逃亡劇(轟洋介)
お題箱より【彼女をお姫様抱っこして逃げる轟くん】
「うわぁぁぁぁぁ」
「無理無理無理無理!!!」
「逃げろぉぉぉ!!」
「すっげぇ!まだ追ってくる!」
「村山ぁ!笑ってないで前見て走れ!!」
どうしてこうなった。
轟洋介は心の中で呟きながら後ろから迫りくる恐怖から逃げるべく足を速めた。
* * *
元はと言えば、定時の村山がどこからかもらったチラシを付きつけて
『ゾンビ出るお化け屋敷だってー、行こうぜ―』そう言って何故か鬼邪高校全日3人と定時3人が呼び出された。
それと、轟の彼女が呼び出された。
何故呼んだのかを問えば『たくさんいた方がたのしーじゃーん』ということらしい。
それから7人でお化け屋敷の入場券を支払い、中に入る。
建物一件分を丸々使ったという凝っているお化け屋敷。
暗闇に一歩ずつ進むにつれて彼女は轟の裾を強く握り締める。
辻と芝マンは「やべぇ」「え、出る?出る?」とか怯えているし
関は「うわぁぁぁっ、今そこ!!動いたっすよ!!」と大声を出すし
それに対して村山が関の頭を叩き「うっせぇよ!」と言ってるし
後ろを歩く古屋は溜息を付いていた。
「大丈夫?」
「な、なんとか…」
辺りをキョロキョロ見渡しながら歩く彼女が気になり声をかける轟。
それに少し怖がりつつも返事をする彼女。
辺りは薄汚れたボロ布がかけてあったり、壁に赤いペンキで何か文字のような落書きまで書いているという凝りようだ。
「おまえらー、イチャイチャしてんじゃねぇーよー」
そう言って振り返り、後ろ向きで歩く状態で轟カップルに声をかける。
うるせぇと轟が返事する。
それまで笑いながら歩いてた村山だが、スッと笑顔が消えピタリと足を止める。
突然止まるものだから危うくぶつかりそうになる轟。
一番後ろを歩いてた古屋も彼女の方にぶつかり「悪い」と謝っていた。
前を歩いていた辻、芝マン、関も気付いて足を止めて振り返る。
「どうしたんですか、村山さ・・・」
振り返って声をかけた関の声が止まる。
辻と芝マンも言葉を失い、顔が真っ青になっていた。
なんだ?と不思議に思う3人。
そして、村山が3人の後ろを指差して口を開く。
「さっき、あんなところに人居たっけ・・・?」
「えっ」と声を出して後ろを振り向くと、今まで歩いてきた通路にゆらゆらと揺れている人影が見える。
つい何分か前に歩いたときは何もなかった。
その人影はゆっくり、ゆっくりと7人に近付いてくる。
じりじりと後ずさりする7人。
「近付いて来てる・・・よね・・・?」
「あぁ…」
彼女が震える声で確認をする。轟も同意をする。
「なぁ、その後ろにもなんかいるんじゃねぇか、あれ」
古屋の声に暗闇の中、目を凝らしてみると確かに他にも数人の人影が徐々にこちらに向かって歩いてきている。
「なんか、やばい感じしてねぇか?」
「動き早くなってないか?」
辻と芝マンが冷や汗をかきつつ後ろに下がる。
確かに追ってくる影はどんどん距離を詰めてくる。
お化け屋敷、と言うことで仕様だと分かっているはずなのに、全員が直感で『このままではヤバい』と感じ取る。
「っ、走るぞ!!」
「え、あっ、うんっ!」
轟が彼女の手を引いて走り出した。
それを引き金に他の5人も走り出した。
すると、後ろの足音も早くなった。
チラリと後ろを見た古屋が汗を垂らしながら叫ぶ。
「やべぇぞ!あいつらも走って来てやがる!!」
* * *
そして今に至る。
角を曲がったり、階段を下りるがまだ後ろの集団は追いかけてくる模様。
決まった順路にか道はなく、隠れるところなんてない。
ひたすらゴールを目指してする無しかない。
「あっ」
階段を降り切って、廊下を進もうとした時、彼女が躓き小さい声をあげて廊下に転ぶ。
転んだ拍子に手を離してしまった轟は舌打ちをして彼女に駆け寄る。
彼女の膝は擦りむいて少し血が出ていた。
彼女は痛みで眉をしかめていた。
「立てる?」
「うん、大丈夫、だと思う…」
手を差し出し起き上らせるがヒョコヒョコと片足を庇っている彼女。
階段を下りてくる足音が近付く。
廊下の先では先に行った5人が「早く!追って来てるぞ!」と叫ぶ。
「洋介、先に行って。私は大丈夫だから」
ドラマのような台詞を吐く彼女。
そんな彼女に、轟は苛立ったように小さく「ったく」と呟き
彼女の片腕を自分の首に回し、自分の腕を彼女の腰と膝の後ろに回し抱き上げる、俗にいう【お姫様抱っこ】の状態。
彼女は驚きつつも轟の首に回した腕に力が入る。
「よ、洋介、大丈夫だから!!降ろして!!」
「うるさい、走れないなら走れないって言えばいいだろ」
「走れるから!降ろして!」
「あんまりうるさいと口塞ぐから」
「〜〜〜っ」
真っ赤になる彼女を抱きかかえて廊下を走る。
5人に追いつくとニヤニヤした全日組が「ヒュー、やるじゃーん」と茶化してくる。
辻と芝マンはそんな轟カップルのやり取りは見慣れているため
「お前らそんなイチャイチャしてないで早くしろ!」「後ろ!来てるぞ!!」と叫んでいる。
後ろを振り向くとさっきよりも人数が増えているではないか。
おいおい、マジかよ!!と7人は心の中で叫んでまた長い廊下を走り出した。
(2017.10.22)1/22
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