噂の君と(澤村)

「なぁ、高嶺さんは大地さんと付き合ってるの?」

 お昼休み、珍しくバレー部の1年メンバーで食べる事になって。
 中庭の端っこでわいわいと食べてたら、突然日向がそう言いはじめた。

「はっ?え、私?付き合ってないよ!」
「え、そうなの?俺、てっきり付き合ってるんだと思ってた」

 購買で買ってきたらしいパンの2個目をあけながら、日向がけろりとしたようすでそう言った。
 その言葉に、山口君とやっちゃんまで、 『付き合ってると思ってた…』 とかいい始めるし…

「結構有名だよその噂。委員の時とかにも聞かれたし」
「えっ!?」

 月島君がぽつりと言った。思わず箸を落としてしまう。まだ食べかけなのに…

「ていうか、バレバレでしょ。君顔に出やすいし」
「うっ」
「澤村さんくらいじゃない?噂に気付いてないの」

 疎い同士お似合いかもよ なんて言いながら、先に食べ終わった月島君はさっさと片付けて立ち上がってしまった。山口君も慌ててそれに続いた。
 立ち去る直前に月島君が投げてよこしてくれた未使用のコンビニ割り箸でなんとか食べ進める。

「…影山くんも、知ってるわけ?」
「あ?何が」

 おそるおそる向かいに座って牛乳飲んでた影山君に聞いてみた。話聞いててよ!

「私が、だ、大地さんと、その…付き合ってるって噂」
「あ?あー…なんか田中さん辺りが騒いでた気がする」

 田中せんぱーーーーい!
 どこかでメロンパン齧ってるであろう田中先輩に思念を送りそうになりながら、卵焼きをごくりと飲み込んだ。何だか味かしない。

「大地さんが私なんかと付き合うわけ無いじゃない…あんまり失礼な噂流さないでよね」

 大地さんは、優しくてかっこよくて、男女問わず人気者だから。私みたいなのに好かれても迷惑だろうし、ましてや付き合ってるなんて噂は申し訳なさ過ぎる。
 せめて憧れることだけは許して欲しいと思っていたけど、そんな噂が流れてしまってるんじゃ、もう少し遠くで見つめる程度にしたほうがいいのかな…
 そんな事を考えながら、ため息と一緒にから揚げを飲み込んだ。



 「おつかれさまでしたー」

 部活が終わって着替えを済ませて。外に出るともうすでに真っ暗だった。
 潔子さんとやっちゃんは今日はお迎えが来るらしいので、私は徒歩組と途中まで帰る事にした。その中には3年の先輩も…大地さんも居る。
 今日、あの話のせいでまともに大地さんの顔が見られなかった。ドリンク配ったりするのもやっちゃんにお願いして、なるべく体育館外で出来る仕事ばかりしてしまってた。
 潔子さんには少し不思議がられたけど、あんな噂があると知って普通で居られるわけないじゃない…
 途中までは賑やかに帰宅して、ぽつぽつと分かれ道で減っていく。大地さんと私はほぼ帰宅ルートが一緒だから、最終的には二人きり…平常心、へいじょうしん と唱えながら皆の少し後ろを歩いた。
 大きな交差点で、スガさんや月島君たちとは別方向になる。

「それじゃ、また明日な」
「おー、またなー大地、高嶺さんも」
「お疲れ様デス… 『彼氏』 と帰れてよかったね?」
「ん?」
「ちょっ…!」

 月島君が突然爆弾発言をして、そのまま面白そうに笑いながら横断歩道を渡っていってしまった。不思議そうな顔をしたスガさんも、そのまま月島君たちと帰ってしまう。
 残されたのは私と大地さんだけ。うううこれはまずい…

「…とりあえず、帰るか」
「は、はい…」

 よく分かってないだろう大地さんが目を合わせてきて、ゆっくりと帰宅方向へ向かった。
 静まり返った道に、歩く音だけが響く。なんて言ったらいいのか、どう切り出そうか考えるけど、頭がまともに働かないし、気まずすぎて顔が見れない。

「さっきの話って…」
「っ、あ。あれは…」
「もしかして、誰かと約束してたのか?」
「え」

 予想外の大地さんの言葉に、歩みが止まった。数歩先になった大地さんも、止まって私を振り返った。

「いや、月島が彼氏とか言ってたから…もしかして俺、邪魔だったのかもと思って…」
「え、えぇー…」

 私も鈍いと言われたけれど大地さんも鈍すぎない…?素っ頓狂な声をあげた私に首を傾げた大地さんが近づいてきた。

「私、彼氏とかいないですし、この後誰かに会う予定もないですし、月島君が言ってたのは大地さんのことで…」
「俺?」

 しまった!
 呆れと焦りからいらない事まで言ってしまった。大地さんはさっきより更に首を傾げ始める。
 ええい、ここまできたら、女は度胸!

「その…だ、大地さんと私が、つき、あってるって、噂になってる、らしくて…」
「……」
「月島君は、多分それをからかったんだと…すいません」

 いたたまれなくなってつい謝ってしまった。誰が言い出したのか知らないけど私別に悪い事をしてるわけじゃないのに。
 ただ、憧れとほんの少しの恋心を、こっそり持っていたかっただけなのに。

 ひやり、大地さんの冷えた手が、私の手に触れた。びっくりして、顔を見上げると、真剣な表情の大地さんと目があった。

「その噂…本当にするか?」
「えっ…」

 大地さんの言葉に、胸が詰まった。今、なんて言ったの?
 暫く無言で見つめ合う。触れられた手が、ぎゅうと握り締められた。

「…結構本気で言ってるんだけど…」

 不安そうに呟かれた言葉に、ますます胸が詰まった。うまく言葉に出来そうになくて、握り締められた手を握り返すのが精一杯だった。

「…俺が彼氏でも、いいか?」
「っ、いい、です…」

 むしろ大地さんがいい。大地さんじゃなきゃ嫌だ。
 言葉に出来ないのが凄くもどかしい。溢れてきそうな涙を必死で堪えてると、頭に大きな手が乗った。

「そうか…他に付き合ってる奴が居るのかと思ってひやひやした」

 ほっとしたような声が私をつつんだ。そのまま手に力が篭って、大地さんの腕の中。

「明日からその噂、否定しなくて良いからな」
「っひ、ひゃい…!」

 物凄く近いところで響く声。意識しすぎて変な声が出てしまう。
 くすくすと笑う声が降ってきて、そのまま気配が近づいてきた。

「…華」

 初めて呼ばれる名前に、胸の締め付けは限界だった。
 呼吸をしようと開いた口に、少しだけかさついた唇が、そっと触れた。

END





2017.10.22 かつお
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