達磨(日向紀久)
Twitterでネタ頂いたので書かせてもらった小説。
※若干グロ表現有
”達磨”、”四肢欠損”表現ありの為、苦手な方はお気を付けてください








その日の日向の様子はどこかおかしかった、のちに加藤が口にした言葉。
いつものようにふらっとMUGENの残党狩りに行って、自分の物なのか返り血なのかわからない血に拳を紅く染めて帰ってきた。
しかし、いつもと違うのは肩に担ぐように持っている女の姿と黒く汚れている衣服。
「なんだよ、それ」と肩に担いでる女を指差すが日向は何も言わずに加藤の隣を通り過ぎて部屋の奥へ向かう。
「おい、日向、」追いかけてきた加藤に睨みをきかせて「誰も下には入れんじゃねぇぞ」低い声でそう告げて地下室へと続く扉に姿を消した。


***



地下室について、担いでいた女をそっと床に降ろす。
気絶しているその顔は傷一つない綺麗な肌で少し開いている紅い唇に自然と目がいく。
彼女が目を覚まさないことを良い事に、そのふっくらした唇に自分の薄い唇を合わせる。
すぐに唇を離しそっと頬を撫でる。
やっと見つけた、そう呟いた日向は柔らかい表情をしたまま近くにあった鋸に手を伸ばした。


***

全身に激痛が走り、目が覚めた。
目の前には見慣れない石の壁があった、天井には裸の豆電球がゆらゆら揺れていた。
どこだろうココ、そう思いながら激痛の走る個所に視線を落とす。


「・・・なに・・・これ・・・」


膝から下が、つま先が、数時間前まであったはずの、そこにあるはずの自分の足がない。

膝には真っ赤になった包帯がきつく巻きつけられていた。

何かの間違いだ、目の錯覚だ、そう思って目を擦ろうと腕を上げる。


「うそ…」


嘘だと思いたかった。

上げたはずの腕の感覚がない。

代わりに激痛が走り目を瞑る。

見るのが怖い。

しかし、確かめなければいけなかった。
自分に何が起きているのか。

首を横に向け腕を上げる、ゆっくりと目を開く。



「ぃ…ぃゃ…、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」



目の前の光景に叫び声を上げた。
受け入れがたい現実がそこにあった。
肘から先がなく、足同様に赤く染まった包帯。
うそだ、うそだ、うそ、うそだ、何かの夢だ酷い夢、そうだ、この痛みだって、きっと。
言い聞かせるように胸の中で唱えるが、何度瞬きしても目の前の状況は変わらなかった。
全身を走る痛みだって消えない、むしろ気付いた瞬間から痛みが増す一方。


「誰か…誰かいないの!!」


悲痛の叫びが部屋の中に響いてすぐに無音になる。どこかも分からない場所。どうやって連れてこられたのかも分からない。恐怖と激痛で頭がおかしくなりそう。

とにかく外に出れば声が届くのではないかと思い、体を扉の方に向ける。バランスが取れずぐらりっと傾く体。支えることが出来ない体が床に叩きつけられる。痛みに堪えながら短くなった手足を使い徐々に扉に近付く。

ガチャリッと鍵が開く音がして扉に顔を向けた。


「よぉ、起きたか…」


ゆらりと現れた男は片側の口角をあげて妖しく笑っていた。


「あの、たすけて……」


助けを求めたはずだった、しかし彼はしゃがみこみ、床に倒れる私の髪を乱暴に掴み顔を近付けた。


「いっ、たい…」
「助けなんて来ねぇよ」
「え……」


言葉を失った。
この人は何を言ってるの?助けてくれるんじゃないの?回らない頭で考えるが痛みでそれどころではなくなる。
男は「そろそろ薬が切れるか…」と呟き床に転がった体を抱き上げた。
外に出れる、と思った体は数メートル前の元の位置へと戻される。


「どうして……」
「あ?」
「どうして……、こんな事になってるの……、帰りたい……、帰して……帰してよ!!」


自然と流れる涙。声を荒げて目の前の男に叫ぶ。
男は表情ひとつ変えなかった。


「惨めだなぁ……」


ただ静かに口にした言葉は残酷なものだった。


「てめぇに帰る場所なんてねぇよ」



***

彼女は何も覚えていない。
幼い時に日向と出会ったことも、親父さんが九龍に狙われていることも、家に火を付けられて逃げ遅れた所を日向が連れて来たことも。
幼き頃に本家の集まりで出会った以来日向は彼女に恋焦がれていた。

自由になった足で彼女に会いに行く、というただの気まぐれだった。気まぐれのはずだった。幼き頃の記憶で彼女の家に向かうとそこは真っ赤な火の手が上がっていた。『中に、中にまだ娘さんが!』どこからか聞こえた声に舌打ちをして人混みをかき分けて火の海へと飛び込んだ。
幸い玄関近くで倒れている彼女を担ぎ、外に出ると救急隊員に足止めをくらうが構わず拠点へと足を進めた。
久しぶりに会った彼女は幼き頃に見た時よりも見違えるほど綺麗になっていた。。しかし、恋焦がれていた相手の顔を間違えるはずがない。
人混みをかき分けていく中で聞こえた『火元の家の夫婦、まだ見つからないって』という言葉。
彼女には、もう帰る場所はない、それならば安全な所で、自分の見える所で、そこから逃げ出さないように。
日向が胸の中で唱えた言葉は歪んだ愛情表現となり、彼女に手をかけた。



***


『帰る場所がない』
その言葉で自分の家が火事になったことを思い出す。
それじゃあ、お母さんは?お父さんは?
考えただけ涙が溢れ、嗚咽が出る。
頭には、どうして、どうして、と疑問の言葉が浮かぶ。
私はこれからどうしたらいいの。
短くなった手足。
痛む全身。
見たことのない部屋。
叫んでも外には届かない叫び。
知らないはずなのに、私の頬を撫でてニヤリと笑う彼の顔が幼き頃にあの子に似ていた。


(2017.11.16)
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