ? さつきちゃん』
「放っとけ。いつものこったろ」
まぁ、何にせよ、真面目にやっている様で良かった。
私は胸を撫で下ろした。
「じゃ、続き始めっぞ」
大ちゃんはテーブルに座り込んだ。おお、真面目だ! …ってちょっと待って!
『大輝君、ちょっと…! さつきちゃん見てるよ…!?』
「あ? 別に良いだろ」
『良くないよ! 恥ずかしいじゃん!!』
大ちゃんは名前ちゃんの後ろに座り、彼女を抱え込んだ。
「何やってんの!?」
「…あ? ベンキョーに決まってんだろ」
「勉強する恰好じゃないじゃん!!!??」
「俺達はいつもこうしてベンキョーしてるんだよ!」
「……暑苦しい…」
『……あの、大輝君…』
大ちゃんは、顔を赤くした彼女をチラリと見て、私にぶっきら棒に言う。
「名前が、さつきが見てると集中出来ねーってさ。帰れよ」
『何でそうなるのっ!? ご免ね、さつきちゃん。…これには訳があってね』
「こうすっと捗るんだよ」
二人が仲良くなるのは良いけど…何このバカップル…
まぁこれで実際に成果が上がるなら…良いのか…? でもこれは監督には言えないなぁ。
※※※
-名前side-
こうして、私と青峰君との宿題は続いた。
毎日集中してやっている甲斐あって、みるみる内に宿題が消化される。
『もうすぐ夏休みも終わるね。…この調子なら、30日には課題終えられるかな。後は…自由研究だけだね』
「それなんだけどよ。31日に自由研究すっから付き合え」
『えっ!? 自由研究も?』
「ああ。森の公園に行くぞ。名前、昼飯作って来い!」
『……分かった』
夏休みの公園…暑いのはイヤだけど、デートだとでも思えば良いか。
私は、彼に言われた通りにお弁当と序でにお菓子を作り、凍らせた飲み物と一緒にクーラーバックに詰めた。
あと気になる事と言えば…水に入れる恰好で来いって…何やるんだろ?
当日、青峰君は会うなり、私に携帯を切る様に言った。
私は疑問に思いつつ、言われた通りに携帯をoffにした。
「邪魔入ると鬱陶しいからな!」
そんなに自由研究に集中したいのか。
勉強嫌いだったのに、随分と変わったんだな…
「先ずは腹ごしらえしようぜ♪」
彼の提案で、私達は早目にお昼を取る事にした。
藤棚が木陰を作る木製のテーブルとベンチを見付けて、クーラーバックを開ける。
ガチガチに保冷剤を入れて来たので、夏の暑さにも関わらず、程良く冷えていた。
気合入れて作ったお弁当もだが、彼が何よりも喜んだのは、デザートに作ったバータイプのチーズケーキだった。
「おーすげー!! 色んな色のがあるな!」
『プレーンの他にも、オレンジとブルーベリーと苺があるよ』
「どれも一つずつ食わせろ!!!」
『テンション高いねー』
「そりゃな! ケーキまであるとは思わなかったからな!! マジうめーわ!」
喜んで食べてくれてる青峰君を見ると、私まで幸せな気分になって来る。
彼はテリヤキバーガーが好きだと聞いてはいるけど、チーズケーキも好きなんだな…
食事が終わり、私達は公園の中心にある大きな池に向かった。
自然公園の池は、無造作に整えられていた。
『…ここで何するの?』
「まぁ見てろって…!」
青峰君は辺りの細竹を折り取り、持って来たバケツを置き、慣れた手つきで糸を結んだ。
糸の先には裂きイカを結び付けていた。
彼は靴を脱いで池に入る。
「よっ…と!」
軽い掛け声と共に糸を池に入れ、軽く動かしながら暫く待つ。
「おっ、かかった!」
すっと引き上げた糸の先には、赤いザリガニが付いていた。
彼は、そのザリガニを外してバケツに放り込む。
『……自由研究って…ザリガニ使うの?』
「おー。ザリガニってな、食うと美味ぇんだぜ!」
野生児か。
何だか小学生みたいだが、これをどんな研究テーマにするんだろう…?
