連れ出してくれたのは軽くも優しい男でした(雨宮雅貴)
乗り気のしない会社の飲み会の席

つまんないなぁって思いながら愛想笑いをする自分に嫌気がさす。
店内はそれほど広いわけではなく、少し体を動かせば通路に体を出してしまう。そんな中、「店員よんでー」という先輩方の声を聞き通路側に体を出した。
すると、運悪く通りかかった人とぶつかってしまい相手の持っていたグラスの中味を零してしまった。



「あぁぁぁぁっ!ごごごごごめんなさい!!!」



慌てて謝るとぶつかった相手の男性は「あ〜、いいよいいよ」とへらりと笑う。
後ろでは酔っ払った先輩達が「なにやってんだよ〜」なんて野次を飛ばしてくる。


彼の濡れたジャケットを見て、「でも、」と声を出す。
すると彼は、すっと顔を近付けてきた。
綺麗な顔に思わず釘付けになる。



「じゃあ、お詫びとして別の店に行かない?」
「……えっ!?」




驚いて男性の顔を見ると更に声を小さくして



「飲み会、つまんないんでしょ?」



二人にしか聞こえないように耳打ちをする。


ね?とウィンクする彼にドキリッとして素直に首を縦に振る。



「決まり、」



彼は私の肩を掴んだ



「すみませんねぇ、この子に弁償してもらうんでお借りしますね〜」



と先輩達に伝えると彼は私のバッグを持ち、手を掴む。



「お、お先失礼します!」



酔っ払いながらも心配そうに見ていた先輩方に頭を下げて立ち去る。

外に出るとひやりとした風が頬を撫でる。



「さて、どこ行こっか?」



彼は優しく問い掛けてくる。
彼の名前を聞くのは次のお店に行ってからだった。



(2018/1/18)
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