すれ違いの香水(KOO)
Twitter企画の別解釈Ver.



「ただいま」


返ってくることのない言葉を呟き、靴を脱いで一歩足を踏み出す。
短い廊下を歩きながら、最近彼と会っていないなぁと思う。
彼は夜の仕事、私は日中の仕事。
お互い、忙しくてオフの日なんてほぼほぼない。
最後に会ったのはいつだっけ…。

1ヶ月前、何も知らずに彼の職場に行ってしまった時に『ここは貴女が来ていいような場所じゃない』そう一喝されて以来。
あれから彼がこの部屋に来ることはなかった。

やっぱり、あの時に軽い女だと思われたのだろうか。

そんなことないのに…

好きなのは貴方だけなのに。

溜息を付いてリビングのドアを開けた。


「おや、今日は随分と遅いお帰りなんですね」


声が出なかった。

どうして?勤務中なのでは?

ソファに座り優雅に珈琲を飲んでいる彼がドアの前で固まってる私に向かって溜息を付く。


「なんですか、人の顔見てその顔は」
「なん、で」
「自分の家に帰って来てはいけないのですか?」
「い、今まで帰ってこなかったじゃない……」
「最近は立て込んでまして、申し訳ありません」


律儀にぺこりと頭をさげる彼。


「何、泣いてるんですか」
「だ、って、」


目の前に彼が居るということに不安の糸が切れて涙が溢れる。


「あたしばっか、KOOのこと好きなんじゃないかって、思って、捨てられたって」


涙を袖で拭いながらポツリポツリと話し出すと溜息を付いた彼がソファから立ち上がる。
ゆっくりと近付いてくる足音。
拭っても拭っても溢れる涙。
目の前に来た彼に腕を掴まれた。
上を向けば眉を顰めている彼の顔。


「それ以上擦ると赤くなりますよ」
「だって、」
「ほら、これを使いなさい」


ポケットから出したハンカチを頬に当てられた。
彼の香水の匂いがふわっと鼻をくすぐる。
その匂いにますます涙が溢れる。


「困りましたね、これではいくらハンカチがあっても足りませんね」


肩を竦めて見せるが優しい声色。


「そう言えば、貴女、私が送ったメッセージ見てないんですか?」
「えっ」


驚いて声をあげて慌ててスマホを取り出す。
毎日見ていたのに、彼からの連絡なんて…。


「あ、メールの方…」


友達とのやり取りは専らメッセージアプリの方だったため、メールボックスの通知を見落としていた。
開けると律儀に毎日同じ時間に届いていた。
恐る恐る彼を見ると呆れたように溜息をつく。


「貴女以上に私が捨てられてしまうんじゃないかと心配になりましたよ」
「ごめんなさい…」


謝罪の言葉を述べると、彼の香水の匂いが強くなった。抱き締められたと気付くのにそう時間はかからなかった。そして耳元に彼の息がかかる。


「貴女を不安にさせてしまってすみません」


今度は彼の謝罪言葉。
その言葉に引っ込んでいた涙がまた顔を出す。


「本当に、貴女は泣き虫ですね」


ポンポンと背中を叩く彼、そのリズムが心地よい。
そのままそっと彼の服に顔をうずめた。


(2017.11.16)
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