続けて青峰君がザリガニを釣り上げ、次々とバケツに放り込む。
あっという間にバケツはザリガニで一杯になった。
「…まぁ、これだけありゃ足りるだろ。名前、おめーも池に入れよ! そんなとこで見てたら暑いだろ」
『大輝君、こんなに沢山のザリガニで何の研究をするの?』
「別に研究なんかしなくても良いだろ。明日提出するんだしよ」
『……?』
私は靴を脱いで恐る恐る池に入る。
そんな私を見て、青峰君は苦笑する。
「名前、何だそのへっぴり腰。いくらおめーが泳げなくても、ここの深さはこんなもんだぜ」
そこの水は、青峰君の脹脛位までだった。
いくら彼が長身でも、私が溺れる深さではない。
私は、濡れても大丈夫な様にセパレートの水着で、上にはTシャツとショートパンツを身に着けていた。
『きゃっ!?』
私は足を滑らせ、危うく転ぶ所を青峰君に支えられる。
「おい、名前。気を付けろ」
『……ご、ごめん』
「…………」
青峰君は私の腰を支えたまま、じっと私の顔を見つめた。
『…どうしたの?』
青峰君は私の問いに答えず、ゆっくりと顔を近付けた。
「…今日、俺の誕生日なんだわ」
『えっ…? えええっ!? やだ私、知らなくて…!! ごめん!
お誕生日、おめでとう! …あの、プレゼントは後になっちゃうけど…』
申し訳無くて目を逸らした私に、彼は軽く顔を顰めて無茶振りをする。
「今寄越せ」
『そんな…無理! 用意してないし!』
「用意なんぞ…しなくてもいい。プレゼントはお前からのキスだ、名前」
『はぁっ!?…ここで!!??』
「ああ。ここでだ」
真っ赤になって、固まった私を見て、青峰君はクックッと喉を震わせて笑い始めた。
「ほんと、お前って面白れー! 可愛いわ」
『…か、可愛っ…!!??』
……からかわれた?
私は憤慨して一歩足を踏み出したが、よろけた。
「おい、名前っ!!」
再び青峰君が私を支えようとするが、私は身体を傾けた彼の首にしがみついて、思い切って引き寄せた。
『ん…っ!』
「……!!!」
青峰君は驚いた様に目を見開いている。
私は青峰君の唇に、自身のを押し当てていた。
私が離そうとしたら、今度は彼が私を引き寄せ、更に深く口付けた。
かなり長い時間そうしてから、ゆっくりと彼の顔が離れる。
彼は男っぽい妖艶さを漂わせ、赤い舌をちろりと出すと、軽く自身の唇を舐めた。
「…ごっそさん。最高の誕プレだったぜ」
私は自分の大胆な行動が恥ずかしくて、俯いてしまう。
そんな私に彼は顔を近付け、囁いた。
「ケーキも嬉しかったけどよ…おめーの唇はもっと美味ぇな。もっと味わわせろ」
『……っ! 大輝…』
青峰君は柔らかく目を細め、私の顎に手を掛け上向かせる。
私はドキドキする心臓を押さえ、そっと目を閉じた。
大輝君、誕生日おめでとう…!
一緒に祝ってる私の方が、今の幸せに酔っている―
※※※
新学期、青峰君は自由研究を提出した。
大きな箱を一つとレポート一枚。
先生が何気なく蓋を開け―悲鳴を上げて取り落した。
ガサガサガサ……
おが屑の中に入っていた、大量の生きたザリガニが教室中に逃げ出し、クラス中で大パニックになった。
良君は、うっかり踏んでしまったザリガニに謝っている。
そして青峰君のレポートには「茹でたら美味い。(泥抜き必要)」と、一行だけ書いてあった。
その後、彼が大目玉を食らったのは言うまでもない。
2015.8.31
Happy Birthday!!青峰!
